抄録
【はじめに】
呼吸介助は、換気を改善する手技として知られている。この呼吸介助の臨床的効果は、換気量を増加、胸郭の可動性と柔軟性の改善、リラクセーション効果などがあげられる。
現在、呼吸介助中の効果についての報告はあるが、呼吸介助後も含めその効果を検証した報告は少ない。今回、健常者に対し上部胸郭への呼吸介助を行い、呼吸介助中およびその前後の呼吸機能がどの程度変化するかを検討したので報告する。
【対象および方法】
対象は健常な男性10名とした(平均年齢21.5±0.7歳)。なお、本研究は、全ての対象者に対して説明し、同意を得て実施した。
測定は、呼吸介助中およびその前後の一回換気量(TV)、分時換気量(VE)、呼吸数(RR)と呼吸介助前後の肺気量(肺活量:VC、最大吸気量:IC、予備呼気量:ERV)を測定するために、スパイロメータ(HI-801、チェスト)を使用した。
呼吸介助は上部胸郭に対して行い、圧迫時に痛みや不快感がないことを確認した。また、対象者に対して呼吸介助時に意識的な呼吸を行わないように指導した。
対象者は肺気量を測定した後、ベッド上安静臥位を3分間行った後にVE、TV、RRを測定した。測定後、背臥位で3分間呼吸介助を行った。呼吸介助を開始して1分後と呼吸介助終了1分後にVE、TV、RRを測定した。その時、意識的な呼吸を確認した時は再度測定を行った。最後に、再び肺気量を測定した。
統計学的分析には、呼吸介助中およびその前後を比較するためにTukey法による多重分析を行った。有意水準は5%とし、それ未満を有意とした。
【結果】
呼吸介助前での比較では、介助中の一回換気量は介助前と比べ約1.5倍近く増加し有意な差がみられた。たが、介助後では有意な差は認められなかった。分時換気量では介助前と比べ介助中では54.0%増加し、介助後では23.5%減少し、ともに有意差を認めた。呼吸数は呼吸介助前と比べ介助中は4.8回の減少、介助後では2.5回の減少を認めともに有意差が認められた。また、肺気量は呼吸介助前、呼吸介助後は有意な変化が見られなかった。
【考察】
上部胸郭への呼吸介助によりTV、VEが増大し、呼吸介助後のRR、VEを減少させることがわかった。これは呼吸介助中のVE増大によりPaCO2が減少したことに加え、胸郭弾性力の利用した吸気作用によりリラクセーション効果が生じ、換気が抑制されたことが考えられる。
また、今回、呼吸介助により胸郭柔軟性が改善されることで、肺気量位に及ぼす影響についても検討を加えたが、有意な変化は生じなかった。今回の結果における呼吸介助は上部胸郭に対してしか行わなかったので、今後は下部胸郭の呼吸介助を含めて検討していきたい。