九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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手術前後の評価指標
運動機能レベルの高い児に対して
*宇戸 沙織
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p. 68

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抄録
【はじめに】
脳性麻痺児において股関節脱臼予防等の目的で手術を行い、学校などへの社会復帰を早期に行うには少なくとも術前の運動機能レベルをいつの時点で再獲得できるかといった予後予測が必要になる。今回、股関節脱臼予防のため、足関節背屈可動域及び歩容を目的に腓腹筋などの筋延長術を施行した脳性麻痺児の理学療法を経験した。この症例に対して術前の運動機能レベルを再獲得できた時期を確認するために各種の計測を行なった。その結果、指標とした計測値によって異なった傾向がみられたので報告する。
【症例紹介】
6歳女児。診断名:脳性麻痺(痙直型三肢麻痺)。GMFCSレベル1
【評価方法】
手術前(以下P)・手術後2週間(以下2w)・4週間(以下4w)・2ヶ月(以下2M)に対して評価〔粗大運動能力尺度(GMFM)・子どもの能力低下評価法(PEDI)・ROM・筋力・筋断面積・シャトルウォーキングテスト(SWT)〕を実施した。
【評価結果】
GMFM:臥位と寝返(P→2w→4w→2M:44点→49点→49点→49点)・立位(P→2w→4w→2M:34点→29点→32点→34点)・走行、走行とジャンプ(P→2w→4w→2M:61点→61点→64点→66点)(記載以外は変化なし) PEDI:移動 機能的スキル(P→2w→4w→2M:51点→30点→48点→51点)・セルフケア 介助者による援助(P→2w→4w→2M:33点→31点→34→36点)(記載以外は変化なし) 筋力:左膝関節屈曲筋(P→2w→4w→2M:3.2→1.6→3.0→3.6)、左膝関節伸展筋(P→2w→4w→2M:3.6→2.4→6.0→5.6)、左足関節背屈筋(P→2w→4w→2M:2.5→1.3→2.4→4.8)、左足関節底屈筋(P→2w→4w→2M:3.0→2.2→2.9→1.3)(単位kgf) 筋断面積:左前脛骨筋(P→2w→2M:61.55→54.60→61.30)、左下腿三頭筋(P→2w→2M:4.04→2.98→4.26)(単位cm2) SWT:VO2max(P→2w→2M:9.69→7.69→10.94)(単位ml/kg/分)
【考察】
 評価結果より約2Mで術前の運動機能レベルを再獲得できることが予後予測される。  GMFM・PEDIに関しては、筋力・筋断面積・SWTと違い、症例児の運動機能レベルが元々高いため点数の変化は1・2点と小さい。そのため、今回のような運動能力レベルの高い症例児に対しては、術前後の評価の指標にはならないのではないかと考えられる。また、筋力・筋断面積・SWTは、大きな変化を認めており、運動機能レベルの高い児に対しても、手術前後の評価の指標とできるのではないかと考えられる。このように、運動機能レベルの高い症例児の術前後の評価は、標準化されたGMFMやPEDIよりも筋力や筋断面積、SWTの方が指標とできるのといえるのではないだろうか。 しかし、評価によっては4w・6wと評価していない期間が存在していること、また、症例数が少なく統計的なことがいえないことは反省すべき点である。 今回は、筋力に関しては簡易な測定を行っているため、主観的な評価になってしまっている。また、SWTに関しても小児に精確な評価が行なえるか疑問が残るところである。これからは、評価の信頼性・妥当性を追求していくとともに、今回の症例をもとに他の症例を積み重ねていき、今後につなげていきたいと考える。
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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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