九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 101
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肘・肩の運動連鎖着目した作業療法の一検討
~外転動作における上肢帯の腕線(Arm line)に着目して~
*甲斐 竜太川嶌 眞人長部 太勇田村 裕昭杉木 知武楠本 美奈
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抄録

【はじめに】
 今回,右肘脱臼骨折・右橈骨頭粉砕骨折,右踵骨粉砕骨折を呈した患者を担当する機会を得た.肘の制限が肩の動作に影響し,肘の動きと肩の動きの連動性を運動連鎖と捉え,アプローチを行っていく中で変化が得られたので考察をふまえ報告する.
【症例紹介】
 30歳代男性,利き手は右手.高さ3~4mの所より足を滑らせ右側より転倒し受傷.OPE所見:肘は内外反の動揺性が強く,外・内側側副靱帯及び関節包は広範囲に断裂.アンカーにて固定・縫合した.圧潰された骨片を整復し,スクリュー2本固定.肘関節90°,前腕回外位にて固定.肘伸展と回旋動作は3週より開始.2週目よりファンクショナルブレース装着(屈曲フリー・伸展ロック).
【作業療法評価(OPE後3週)】
 ROM:肩関節屈曲115°外転80°内旋10°肘関節屈曲100°伸展-60°前腕回内-20°回外80°.座位姿勢は上半身重心が右側に変位,肩甲骨の外転・上方回旋の出現.外転動作90°では右肩甲骨が左に比べ挙上しており,外転動作の最終域では頸部の右側屈,右回旋も確認された.
【臨床推論】
 本症例は肘関節脱臼と橈骨頭粉砕骨折を呈し,橈骨頭の回転軸の破綻が生じ,肘関節の安定化機構が破綻していると考える.この為,前腕回内・回外動作制限が生じ,肩関節内転・外転による代償動作を行うことで運動連鎖の破綻が起きていると推察する.また踵骨の粉砕骨折を呈していることで重心の側方移動が困難となり体幹・上肢帯にまで運動連鎖の破綻が波及しているのではないかと推察する.
【アプローチ内容】
 上肢前面・背面にある浅腕線(Superficial arm line)・深腕線(Deep arm line)を意識し,リラクゼーションや各関節に対する関節可動域訓練(自動・他動),筋力訓練,上肢に対する動作学習訓練・指導を実施.
【結果(OPE後1年)】
 ROM:肩関節屈曲175°外転170°内旋75°肘関節屈曲140°伸展-5°前腕回内10°回外90°.座位姿勢は上半身重心が正中位へ改善しており,外転動作90°においては右肩甲骨挙上が改善された.外転動作の最終域でも右肩甲骨挙上や頸部の右側屈・右回旋が改善された.
【考察】
 Robertによると“肘の動きが失われることで,手を移動したり身体から離したりすることが制限され,上肢全体の機能を障害する”とされている.作業療法として肘に着目してアプローチを行い肘関節の屈伸の関節可動域が拡大されたが,動作を観察する中で肘と肩の運動連鎖の破綻が起きていることに気づいた.Thomasによると“肩・前腕・手の回旋能力には多数の渡り線(line)の切換が必要であり,これによって運動における可動性と安定性が増す”とされている.その為,腕線(Arm line)を意識した肘・肩の2側面からのアプローチを行うことで運動連鎖の改善ができ,肩への負担を最小限とした動作が行うことが可能になったのではないかと考える.また今後,日常生活を送る上で下肢の影響が上肢・体幹機能に波及することを考慮したアプローチが必要だと考える.

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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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