抄録
【目的】
Hart Walker(以下HW)は歩行のために一定の運動を獲得しなければならず、子ども達は装着時からすぐに歩行できるわけではなかった。歩行獲得に向けて運動を学習していかなければならず、その適応や効果を判定する必要があった。しかし、対象が歩行可能であることを条件とする一般的な歩行評価や標準化されたGMFMやPEDIなどの評価システムでは子ども達がHWに適応していく過程や運動の質が評価できず十分な対応ができなかった。そのため、効果判定は我々の課題とされており、HWでの立位・歩行能力の評価システムとして『移動能力分類システム』を作成し、実際に評価を行ったのでここに紹介する。
【方法】
HWを1年以上使用し、その経過がVTRに記録されている脳性まひ児44名《痙直型四肢麻痺20名・痙直型両麻痺19名・アテトーゼ型(混合型も含む)6名》の立位及び歩行場面をVTRにて確認。VTRから特徴的であり、かつ共通する子ども達の運動様式や歩行機能を抽出し、評価項目を決定した。評価項目は大きく分けて、立位での支持性や運動を把握するための「立位機能」、歩行時にどのように運動をコントロールしているかを把握する「歩行コントロール」、歩行距離や速度などを把握するための「歩行機能」の大項目に分類される。そしてこの大項目はそれぞれ「立位機能」では「支持性・頭部、体幹の運動」に、「歩行コントロール」では「下肢の運動・体幹の運動・上肢の運動」に、「歩行機能」では「歩行範囲・直進性・歩行速度・連続性・歩幅」の小項目に分類される。能力段階として小項目を5段階に段階分けし、合計10項目の評価項目を作成した。
【結果】
この評価システムを用いて15名の脳性まひ児《痙直型四肢麻痺5名・痙直型両麻痺5名・アテトーゼ型(混合型も含む)5名》の評価を装着時・半年後・一年後に行い、1年間の経過を評価した。結果、1年間の経過の中で多くの子ども達において変化が認められた。また、評価にこのシステムを用いることで子ども達を評価する際の視点も統一されてきており、HWに携わる各セラピストが共通した問題点や課題の把握を行う事が可能になってきている。
【考察】
今回、HW独自の評価システムとして『移動能力分類システム』を作成した。装着、調整に専門的な知識や技術を要し、その機能と構造から様々な効果が期待されるHWにおいて共通した評価を行うことでセラピストの視点が統一され、共通理解が可能になってきていると実感している。また、評価が容易に可能なこのシステムは経過を追って評価しやすいことで、効果判定として使用することが十分可能になるものと思われる。今後はGMFCSレベル別のデータやタイプ別のデータを集めることにより、適応や予後予測、そして、調整マニュアル作成に役立てていきたいと考える。