九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 244
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認知症高齢者とともに行なう造形表現の経験から
<オノマトペ>・<作業三角錐>・<コラボレーション>という視点の検討・高齢者とアートその4
*金城 光政金城 明美前田 瑞穂桑江 良貴
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キーワード: 高齢者, 作業療法, アート
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抄録

【はじめに・目的】
本論は、筆者らが認知症高齢者との造形表現活動で経験した技法の発見・開発・推進について、<オノマトペ>・<作業三角錐>・<コラボレーション>の三つの視点からこれを報告、検討するものである。
【<オノマトペ>で表現活動を組織化する】
オノマトペ(onomatopoeia;擬音語)とは、実際の音をまねて言葉とした語。「わんわん」「ざあざあ」など。認知症高齢者らの日常に観察される健康な単純動作にそって、そこに色材や支持体を挿入することで造形表現が可能(発見)となる。(例:「カリカリ」「さらさら」など)。オノマトペから連想した活動の開発も可能である。連続する音は(人の)動作の連続性にも連鎖し、そこから表現活動が生まれるという発想の逆転の視点もまた可能である。
【<作業三角(錐)>で安定した活動環境を整える】
認知症高齢者の創作活動を推進するには「安定した活動環境」が求められる。「安定した活動環境」とは、認知症高齢者個々にそれぞれ合致した活動内容や環境・条件などがバランスよく配置され、適度な転換を主体的に行なえる状況をさす。筆者は、臨床実践から条件が三点揃えば認知症高齢者が作業に集中することを観察。そのイメージを三角錐(正四面体)になぞらえ、一つひとつの活動場面の安定条件を考慮し、活動環境を整えるよう配慮した。例えば、五感が焦点の観察では、ある活動内容がそれにふさわしい感覚が三角錐の頂点で安定しているか。あるいは感覚の緩急の付け方や頂点の転換(例;視覚から嗅覚・味覚へ/「紙を切る」作業を中断し、「コーヒーを味わう」へ)は自在かなどに留意して活動を推進した。
【<コラボレーション>で新たな関係を創出する】
認知症高齢者の造形表現活動は、「他者(多くは作業療法士)の干渉なく、完結するものであるという固定観念を払拭すること」から始まる。作業療法への導入も推進も、同じ地平上の時間、場所を共有し、ひとつの作品制作に取り組む(コラボレーション;collaboration)よう進められる。「作品」を中心に置いて、それを囲むように患者、作業療法士、家族、鑑賞者など、それぞれにベクトルが向き合うこと。それにより相互が影響し合うことで新たなコミュニケーションが生まれ、さらに斬新な作品が生まれることによって、環境(存在構造)にも影響を及ぼすのである。
【検討・おわりに】
オノマトペ・作業三角(錐)・コラボレーションの三点は、ここ五年間の臨床経験により得られた作業療法おける造形表現活動を実践していく上での重要な視点となった。画一、効率優先が求められがちな病院、施設生活において、高齢者ひとり一人に自己を表現していく機会を創出・推進することができるかは、作業療法士に求められた重要な課題である。当日、図表を提示の予定。検討・ご批判願いたい。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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