九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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姿勢・動作に着目しアプローチを行なった変形性膝関節症の一症例
-実用歩行能力向上を目指して-
*高木 庸平
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p. 46

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抄録

【はじめに】
変形性膝関節症(以下膝OA)は,臨床でもよく遭遇する疾患の一つである.膝OAを含む,変形性関節症における身体の動きは,正常から逸脱した動作によって生じたもので,身体の動きは「疾患の原因」となるのではないかと考えられている.このことから,膝関節に生じる機械的ストレスを軽減できる姿勢・動作の獲得,荷重時における姿勢制御方略を改善することが根本的な治療になると言われている.そこで今回,膝OAを呈し保存療法中の一症例を担当し,立位姿勢の正中化・歩行動作時の内側面への応力集中の回避を目的にアプローチを行なった結果,膝関節痛の緩和並びに実用歩行能力の向上を果たした症例をここに報告する.
【症例紹介】
68歳 女性 身長155cm 体重65kg.職業:主婦,以前は自営業(鶏の処理業者).診断名:両側膝OA(H16.4.20 Grade:2から3レベル).膵頭部腫瘍・右腎腫瘍術後.合併症:糖尿病,右房内血栓症.キーパーソン:夫・娘.発症前能力:独歩(入院中は車椅子自立).要望:歩けるようになりたい.ニーズ:一本杖歩行自立,身辺動作能力向上

【理学療法評価】
*初期評価(H17.7.1)を記載 I.日常生活動作移動(歩行器・車椅子),更衣・整容・排泄(一部介助)入浴(全介助から一部介助),食事(自立) II.姿勢・動作観察立位:内反(4.0cm),屈曲傾向,偏平足,左後方重心荷重分布(Rt)30.0kg (Lt)35.0kg歩行:Lateral Thrust(+) 左右体動(+) 跛行(+) 10m歩行(約15秒) 歩行耐久性(約132m) III.疼痛安静時・運動時共に膝内側部に疼痛有り.特に起立・歩行時に左膝内側部に疼痛増強(VAS:7/10) IV.周径大腿10cm (Rt)43.0cm (Lt)42.0cm下腿最大(Rt)35.0cm(Lt)34.0cm V.関節可動域測定膝関節屈曲:(Rt)70°P (Lt)65°P 伸展:(Rt)-10°P (Lt)-10°P VI.筋力測定腸腰筋(Rt)3 (Lt)3 大内転筋(Rt)3 (Lt)3大殿筋(Rt)2+(Lt)2+ ヒラメ筋(Rt)3 (Lt)3前脛骨筋(Rt)3 (Lt)2+ 腹筋群 2レベル VII.ストレス検査:Knee-in-toe-out(+)
【問題点】
1.立脚初期のLateral Thrust・内側応力の増大
2.アライメント不良に伴う関節剪断力増大・適合性不良
【理学療法プログラム】
訓練前後の物理療法(ホットパック,アイスパック),関節周囲筋の再教育に伴う姿勢制御適正化並びに関節適合性改善,実用歩行練習並びに病棟生活指導
【結果】
疼痛緩和⇒アライメント改善に伴う荷重分散能力向上⇒筋再教育に伴う歩行距離拡大(一本杖10m歩行15秒,歩行耐久性88m可能)⇒実用歩行能力向上
【考察】
本症例は,立位前額面での左後方重心に加え,単脚支持期においても床反力作用点と身体重心の位置関係が前額面内において一致していない為,身体重心が遊脚側へ回転,床反力ベクトルが膝関節中心の遠くを通過し両膝内反ストレスが増大した状態であった.このことから,立位・歩行時の不良姿勢に伴い立ち上がり,歩行などの抗重力動作において立脚初期の外側安定性を供給する大腿広筋群・大殿筋・中殿筋・大内転筋・前脛骨筋等の筋活動が得られにくい状態となっていたことが考えられる.そこで,入院当初から立位・歩行時の姿勢・動作に着目し,継続的にアプローチを施行した.結果,1)立位時の荷重不均等な状態から左右荷重量が均等に分散され,2)歩行においても身体重心位置を上方に持ち上げることができず,床反力が減少しない内反ストレスの増大した状態から,遊脚時に下腿の前方振り出しの改善,踵接地直前の足部運動方向が前外側に変化したことから床反力は減少し,内反ストレスの軽減を導き,疼痛緩和・実用歩行能力向上へと至ったと考える.今回,立位・歩行姿勢に着目し,アプローチを実施したことで実用動作能力の改善が得られた.今後は,在宅における生活指導並びに効果的な自主訓練課題の検討に繋げていきたい.
【参考・引用文献】
1.PTジャーナル第39巻第5号・2005年5月
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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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