抄録
【はじめに】
臨床場面において、肺炎後廃用症候群患者が入院経過中に肺炎などを繰り返すケースをしばしば経験する。肺炎再発はADL 低下や全身状態の悪化を来たすといった悪循環に陥りやすいため、肺炎の再発予防へのアプローチが非常に重要である。しかし肺炎後廃用症候群の臨床的特徴や肺炎発症要因等に関する先行研究は少ない。
今回、肺炎後廃用症候群患者における肺炎発症要因の検証を目的に、当院へ入院した肺炎後廃用症候群患者の実態調査を実施し、臨床的特徴について若干の考察を加え報告する。
【対象と方法】
対象は平成19年4月から平成20年10月の間に肺炎後廃用症候群の診断にて当院へ入院した患者38名(男性18名、女性20名、平均年齢82.4±9.6歳)。
調査項目は脳血管疾患既往、呼吸器疾患既往、入院時FIM、嚥下障害の有無、入院中の感染症発症の有無の5項目とし、医師カルテおよびリハビリ診療記録より調査した。
【結果】
脳血管疾患既往は脳卒中22名(57.8%)、パーキンソン病またはパーキンソン症候群13名(34.2%)であった。また吸器疾患既往は16名(42.1%)であった。入院時FIM38.11±23.54点、嚥下障害有り33名(86.8%)であった。入院中の感染症発症の有無については肺炎12名(31.5%)、尿路感染5名(13.2%)、気管支炎2名(5.3%)、感染症発症なし19名(50%)であった。
【考察】
本調査から肺炎後廃用症候群は高齢、脳血管疾患既往、FIM低値、嚥下障害の項目において強い関連性を示していると考える。多くの患者は脳卒中やパーキンソン病による嚥下障害を呈し、加齢に伴う嚥下機能低下や口腔内細菌の影響により、維持期の経過の中で肺炎リスクを増大させているものと予想される。またFIM低値を示していることは嚥下機能に関与する座位保持能力の低下も推測され、誤嚥性肺炎のリスク増大に関連していると考えられる。当院では肺炎後廃用症候群の肺炎再発の予防に向けて嚥下や口腔ケア、ポジショニング等に対して積極的なチームアプローチを実施している。しかし今回の調査にて31.5%の患者において肺炎再発が認められたことから、肺炎再発予防に向けた肺炎要因の分析とアプローチを再考する必要があると考える。
今後、肺炎後廃用症候群患者における肺炎再発群と非再発群間でのさらなる要因の詳細を検討していきたい。また理学療法士もチームの一員として、肺炎予防に向けた呼吸機能の改善やポジショニングの工夫などを積極的にアプローチしていくことが臨床現場にて求められていると考える。