九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 325
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脳卒中片麻痺患者における体幹機能と日常生活活動能力との関連
*田中 靖之太田尾 浩今村 一郎
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抄録

【はじめに】
 脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)において日常生活活動(以下ADL)の獲得は在宅で生活を送るにあたり重要な目標である.またADLの獲得には体幹機能が重要であることは先行研究にて指摘されている.しかし体幹機能と各ADL動作との関係を詳細に検討した研究は見当たらない.そこで本研究では,片麻痺患者の体幹機能を臨床的体幹機能検査(以下,FACT)で評価し,各ADL動作との関連について検討した.
【対象と方法】
 対象は研究への協力に同意を得ることができた片麻痺患者41名(男性23名,女性18名)で,平均年齢71.2±12.1歳.脳梗塞22名,脳出血18名,くも膜下出血1名であり,麻痺側は右片麻痺21名,左片麻痺20名であった.測定は体幹機能についてFACT,ADL能力はFIM-Mにて評価した.上肢筋力は非麻痺側の肩関節屈曲を,下肢筋力は膝伸展をMMTにて評価した.その他にBrステージとHDS-Rを評価した.統計処理は,FIM-Mの各項目別に自立群(7~5点)と要介助群(4~1点)の2群にわけ,各測定項目をMann-Whitney検定で比較検討した.またFACT得点とFIM-M項目との関連をSpearman順位相関係数および年齢と性別で調整した偏相関係数を算出し検討した.さらに,ADL能力に影響を及ぼす因子を抽出するため重回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%未満とした.
【結果】
 FIM-M自立群と要介助群とを比較した結果,すべてのFIM-M項目で有意差が認められたのはFACT得点(p<0.01),上肢筋力(p<0.01),非麻痺側下肢筋力(p<0.05),HDS-R(p<0.01)であった.FIM-MとFACTとの関連を分析した結果,全てのFIM-M項目で有意(p<0.01)な正の相関が認められた.また,FIM-M各項目とFACT得点との関連の強さを偏相関係数から判断すると,トイレ動作(r=0.84),清拭(r=0.84),上衣更衣(r=0.81),ベッド移乗(r=0.80),浴槽移乗(r=0.80),トイレ移乗(r=0.77),下衣更衣(r=0.76),排尿(r=0.74),移動(r=0.67),排便(r=0.65),階段昇降(r=0.58),食事(r=0.42),整容(r=0.42),の順であった.従属変数をFIM-M,その他を独立変数として行った重回帰分析の結果,FIM-Mに影響を及ぼす因子として選択された独立変数は,標準回帰係数が高い順にFACT(0.69)とHDS-R(0.27)であった.ANOVAの結果は有意(p<0.001)で,R2は0.79と適合度は高かった.
【考察】
 片麻痺患者は体幹機能が高いほどADL能力も高いことが明らかとなり,体幹機能の重要性が改めて確認された.また体幹機能は,ADL能力の中でも移乗やセルフケアとの関係が強く,とくにBr.ステージや筋力よりも体幹機能と知的機能の方がADL能力に影響を及ぼすことが示唆された.これらのことから,片麻痺患者がADLを獲得するには体幹機能が重要であり,併せて知的機能へのアプローチの必要性が明らかとなった.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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