抄録
【はじめに】
今回、右膝関節外側半月板損傷の術後理学療法を経験した。階段降段時に膝痛が出現するためハーフスクワット時の動作方略に着目した。左右大腿骨前捻角の違いから骨盤後傾側方移動、回旋運動が出現し、体幹-骨盤-股関節正中位保持できないために膝関節疼痛出現。さらに大腿内旋-下腿外旋の膝圧縮回旋ストレスにより半月板損傷に至ったと考えアプローチを行った。結果、動作改善および疼痛軽減した症例を以下に報告する。
【症例紹介】
10代女性。BMI 23。診断名は右膝関節外側半月板損傷。2008年12月にバスケットボール中に右膝関節の引っかかり感出現し、直後より歩行時痛出現。翌年1月に関節鏡視下半月板切除術施行。X線所見はFTA173°、膝蓋骨外側変位、MRI所見なし。術中所見は完全型円板状半月板前・中節部に水平断裂あり。損傷部位を形成的に切除。尚、当院倫理委員会の承認および症例のインフォームドコンセントを得てから実施した。
【理学療法評価:術後3週目】
疼痛は階段降段やハーフスクワット時に右膝関節前面部。膝関節術創部皮膚滑走性低下。ROM(Rt/Lt)は股関節屈曲110/120、内旋45/50、外旋45/45。筋機能(Rt/Lt)は大腿四頭筋4/5、中殿筋4/4、大殿筋4/5、腸腰筋4/4。筋緊張は右大腿筋膜張筋、右大腿直筋、右脊柱起立筋の緊張亢進。グレイグテストはRt>Lt。立位姿勢は骨盤前傾右側変位、右股関節軽度内旋、脊柱は胸腰椎移行部での左凸側弯。ハーフスクワットは骨盤後傾右回旋、右側変位出現、脊柱左凸側弯増強、右股関節内旋内転、大腿に対する下腿外旋が出現。右膝術創部に疼痛。
【臨床推論】
本症例において右大腿骨前捻角が左側に比べ大きく、立位で骨盤右側変位、右寛骨前傾により股関節適合性を高め、左に比し右股関節は内旋位を呈している。またハーフスクワット動作初期より右股関節内転内旋、骨盤後傾右側変位、右回旋がみられ、対応するように上半身重心が左側へ移動し、脊柱左凸の側弯が出現していた。脊柱アライメント変化による下部体幹筋機能低下により骨盤安定性低下、動作時の骨盤後傾右回旋増大によって右股関節内転内旋が助長され、右大腿直筋、大腿筋膜張筋の緊張が高まり膝蓋骨が外側へ牽引され術創部が伸張、本症例における動作時膝術創部痛が出現したと推察した。また膝関節屈曲位で大腿筋膜張筋が収縮することで下腿内旋の動きを制動、ハーフスクワット時の右大腿内旋に対する下腿外旋が出現し、右膝関節圧縮回旋ストレスが増大したと推察した。以上の事から本症例において、右大腿骨の形態的特性から股関節筋機能の低下、骨盤不安定性が出現、重心下方制御時の膝関節痛、膝回旋圧縮回旋ストレスが発生したと推察した。
【アプローチ】
膝関節機能向上訓練、体幹機能改善訓練、股関節周囲筋機能改善訓練、立ち座り練習
【結果:術後9週目】
疼痛消失、筋機能は股関節周囲筋機能が改善され、立位姿勢は体幹正中化。ハーフスクワットは体幹正中位での動作が可能となり、右股関節内転内旋と大腿に対する下腿外旋が改善され動作時痛消失、膝関節圧縮回旋ストレスの軽減が図れた。