九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 262
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緩和ケア病棟における作業療法を実施して
~「友人」という役割により生きる意欲を取り戻した事例~
*豊田 敬一黒木 尚美柚木崎 雅志下村 亮輔
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キーワード: 人間作業モデル, 役割, 習慣
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抄録
【はじめに】
当院では緩和ケア病棟を平成14年より開始しリハビリテーションを提供してきている。今回、癌の進行は安定しているが臥床状態が習慣化し離床拒否、生きる意欲が低下した事例がいた。そこで事例に対し作業療法での概念的実施モデルである人間作業モデルの理論に基づいて介入を試みた。その結果、役割の再獲得や自己有能感を獲得し、習慣や役割への参加に対する意志を取り戻す事ができ良好な生活変化が見られたので報告する。
【事例紹介】
80歳代前半女性 診断名:転移性骨腫瘍、S状結腸癌術後。夫と死別し、関東に住む1人息子とは電話連絡のみで面会はない。リハ開始時BI:10点FIM:22点 HDS-R:27点 癌症状は比較的安定していたが体幹・両下肢浮腫著明と廃用により基本動作、ADLは食事以外全介助。SDS:56点 VAS-QOL Scale2点
【経過】
第1期:(離床拒否)悲観的で抑うつ的な発言あり。説得により離床するも10分程度で臥床希望。この時期に作業に関する自己評価(以下:OSAII)を実施し「友人」という役割に高い価値を置いていることを把握。
第2期:(友人関係構築)毎日リハ室へ行っている同室患者とOTRを介し友人関係となる。その後、OTRを介さずとも自室から笑い声が聞かれ、事例にとって価値ある「友人」という役割を獲得した。
第3期:(離床)同室患者と仲が深まり「リハ室へ行きたい」と意志の変化が見られた。同室患者と同じテーブルで、本人希望のビーズ細工を実施。20~30分可能であった。完成作品であるネックレスを身につけ他者から賞賛を受け「孫にも作ってあげたい」と自身の望む作業を選択するようになり離床時間も1時間可能となった。OTの時間が近づくと私服へ着替えるためNsへ介助を依頼し、リハ終了後は友人関係となった他患数人と共にアイスを食すことが習慣となった。また「もう1度歩いてトイレに行きたい」と自己有能感が向上した発言が聞かれ、毎日2時間離床し訓練に励むようになった。起居動作や更衣動作、移乗動作時では協力動作が増え重度介助から中等度介助へと介助量の軽減に至った。またSDS29点、VAS-QOL Scale8点と変化が見られた。
【考察】
臥床状態が習慣化し、友人という役割の喪失感から抑うつ状態に陥った事例に対し人間作業モデルの理論に基づいた介入を行った。評価結果から、本来、友人との関わりに価値を置いていたことを考慮し、まず同室患者と友人関係を構築することに焦点を当てた。その結果、過去の状態に近い役割を再獲得し毎日離床することが習慣化された。それに伴い、私服に着替えて日中を過ごしたり、歩行や排泄の改善を目標に掲げる等自己有能感の向上、生きる意欲を取り戻すことができた。生活全般に介助を要する状況ではあるが役割の再獲得や自己有能感の向上が意志の変化をもたらし主体的な生活を送るようになったと考えられる。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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