抄録
【はじめに】
今回、趣味活動の絵画をあきらめ、身体機能回復に固執し、ADLが自立レベルの症例に対し訪問リハビリテーション(以下、訪問リハと略す)を実施した。潜在的ニーズを考慮し、症例に適した方法を活用したことで、QOLが拡大し日本画の出展に至った症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
脳出血後左片マヒ、60代、男性。麻痺レベルは軽度だが、動作に伴う筋緊張亢進を認めた。歩行は分廻しを呈しているが屋内独歩、屋外一本杖自立レベル。ADL自立(Barthel Index100点)。発症前の性格は外向的で自尊心が高く、趣味は絵画(日本画)とスキューバダイビングであった。発症後はパーソナルコンピューター(以下、PCと略す)操作、妻との外出などが主だった。
【経過】
第1期(訪問開始):機能障害と生活障害への不安と焦りがあり、治療方法に困惑、インターネットにて様々な治療に関する情報を検索するが整理できず混乱していた。そこで運動目的、方法、注意点を説明し、リハビリテーションプログラムを立案・実施したが忘れることが多く、運動継続困難であった。訪問開始時は絵画活動に対してあきらめ感があった。第2期(展開):元来、利用していたPCを手段として訪問日に運動指導内容、バイタル等を継続して記録するように促した。訪問日以外はメールの送受信にて記録確認、現状把握を行ったため運動継続可能となり、運動への理解が深まり運動目標の共有に至った。この頃より、治療に関する検索が減少し、メールの返信も主体的な表現が多くなり、絵画への取り組みも見られてきた。第3期(活動):オープンコミュニケーションを用いたメール送受信へ変更した。検索は美術展開催情報が主となり、さらに自分の絵画に対する他者評価を切望。評価を受ける場としてブログの立ち上げを提案、主に絵画活動に対する記事の投稿を促した。ブログに評価コメントがあり、県内美術展出展を決意し、申込みなど一人で行った。身体機能回復に対しては、「運動はコツコツ続けます。」とコメントが聞かれた。
【考察】
あきらめ感の強いケースに対し、自己表現しやすい手段を選択し方法を考慮した。そのことで自己表出が出来るようになり、絵画出展に至ったと考える。生活に対する考え方は、多種多様である。リハビリテーションの目的は、その人らしい生活を支援し、その人を取り巻く様々な因子を考慮したアプローチをする必要があることを再認識した。