抄録
【はじめに】
母指IP関節は、力の作用点として重要な役割を担っており、疼痛・変形・不安定性は、ピンチ力や巧緻性の低下を引き起し、日常生活動作に障害をもたらす。また、変形は、美容面での問題となることが少なくない。今回、両側母指IP関節の動揺性が強い症例に対し、スプリントでのアプローチを行った。その問題点を考察し、今後の課題について報告する。
【症例紹介】
70代女性、利き手:右手、職業:専業主婦、現病歴:数年前誘因無く発症。主訴:見た目の改善。平成18年11月29日、両側母指IP関節不安定症と診断され、平成18年12月8日に特に変形の強い左母指に対し、スプリントを作成。
【作業療法評価】
痛み(-)腫脹(-)熱感(-)動揺性(+)橈側偏位:右15度、左40度。IP関節屈曲40度。現時点で日常生活上困っている点は特にはないが、ピンチ力、巧緻性の低下がある。
【治療選択】
関節の動揺性に対して、靭帯再建術や関節固定術などの手術という選択肢があるが、痛みもなく日常生活動作において大きな支障もないということから手術は望まれなかった。そのため、スプリントによるピンチ動作の獲得と美容面の改善を試みた。最初の2週間は、美容面に着目してアクアチューブ1.6mmで8の字スプリントを作成。3週目から機能面に着目してアクアプラスト1.6mm穴あきを用いてマウス型スプリント作成。どちらも可及的にアライメントを整えた後、15度屈曲位3点固定にて8週間経過観察を行った。
【治療経過】
2週経過後、スプリントがチューブの為ピンチ動作に支障をきたし、マウス型に変更。スプリント装着時には、橈側偏位10度で固定され、ピンチ動作の改善を図ることができたが、洗髪時に髪に引っかかるなど日常生活上に支障をきたし、除去している時間が長くなった。
【考察】
症例は、変形は認められたが、強直・痛みはなく、動揺性があるためピンチ動作に支障をきたしていた。そこで、スプリントにてアプローチを行った結果、装着することにより、橈側偏位10度で保たれ、ピンチ動作と美容面の改善となり、本人の満足も得られた。しかし、日常生活動作では支障となり、固定用スプリントとしての効果を十分に発揮することができなかった。原因として、日常生活上使用頻度の高い母指の固定にアクアプラストの穴あきを用いた為と考える。さらに、マウス型スプリントは、容易に着脱出来るものの皿洗いなどで抜けやすいという問題点が挙げられた。スプリント作成時には、ピンチ動作の改善も見られたが、実際に日常生活にてスプリントを装着する事により、使用制限を余儀なくされるため、常時固定を行うことは、困難であると思われた。今回のような症例に対してのスプリント療法は、日常生活をいかに制限することなく必要最低限の固定で使いやすくデザイン性のあるスプリントを検討する必要があると考えた。