九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 245
会議情報

体動により足部外側に褥瘡を呈した認知症患者へのポジショニングアプローチ
*堀川 晃義菅沼 一平白石  浩上城 憲司野村 正信平野 里依島田 真希久保 香織
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】
 今回,重度認知症患者(以下症例)で左足部外側に褥瘡を発生した症例を経験した.褥瘡発生の原因はベッド上で左足部を擦る持続的な体動であると考え,左足部の徐圧を目的に自作のウレタンクッションを用いたポジショニングを実施した.アプローチを通して体動が著明な患者に対するポジショニングについて若干の知見を得たので以下に報告する.報告内容は本人及び家族に説明し,同意を得た.
【症例紹介】
 70代男性.診断名は脳血管性認知症,糖尿病.平成X-1年より不穏,不眠が続き,薬物調整とリハビリ目的で平成X年当院認知症病棟入院となった.CDR3,セルフケアは全介助.日中は臥床とリクライニング車椅子坐位時間を調整し過ごしていた。ベッド臥床時,不良姿勢になることが多く,病棟で褥瘡予防のポジショニングを実施するが,体動により良肢位が確保できず,入院6ヶ月後左足部外側に褥瘡が発生した.褥瘡の評価にはDESINGN-Rを用いた.発生時のDESIGN-RはD3-e1s6i1g1n0p0,発生後も壊死組織形成し,12週の間に4度デブリートメント施行したがD4-e3s6i0G4N3p0まで悪化,病棟依頼により介入した.
【体位評価】
 症例はベッド上1.左下肢の挙上を繰り返す2.疲労し股関節外旋位で動きを止める(左足部外側に圧が加わる)3.反対側の右下肢を挙上し,右踵を左足部にのせる(さらに圧が加わる)4.3の状態で左足部をベッドに擦る(摩擦刺激が加わる)という一連の動きを繰り返し,患部へ負荷をかけていた.
【介入】
 患部の除圧と同時に,体動に対してウレタンクッションを使用し固定力を強めるポジショニングを検討した.幅20cm,奥行40cm,高さ40cmのウレタンを上面部から下腿~足部の形状に合わせて削った.削った箇所に左下腿を入れ,患部に接するウレタン部を切断し患部を除圧した.動作としては股関節外旋を制限,屈曲動作はわずかに可能な形状とした.また反対側の右下肢の体動を抑えるために長枕を下肢の間に挟んだ.最後に接触面積が広がるようギャッジアップ調整を行った.ベッドサイドには,他職種にもわかるようポジショニングを示すカードを設置した.
【経過及び結果】
 介入時はD4-e3s6i0G4N3p0と壊死組織が創部の半分を占めていたが,介入後6週目には壊死組織は減少し,8週目には良性肉芽が創部の殆どを占めた(D3-e1s6i0g1n0p0).11週目にはサイズも減少し(D3-e1s3i0g1n0p0),15週目に治癒となった.
【考察】
 本症例は持続的な体動が原因で左足部に負荷を与えていると考え,動作を抑制し固定力を強めるポジショニングを実施した.結果,患部の除圧が可能となり褥瘡の治癒につながった.認知症高齢者は精神症状により,激しい体動を繰り返すケースがしばしば見られる.その為,活動性が高い患者でも体動により局所に刺激を与え,褥瘡が発生,悪化するリスクをはらんでいる.認知症高齢者においては精神症状の評価も踏まえて,褥瘡のリスクを評価し,体動の固定と徐圧動作の確保を考慮してポジショニングの方向性を決定づける必要があると考える.

著者関連情報
© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top