抄録
【はじめに】
維持期頭部外傷患者の理学療法において、この時期は、認知機能障害・身体障害の改善は少なくなり、個々の対応が必要となる。今回、維持期頭部外傷患者一症例に対し、Hands on therapyと装具療法の相乗効果を観ていき、若干の知見を得たので報告する。
【研究方法】
Hands on therapy前後の裸足歩行と2種類の装具(両側金属支柱短下肢装具(以前の装具)・GAITSOLUTION(現在の装具))を使用して歩行の比較を行った。
【評価方法】
10m歩行スヒ゜ート゛と共に動作解析装置による歩行分析を行った。測定は専用の動作解析室に設置された、三次元動作解析装置PEAK Moutus 32 VERSION6.1、床反力計AMTI社製を用い、サンフ゜リンク゛周波数60Hz、5秒間にて6台のカメラ・2台の床反力計による計測を行った。マーカーは計11箇所とし、設置した5m歩行路を自由歩行させた。分析にはスティックヒ゜クチャー・床反力・関節角度・関節モーメントを用いた。なお本研究は、文章を用いて被検者に説明し同意を得た上で行った。
【症例紹介】
現在30歳代前半男性。診断名は、交通事故による頭部外傷。16年前に受傷。四肢麻痺・失調症状が認められ、当初移動は車椅子で、日常生活動作は食事以外全介助、またコミュニケーション障害もあり、高次脳機能障害(記憶障害・動作遂行障害など)も出現していた。現在、3年ほど前から歩行はロフストランド杖にて軽介助または近監視にて行えるようになり、それに伴い日常生活動作も衣服着脱などの身の回り動作の時間は掛かるもの自立してきた。また、高次脳機能障害も改善してきておりパソコン操作などの作業も行えるようになってきており、障害者の集いなどにも一人で参加するなどの社会への積極的参加も見られてきた。
【理学療法】
Hands on therapyは、各治療場面の中で、徒手的に異常姿勢筋緊張を修正し、より正常な姿勢運動を学習するように行なっていった。なお全ての治療の中で一貫して過剰活動を減弱し、その後下肢の選択的活動も含めた姿勢運動の学習を行い、よりオートマティックな歩行を目指した。
【結果及び考察】
Hands on therapy後は、Hands on therapy前よりの裸足歩行及び装具歩行共に麻痺側立脚期の足関節背屈モーメント・底屈モーメント最大値及び立脚終期の股関節伸展角度及び10m歩行スヒ゜ート゛等で向上が見られた。また、症例に合った装具を選択することで、変化が見られた。しかし治療前後共に装具の着用による各テ゛ータの変化量は、変わりはなかった。このことは、装具療法の身体機能に及ぼす効果はほぼ一定であり、患者の身体機能の改善も含めた運動学習が歩行能力の改善を大きく左右すると言える。また、身体機能の改善をヘ゛ースに患者に適合した装具を用いることで更なる歩行能力の改善が期待できることが今回の結果より言えた。そしてその変化は、社会活動の選択肢の幅を大きく広げた。このように維持期頭部外傷患者の社会参加をゴールに取り組むには、症例を取り巻く環境も含めアプローチが必要と思われる。