抄録
【背景】
我々は,大腸肛門病の専門病院として排泄に関する治療と研究を継続している.直腸性便秘症例では,排便時に胸を張って体幹を伸展させた姿勢が多く,腹圧の加え方や排便姿勢の指導を行っている.今回,排便時の姿勢が,直腸肛門角(Anal Rectal Angle:ARA)にどのような影響を及ぼすのかを排便造影検査(Defecography)を用いて検討したので以下に報告する.
【対象と方法】
Defecographyは,擬似便を直腸内に注入し,安静時(rest),肛門収縮時(squeeze),排出時(strain)の3動態を撮影する.撮影された画像のARAを放射線技師が電子ファイル上で計測した.今回,2010年1月から3月にDefecographyを実施した73例のうち,strainでの伸展姿勢と屈曲姿勢を撮影できた31例(男性13例,女性18例,63.4±19.6歳)を対象とした.更に,大腿骨頭を頂点とし,仙骨上端と尾骨先端との為す角(α)を計測できた19例(男性11例,女性8例,62.3±22.8歳)では,排出時の骨盤帯の前後傾を検討した.検定はWilcoxonの符号付順位検定,危険率p<0.01は有意と判断した.なお本研究は,当院倫理委員会の承認を得て取り組んだ.
【結果】
31例の主訴は便秘13例,便失禁9例,脱出4例,痛み6例,その他11例(重複有)であった.ARAの変化はrest(101.0°±16.1°),squeeze(86.1°±14.5°),伸展姿勢でのstrain(108.9°±21.8°),前屈姿勢でのstrain(131.6°±18.3°)となり,前屈姿勢の方が有意に鈍角であった.また,α角は,rest(85.1°±10.9°),squeeze(85.4°±10.7°),伸展姿勢でのstrain(85.5°±11.5°),前屈姿勢でのstrain(93.1°±11.3°)となり前屈姿勢の方がα角は鈍角となっており,骨盤は有意に後傾位であった.
【考察】
排便に関しては依然解明されていない点が多い.ARAの意義に関する報告は多数存在するが,排便姿勢の変化でARAが変化する報告は見当たらない.排便困難症例では,排便の際に息めば息むほど背筋を伸ばした伸展姿勢となる症例が多く存在し,そのような症例に対しては,排便姿勢の指導を行うことで,排便困難が改善する症例もみられる.今回,排便に関するARAに着目した研究を行い,前屈姿勢の方が伸展姿勢よりもARAが鈍化する事が解った.また,骨盤帯も後傾位となっていることから,理学療法士として姿勢を含めた骨盤帯へのアプローチを行うことは,直腸性便秘症例に対しての治療が有効であると考えられる.