抄録
【目的】脳卒中片麻痺患者の急性期から回復期にかけて日常生活活動(以下ADL)範囲が拡大していく中で,靴の着脱など床へのリーチ動作が必要となる.床へのリーチは,下肢支持性の低下により,前方への転倒リスクの高い場面である.今回は床へリーチする時の両下肢の荷重率とFunctional Independence Measure(以下FIM)との関係性について検討した.
【対象条件】対象条件は,当院入院中の脳卒中片麻痺患者で,Brunnstrom stage(以下Br.Stage)下肢_V_以下で,床へのリーチ課題において認知や高次脳機能障害の影響がないものとした.
【説明と同意】本研究は当院の倫理審査委員会の承認を受けている.また,対象者には研究の趣旨と内容,研究への不参加での不利益が起こることがないことを説明し,同意を得られた対象者に参加していただいた.
【対象】
脳卒中片麻痺患者13名(男性9名,女性4名)右片麻痺3名,左片麻痺10名で,平均年齢74.1歳(57~84歳),平均身長155.54±10.76cm,平均体重55.4±10.2kgであった.感覚障害は軽度11名,中等度2名であった.Mini-mental state examination(以下MMSE)の平均は21.77±4点であった.
【方法】
昇降式治療台上に板を設置した.高さ30cmの大を足元に設置し,その上に市販体重計(TANITA200g表示デジタル体重計)をおいた.臀部の位置は,上前腸骨棘の位置を揃え,ベッドの端の部分に大腿長の1/2がくるようにした.股,膝,足関節90度位で体重計の端に爪先が来るように設定した.このような開始姿位から床面にリーチし,足底面を±0cmとして,第3指の先端の位置を計測する.同時に両下肢の下に置かれた体重計の数値を計測する.計測のタイミングは床へリーチした姿勢を保持してもらい,体重計の数値が安定したところをとした.計測は検者3名で行い,課題は3回繰り返して行った.その他FIMと麻痺側下肢のBr.Stageを評価した.
【統計処理方法と検討】検査の再現性については,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:ICC)を用いて検討した. 抽出された両下肢の体重計の数値を,下肢の荷重率(%)=下肢の荷重(kg)÷体重(kg)×100と変換した.この下肢荷重率と床へのリーチ距離,FIMの運動項目の合計得点,麻痺側下肢のBr.Stageとの関係についてSpeamanの順位相関係数を用いて求めた.統計ソフトはStatistical Package for the Social Sciences(SPSS)を用いた.
【結果】ICCは非麻痺側下肢;0.95,麻痺側下肢;0.97と検者内の再現性があることが証明された.下肢の荷重率は非麻痺側;31.05±4.58%,麻痺側;18.93±5.99%,リーチ距離;4.54±1.66cm,Br.stage(麻痺側下肢);4.08±0.76,FIM運動項目;42.0±9.17点であった.下肢の荷重率において麻痺側と非麻痺側には負の相関が認められた.FIMと下肢の荷重率において非麻痺側は負の相関,麻痺側は正の相関が認められた.Br.Stageと麻痺側下肢荷重率の間には正の相関が認められた.リーチ距離と下肢の荷重率において麻痺側下肢のみ正の相関が認められた.
【考察】結果からこの評価が麻痺側下肢の機能を捉えている可能性が示唆された.また,麻痺側下肢の荷重率の低下を非麻痺側下肢が代償していること,FIMとの関係においてもADLの自立度が低いと,麻痺側下肢支持機能の低下により荷重率が低下し,非麻痺側下肢で代償していることを捉えているのではないかと考える.今後対象数を増やして検討していきたい.