抄録
【はじめに】
老人性認知症疾患治療病棟(以下、治療病棟)では、精神科的治療やケアによって精神症状や問題行動が安定又は改善したにも関わらず、退院に結びつかないケースを経験する。
今回、家族・患者の関係性維持を意識し、早期から在宅復帰を想定した生活機能回復訓練をチームで行った結果、自宅退院が実現したケースを経験した。本症例を振り返り、治療病棟における在宅復帰に向けた関わり方について考察する。
【症例紹介】
86歳男性。診断名:脳血管性認知症、パーキンソン症候群。キーパーソン:妻。現病歴:平成18年11月頃より、妄想症状出現。徐々に精神状態の無気力さ、移動時のふらつきも出現した為、同年11月6日に当治療病棟へ入院。
【初期評価】
身体機能面は、ROMは頚部・体幹の伸展、回旋制限中等度認めた。精神機能面は、JCS II-20、HDS-R 8点、痴呆性老人の日常生活自立度Mレベル。パーキンソン症状による寡動・無動状態が出現。ADLは、セッティングや一部介助を要した(BI 42点)。又、起居や移動動作での打撲や転倒に対するリスクが高かった。家族のデマンドは「状態がよくなれば帰らせたい」であった。
【経過】
家族のデマンドを考慮し、カンファレンス(以下、カンファ)を入院2日目に実施。長期目標は在宅復帰を挙げ、当面の目標を(1)日中の覚醒レベルの向上(2)本人のできる能力や活動性の向上(3)起居・移動時の転落・転倒リスクの軽減としてチームアプローチを開始した。
28日目には、家族より外泊の要望があり、PSWを介してケアマネと連携し、情報収集を行なった。30日目に2回目のカンファを実施し、外泊に向けた排泄・更衣動作の介助量軽減と転倒リスクに対応した動作指導の実施をチームで確認した。78日目には、家族同席のもと、3回目のカンファを実施。自宅退院前にショートステイを利用し、自宅の住環境調整や家族への介護指導、内服管理等、最終指導することを確認した。入院より131日目に治療病棟を退院した。ショートステイ退所後、305日経過しているが、自宅ではデイケア等を利用し、家族との同居生活が継続出来ている。
【最終評価】
身体機能面は、ROMは頚部・体幹の伸展、回旋制限が軽度。精神機能面は、JCS I-10に改善、HDS-R 17点、痴呆性老人の日常生活自立度はIII。基本動作とADL面は病棟内での起居・起立・移動動作が自立した他、食事・排泄動作も自立した。(BI 80点)
【考察とまとめ】
今回のケースでは、家族のデマンドに沿い、段階付けてカンファを実施したことで、家族の心情を確認した形で治療計画の立案が出来た。また、カンファ毎にケアマネなど他施設のスタッフとの連携を行い、外泊の日時や退院先の決定などのプロセスを早期に調整出来た。
これらの取り組みが結果的に、早期の在宅復帰につながったと考える。本症例を通して、治療病棟から在宅復帰に向けては、早期の包括的なチームアプローチが有用であると改めて感じた