九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 195
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Dual Task歩行訓練の有用性の検討
*小川 久美子塚本 沙織釜谷 幸児舌間 咲子花田 謙司平川 善之
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抄録

【目的】
入院中独歩自立であっても、退院後の生活で不安を訴える術後の運動器疾患患者は少なくない。これは、歩行のみに注意が向く入院中の歩行訓練とは異なり、周囲の環境にも注意を分配しなければならない日常生活の歩行に対応できないことが原因となり、不安を生じているのではないかと考えた。先行研究で、大角らはDual Task(二重課題;以下、DT)と注意機能に関連があること、山田らは変形性股関節症患者の歩容はDT歩行(何かをしながらの歩行)で体幹動揺が増大することを述べている。本研究では、入院中の歩行訓練にDTを取り入れることの有用性の検討を目的とした。
【方法】
当院回復期病棟入棟中の杖または独歩自立の運動器疾患患者のうち無作為に16名を対象とし、DT歩行訓練を実施した実施群(男性2名、女性8名、年齢71.0±6.8歳)と、DT歩行訓練を取り入れなかったcontrol群(男性3名、女性3名、年齢75.3±4.8歳)に分類した。歩行自立時、退院時に無課題10m歩行速度と、DT課題として、想起課題(野菜の名前の呼称)、計算課題(100から7を次々に引いていく)、音課題(CDラジカセから流れる太鼓音の数を答える)の3課題を準備し、各課題を行いながらの10m歩行速度と課題成果数(音課題は答えの誤差数)を計測し、マンホイットニーの検定を用いて2群間の比較を行った。実施群はDT歩行訓練を週3回以上取り入れた。
【結果】
10m歩行の改善時間において有意差は認められなかった。DT課題での歩行速度の改善時間については、想起課題を行う歩行速度においてのみ実施群の優位な改善を認めた。課題成果の改善度については、想起課題と計算課題において有意な改善を認め、音課題において有意差は認められない結果となった。症例によって改善が認められた課題は異なっていた。
【考察】
無課題10m歩行速度で2群間に差はなかったが、DT課題下の歩行速度・課題数においては差が生じた。このことから、2群間に身体機能面の差はないが、DT訓練を行うことにより、歩行以外にも注意の分配が可能になったと考えられ、歩行訓練にDTを取り入れる有用性は十分にあると言える。研究を進めていく中で、各症例の職業・趣味・環境などのライフスタイルに着目してみると、改善課題は各症例で異なっていた。一例として、想起、計算の改善が大きかった症例のほとんどが主婦であった。このことに関して、食事の献立の想起や、買物中の計算など、主婦業で必要な課題において高い改善を示したのではないかと考えた。個人のライフスタイルに関わりの強い課題での向上が大きい傾向にあり、今後も継続してDT訓練を実施していきながら、選択課題についても検討していく必要があると考える。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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