九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 261
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「精神障害者を介護する家族の介護負担感に関する研究」~J-ZBI_8の質問項目間の比較検討~
*田中 綾子簗瀬 誠
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抄録

【目的】<BR/>現在,精神医療は入院医療中心から地域生活中心へと転換が図られ,社会復帰へ向けての精神障害者に対する支援が強化されている.その中で,当事者への支援と同等に家族への支援が重要であり,精神保健医療福祉の一翼を担う精神科作業療法においてもこの観点を欠くことはできない.本研究は,家族の介護負担感の質問項目間における反応の差を明らかにすることで,より家族の思いに即した支援を検討することを目的としている. <BR/>【対象および方法】<BR/>家族会の会員で精神障害者の家族である者,86名に郵送によるアンケート調査を実施した.その結果,51名から回答が得られ,その中で当事者の診断名が統合失調症,非定型精神病または統合失調感情障害であると回答した37名(男性:10名,女性:27名,平均年齢65.44±8.63歳)を分析対象とした.分析内容は,1.家族(回答者)の基本的属性,2.当事者の基本属性,3.日本語版Zarit介護負担尺度短縮版(以下、J-ZBI_8)による家族の介護負担感であった.J-ZBI_8は,8つの質問項目から構成され,介護負担感が強いほど高得点になる.1~3については,記述統計による分析を行った.さらにJ-ZBI_8の質問項目間で得点を比較し,対応のあるt検定(両側検定,危険率5%未満を有意)を用いて有意差をみた.なお,本研究は鹿児島大学医学部の倫理審査委員会の承認を得て実施した. <BR/>【結果】<BR/>J-ZBI_8の平均得点は,9.95点であった.質問項目間の比較では,「社会参加」に比べ「訪問」「気が休まらない」「立腹」「困難」の平均得点が有意に高かった.「放棄」に比べ「気が休まらない」「立腹」「困難」が,そして「分からない」に比べ「困難」の平均得点が有意に高かった.   <BR/>【考察】<BR/>本研究の対象は,家族会の会員であったことから,家族会活動への参加の機会をもっていることが予測される.そのため,「社会参加」の項目でJ-ZBI_8得点が低く,他項目との有意差を認める結果となったと考える.また,家族会で病気や対処方法を学ぶ機会もあるため「困難」を感じるが,「分からない」と感じることが有意に低くなったと思われる.そして,「放棄」の項目は他項目より有意に低い得点を示した.これは,責任を持って本人の世話をし続けるのは家族しかいないという規範を家族(特に親)が強く意識している場合が多いという先行研究の結果と一致し,そのため家族が当事者の介護を抱え込んでしまうという構図が考えられる.以上より,家族会などの情緒的ネットワークに所属することの有効性と,医療サービスの利用や家族への心理教育などによる家族自身の抱え込みを減らすことが介護負担感の軽減につながると考える.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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