抄録
【はじめに】
近年、重度な障害を持つ子ども達が増えてきており、その子どもと家族を援助する上で理学療法場面のみの治療では不十分であり、特に非対称変形などを予防するためには日常生活での姿勢ケアが重要であるとされている。英国のPTであるPountneyらは重度な障害を持つ子どもに対して、治療から器具作製まで一貫した日常生活場面で姿勢ケアのためのアプローチを行っており、その理論的基礎研究も同時に行っている。今回、彼らのアプローチの背景となっている姿勢制御の発達評価であるChailey 姿勢能力レベルについて学習し、当園の子ども達への治療アプローチへと応用した。その過程の中で若干の知見を得たのでここに報告する。
【Chailey 姿勢能力レベル】
正常乳児の初期姿勢制御機能の発達研究結果に基づいたものであり、各姿勢ごとに数段階のレベルに分類されている(背臥位6段階、腹臥位6段階、座位7段階、立位8段階)。この分類方法は従来の発達指標としての評価ではなく、姿勢制御の発達として分類されている。つまりそれぞれの段階における体重負荷領域の変化、生体力学の変化、体幹・頭部・四肢の位置と運動の変化を詳細に観察し、分類したものである。また正常児において臥位と座位の関係性の調査も行われており、例えば自立座位が持続する(レベル3)ためには、臥位において一定の能力(レベル4)に達する必要があった。このような新しい正常発達の体系は姿勢・運動障害を持つ子ども達のための評価や姿勢保持装置を初めとする治療にとって有益な臨床手段になり得るとされている。
【方法】
1.英国で出版されている著書「The Chailey Approach to Postural Management」の翻訳作業を分担して行い、正常姿勢制御発達の理解と評価チャートの作成を行う。2.学習会においてChailey 姿勢能力レベルの各姿勢段階について十分な共通理解を促す。3.当園に通う10名の脳性まひ児の各姿勢を3分間ビデオ撮影し、多職種における評価を行いながらチャートに記載していく。4.評価結果と子どもの生活状況に基づき、日常場面での具体的な姿勢ケアプログラムを行う。
【結果・考察】
我々療法士が姿勢制御の発達としてChailey 姿勢能力レベルを理解することは、1.療法士の経験を問わず、子どもの姿勢・運動を分析する際に共通した視点となる。2.実際の個別治療・日常場面での姿勢ケアなどプログラムを進めていく際に、具体的な対策のヒントとなりうる。3.重症児のゆっくりとした小さな変化を捉えることができ、治療の効果判定手段の1つとなる。今後、より細かなプログラムを提供するために、脳性まひ児の臥位・座位・立位の各姿勢にどのような関係があるかについても研究していきたい。