九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 118
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重篤な高次脳機能障害を背景とした排泄動作アプローチ
回復過程における中核症状の変化とその介入
*中畑 頼枝木下 美智子久保 拓哉渕 雅子
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抄録

【はじめに】
 今回、広範な脳損傷と共に重篤な高次脳機能障害を呈し、中でも排泄動作に困難を要す症例を担当した。回復期の関わりの中で患者の変化に応じた介入を行い、排泄動作の改善を認めたので経過と考察を加えて報告する。
【症例紹介】
 50歳代の右利き男性で、平成20年8月に右被殻出血を発症し左片麻痺、高次脳機能障害を呈した。CT所見では右被殻周辺を中心に前頭葉、頭頂葉にかけて広範囲な低吸収域が認められた。2ヶ月後より当院回復期リハビリテーション病棟にて6ヶ月のアプローチを実施した。〈OT評価〉身体機能はBr.Stage上肢2、手指2、下肢3、感覚は表在、深部覚共に脱失から重度鈍麻を認めた。高次脳機能は神経心理学検査より動作の抑制障害、注意障害、半側身体失認、左半側空間無視、視空間知覚障害を認めた。
【排泄動作の評価と治療介入】
 入院時は動作全般に性急さ、粗雑さを認め、移乗時はブレーキ忘れや下肢を下ろさず急に立ち上がろうとし、方向転換すると同時に着座しようとした。また下衣操作では立位保持が不安定なまま手すりから手を放すなど、突発的で順序性を欠いた動作がみられ転倒の危険性が高く制止を要した。この時期の中核症状として動作の抑制障害、注意障害と捉え、まず実際場面で一連の排泄動作を工程ごとに区切って行うように促した。加えて誤った動作には声掛けや徒手的な方法により修正を行い、次第に突発的行動は減少した。次なる問題点として、移乗時は麻痺側への押し付けが強く、運動方向の混乱があり、また下衣操作時は姿勢の崩れに対して全く気づく様子もなく、操作を繰り返した。この時期の中核症状は、半側身体失認、左半側空間無視と捉え、姿勢変換を中心とした訓練場面で麻痺側身体へ荷重刺激を行い、視覚的確認を促しながら自己身体への気づきを促した。加えて実際場面でも各工程にて環境と自己身体の相互に注意を向けながら正しい運動方向の誘導を行った。その後、下衣操作時の立位保持が安定し、動作を開始する際に外空間や身体位置の視覚的な確認を自ら行うようになった。さらに、より自宅の環境に適応するために視覚的手掛かりとして車椅子の設置位置をマーキングし、一連の動作手順を言語化して確認を行い、動作を開始するよう徹底した。また随時病棟スタッフと情報交換し、回復の変化に応じた介助方法や声掛けを伝達し、統一した関わりを図った。結果、車椅子の位置づけは声掛けを要するものの一連の動作はほぼ見守りにて可能となった。
【まとめ】
 今回、重篤な高次脳機能障害を呈した症例に対し排泄動作への介入を行った。回復期の過程の中で刻々と変化する状態に対し、中核となっている症状を明確に捉え適切に介入していくことが重要であると考える。また、病棟スタッフとの密な情報交換により、統一した意識を持ち、介入の連携を図ることでスムーズな実生活への汎化につながったと考える。

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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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