九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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脳卒中片麻痺患者の起立開始動作の運動力学
体幹前屈までに何が起こっているのか
*長田 悠路渕 雅子
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抄録

【はじめに】
歩き始め動作や足あげ動作などでは、運動前に生じる逆応答(移動側と反対方向への圧中心の移動)が動作開始の円滑性や効率性に貢献している。健常者の起立動作においても、動作開始に先行した足部床反力の減弱が圧中心(以下COP)の後方移動を引き起こし、これが重心の前方移動を効率的に引き起こしている。この現象が脳卒中患者で観察されるか否か、その逆応答の大きさと起立動作時間の相関関係を分析することが本研究の目的である。
【対象】
著名な関節可動域制限・足関節の痙性・高次脳機能障害を有さない片麻痺患者37名(平均年齢57.8±14歳、発症後期間平均212.1±301.3日、平均身長161.2±7.7cm、平均体重58.0±10.4Kg)。
【方法】
承認された倫理審査に従って、インフォームドコンセントが得られた患者に対してのみ計測を行った。開始姿勢は、大腿長中点の深さまで木製40cm台に座り、両手を下方に垂らすものとした。その後、起立動作を3次元動作解析装置(VICON MX)・床反力計(AMTI社製)にて計測した。そして動作開始時に起こるCOPの一時的な後方偏移量を時間で積分した値(以下逆応答量)と動作時間(肩峰動きだしから殿部離床まで)の相関をspearmanの順位相関係数にて検定した(危険率1%)。また、体幹前屈が開始する以前に生じる足部床反力減少のパターン分類(両側減少群、一側のみ減少群、非減少群)を行い、群間における逆応答量の違いを多重比較による一元配置の分散分析(Fisher's PLSD法)にて検定した(危険率1%)。
【結果】
離殿までの時間と逆応答量の間に中程度の相関(r=-0.66、P<0.01)がみられ、逆応答量が多い患者ほど離臀までの時間が早かった。動作に先行した足部床反力のパターンは、両側減少群13名、一側のみ減少群12名、非減少群12名に分類可能であり、逆応答量について全ての群間で有意な差(P<0.01)が認められた。
【考察】
3名を除く全ての患者に逆応答が観察され、離臀までがスムーズに行える患者では、健常者同様の姿勢制御(体幹前屈開始に先行した足部床反力低下が引き起こす逆応答の出現)が観察された。動作時間と逆応答量に負の相関がみられたことから、時間的・空間的にCOPの後方移動が大きいことが重心前方加速を素早くすると考えられる。一方、離臀に時間を要す患者は逆応答量が少なかったことから、COPと身体重心のずれ(力学的に不均衡な状態)を作り出さず、徐々に体幹を倒す開始パターンをとったと考えられる。また、一側のみよりも両側の足部床反力減少が起きた患者群でより大きな逆応答が出現したことから、静止坐位という力学的安定状態を合目的的に崩す引き金として、両足部床反力を減弱させることがより効率的であることが分かった。以上のことから、本研究の臨床的意義として、より大きなCOP後方移動を引き出すために、わずかな足部挙上が出来るような、体幹前屈に先行した股関節・体幹屈筋群の活動性を引き出すことの重要性が示唆された。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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