抄録
【はじめに】
症例は四肢体幹の変形のため床上では左半側臥位しかとれず背部に発赤や痛みを生じていた。そのため十分な休息が取れず車椅子上で日中の覚醒を下げていた。今回、背臥位用クッション(以下クッション)を作製し接触支持面を拡大させ、発赤の消失と痛みの軽減を図った。その結果、痛みなく臥位姿勢が取れるようになり、車椅子上での活動やコミュニケーション場面が変化し参加に改善が見られたため、考察を加え報告する。なお、報告にあたりご家族様の同意を得た。
【対象】
67歳、男性。診断名は脳性まひ。障害程度はGMFCSレベルVに相当する。病歴:30歳時に脳出血のため歩行不能となり重度の四肢麻痺となる。平成14年に当センターの重症心身障害児施設入所。
【実施前評価】
症例は右凸側弯・円背、上肢は肩関節屈曲・内転し強い痙性を呈す。骨盤は後傾位で左回旋し下肢は左へのwindswept deformityを呈すため、背臥位を取らせても左半側臥位となる。関節可動域(以下ROM)は股関節伸展右-50°左-80°、肩関節外転右80°左90°。Modified Ashworth Scale(以下MAS)は股関節伸展・肩関節外転は左右ともにgrade3。左半側臥位時、体圧が胸郭左後面に集中し発赤や痛みがみられた。日常では床上で左半側臥位にて一日約5時間過ごす。症例は痛みを回避するため車椅子に座りたいと頻繁に訴える。車椅子上で一日約8時間過ごすが、覚醒が低く療育活動への自発的な参加は少なかった。
【方法】
発赤の消失、痛みの軽減を目的にクッションを作製し背臥位での姿勢管理を行った。実施期間は平成21年4月から同年9月末までの約5か月間。使用頻度は月曜から木曜の週4日。準備を含め40分間、病棟の畳上で実施した。
【結果】
発赤と痛みの訴えはなくなった。ROMは股関節伸展右-45°左-55°、肩関節外転右100°と改善した。MASは股関節伸展右grade1、左grade1+、肩関節外転右grade2、左grade1に変化した。クッションの使用で熟睡を得る事ができた。覚醒時もリラックスして冗談をいうなど人との相互的な関わりを楽しむ場面が見られるようになった。車椅子座位においても自ら歌を歌い、療育活動に積極的に参加できるようになった。
【考察】
治療前は、左半側臥位しか取れず、しかも痛みが伴うため休息が取れずにいた。そのため車椅子座位のみが痛みのない姿勢であり、頻繁に車椅子座位への姿勢変換を訴えていたが、活動への参加は少なく傾眠傾向の原因となっていた。今回、クッションを使用したことにより、休息を得ることができた。その結果、痙性の減弱やROM拡大に繋がった。この姿勢管理を継続的かつ定期的に行った事により休息が確保され、他者との交流や療育活動への積極性が見られるなど症例の参加が改善したと考えられる。