抄録
【はじめに】
今回、関節リウマチとポリニューロパチーを呈した患者より「自分で楽にボタンを着けたり、外したりしたい。」との要望を受けた。しかし、既存のものではボタン を着けることのみ可能で、外すこともできる兼用のものは、臨床の現場において耳にしたことがなかった。そこでボタンを外すこともできる着脱兼用に着目し、自助具の作成を試み、1症例ではあるが講評であったので報告する。
【症例】
1. プロフィール:67歳女性。 診断名は、関節リウマチ、DMによる多発性神経炎。手指機能の評価に用いる総自動関節運動域(TAM・正常値260°):右側 (第2指100°、3指115°、4指105°、5指140°)。左側(第2指190°、3指200、 4指190°、5指180°)。MMT:左右全指において屈曲、伸展3。
2. 自助具なしのボタン着脱においては、時間をかければ何とか可能ではあるが、 現状では、ほぼ全介助にてボタンの着脱を行っている。今後、進行性疾患である 関節リウマチからの機能障害の拡大とDMのコントロールの不良から多発性神経 炎の増悪も考えられ、将来把持能力の低下が予測できる。
【ボタン着脱時の洋服の条件】
パジャマで、生地が綿100%、前開きタイプで左側が上であり、ボタンは全部で5 個。ボタンの大きさは直径1.7cm、厚さ2.5mm、ボタンホール長さ2cm。
【自助具の作成】
1. 作成の主眼:今後の機能低下を踏まえ、1)自助具の把持力、特に回転力に対する耐性力(トルク)の弱さから、握り部分を太くする。2)ボタンの種類に対応できるもの。3)ボタン着脱兼用のもの。
2. 製作:以上の条件から、握り手部分と針金先端部分を各2種ずつの材料を選定し、組み合わせにより計4種類の自助具を製作した。
1)握り手部:a 直径2.5cm木材。b 歯科材料(レジン)。bの材料、製作過程 は第25回本学会での村上の発表を参考にし、同一のものとした。
2)針金先端部分:a 鋭角状。b ダイヤ型の凸状。a、bの製作過程について以下に述べる。
(1)材料:歯科用ステンレス針金
(2)製作方法:針金をU字型に曲げて、長さを今回規定したボタンの直径約4倍、幅 はボタンの厚さの約5倍にする。U字型の曲がっている部分のボタン1個分の長さを 鋭角状及びダイヤ型の凸状にする。
【結果と考察】
患者本人の感想は、握り手において「歯科材料の方が、軽くて握りやすくて、すべらないので使いやすい。」また、針金先端は「ダイヤ型の凸状は、針金が細くなっているところにボタンの糸が軽く引っかかり、着脱ともに楽にできた」と講評であった。また、客観的にみても回転トルクの点においては、歯科材料(レジン)の方が弱い把持力でも持ちやすく優れていた。
針金先端の形状に関しては、ダイヤ型の凸状のみボタンを外す際に糸が軽く引っかかることで、全介助だったのが約5秒で一個のボタンを外すという行為を可能にした。以上のことから今回のボタン着脱兼用という試みは1症例ではあるが、成功したといえるのではないだろうか。しかし、感想の中で「ボタンの位置によっては、外しやすい高さと向きがある」との指摘も受けた。このことから今回の反省点として、針金全体が緩やかなカーブをもつ構造とするような考慮が必要ではないのか等の問題点が残った。今後の課題としては、今回の反省点も踏まえ、変形のタイプ、男女の洋服による前開きの違いなどについて、更に症例数を増やして研究をしていきたい。