抄録
【はじめに】
転倒は高齢者の日常生活動作を低下させる原因となる。転倒要因の一つとして、注意機能の低下がある。日常生活動作は会話をしながら歩くなど二重課題の場合が多く、注意を動作以外に分配させる必要がある。そこで、本研究では注意機能の低下が二重課題下での動作に与える影響について検討したので報告する。
【対象】
当院外来患者26名(平均年齢77.0±6.4歳)、認知症のない、中枢神経疾患を除く、屋外歩行自立レベルの者とした。またserial-2sが可能な者とした。あらかじめ対象者には本研究の趣旨を説明し同意を得た。
【方法】
過去1年の転倒の有無により、対象者26名を転倒群13名(平均年齢78.2±6.0歳)、非転倒群13名(平均年齢75.8±6.8歳)に分類した。全対象者にTrail Making Test A、B(以下TMT-A、TMT-B)、何も課題を与えない10m歩行(Single Task歩行、以下ST歩行)、Timed Up&Go Test(以下STTUG)、serial-2sを行いながらの 10m歩行(Dual Task歩行、以下DT歩行)、 TUG(以下DTTUG)を行った。なお、TMT-A、Bは2分間での解答数を指標とした。10m歩行、TUGに関しては歩行速度を、TMT-A、Bに関しては解答数を記録し統計処理を行った。統計処理は2標本T検定を用いた。
【結果】
転倒群と非転倒群において、ST歩行では転倒群11.1±2.7秒、非転倒群10.7±2.6秒、DT歩行では転倒群16.7±6.6秒、非転倒群12.7±4.2秒であり、ST歩行、DT歩行共、群間に有意差は認められなかった。STTUGでは転倒群13.8±2.7秒、非転倒群11.8±3.8秒、DTTUGでは転倒群18.6±6.2秒、非転倒群13.6±5.4秒であり、STTUGでは有意差は認められなかったが、DTTUGでは転倒群が有意に遅かった(P<0.05)。
TMT-Aの解答数では転倒群12.8±1.7個、非転倒群17.9±5.5個、TMT-Bの解答数では転倒群10.8±3.4個、非転倒群15.4±6.2個であり、共に転倒群が有意に少なかった(TMT-A :P<0.01、TMT-B :P<0.05)。
【考察】
本研究から、注意がより認知課題に向くことによって歩行速度が有意に遅くなることが示唆された。その理由として、利用可能な資源としての注意には限界があり、一方の情報に多くの注意が分配されると、別の情報に対する注意は低下するといわれている。これらより、動作課題と認知課題の多い条件下では動作課題に分配する注意量が減少するため、転倒リスクが高まると考えられる。
今回の結果より、転倒予防には注意機能を向上させる必要があると示唆される。なお歩行速度が遅くなった要因として、慎重になるなど心理的要因も推測されるため、今後検討が必要であると思われる。