抄録
【はじめに】
脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)において,ADLや基本動作獲得における体幹機能の重要性は多くの先行研究にて指摘されてきた.しかし,既存のTCT(trunk control test)やSIAS(stroke impairment assessment set)では体幹機能を詳細に評価することは難しい.そこで片麻痺患者の体幹機能を評価する目的で臨床的体幹機能検査(functional assessment for control of trunk :以下,FACT)が開発された(奥田ら2006).FACTは治療指向的検査法であるとされ,検者間信頼性と内的整合性は検証されている.
今回は,片麻痺患者に一般的に用いられている評価項目とFACTとの関連を明らかにすることで,FACTの妥当性と有用性を検討することを目的とした.
【対象と方法】
対象は,当院でリハビリを受けている片麻痺患者32名(男性16名,女性16名,平均年齢70.7±13.1歳,平均発症期間421.9±491.6日)だった.
測定は体幹機能についてFACTを用いて測定し,ADL能力はFIMを,両側の下肢筋力は膝伸展についてMMTを用いて測定した.その他に上肢,手指,下肢の麻痺の程度をBr.ステージを用いて測定した.統計処理は,各測定値の関連についてSpearman順位相関係数を用いて検討した.また制御因子として年齢と性別で補正し,それぞれの測定値の関連を検討した.さらに,FACT得点が20点から10点のものをFACT高値群,9点から1点のものをFACT低値群として,それぞれの測定値をMann-Whitney検定にて比較した.統計学的有意水準は両側検定にて危険率5%未満とした.
【結果】
すべての項目においてFACT得点と有意な相関が認められた.また,年齢と性別で補正しそれぞれの測定値の関連を検討したが,FACT得点とすべての評価項目との間に有意な正相関(p<0.01)が認められた.さらにFACT得点高値群(11名)と低値群(21名)の2群間においても有意差が認められた.
【考察】
本研究の結果から,FACTの点数が高いほどADL能力が高いという関係が示された.また,FACT得点高値群と低値群の2群比較から体幹機能とADL能力との関連が示されたことにより,本研究においても先行研究で指摘されているように体幹機能がADL能力へ影響している要因の一つである可能性が示唆された.これらのことから,FACT得点と各評価法との関係が認められたことにより,FACTは片麻痺患者の体幹機能評価法としての妥当性と有用性が伺われた.
今後はFACTとADL能力との関連をより詳細に検討し、ADL能力低下の要因を明らかにしていきたい.