抄録
【目的】
Timed Up & Go-Test(TUG)は、日常生活機能との関連性が高いことが証明されており、高齢者の身体機能評価として広く用いられている。しかしTUGにおける歩行レベル判定は独歩もしくは杖歩行による報告が多く、他の歩行補助具使用に関する報告は少ない。当法人は高齢者の利用率が高く歩行車やシルバーカーを移動手段として選択している方も多い。そこで今回、歩行車・シルバーカー使用者における歩行自立度判定に関して、TUGの有用性を検証する為に平衡機能検査として信頼性の高いFunctional Balance Scale(FBS)との比較検討をしたので報告する。
【方法】
対象は当院入院患者もしくは併設通所リハビリテーション利用者の内、歩行車またはシルバーカーで移動可能な22名(平均年齢:84.1±6.9歳、男性4名・女性18名)。対象者の平衡機能をFBSで、機能的移動能力をTUGで評価した。またFBS結果から37点以上を転倒低リスク群(FLR群)、37点未満を転倒高リスク群(FHR群)に分類した。統計解析は全対象者のFBSとTUG、各群それぞれのFBSとTUGの関連性をスピアマンの順位相関係数検定、FLR群とFHR群のTUGについての関連性をマン・ホイットニ検定にて比較した。いずれの解析も危険率5%未満をもって有意とした。
【説明と同意】
今回の研究にあたり、書面と口頭にて研究の趣旨を説明し研究参加の同意を得た。
【結果】
全対象者のFBS平均31.0±12.6点、TUG平均35.4±23.5secであり、FBSが高いとTUGが早いという有意な負の相関を得られた。またFLR群(n=13)のFBS平均40.3±3.3点、TUG平均20.9±6.6sec 、FHR群(n=9)のFBS平均17.6±8.2点、TUG平均56.4±23.3sec であり、FLR群がFHR群よりもTUGが速いという有意な相関を得られ、各群のTUGとFBSの関連性についてはFLR群のみ有意な相関が得られた。
【考察】
本研究では先行研究同様に歩行車やシルバーカー使用下においてもTUGは転倒リスクとの関連性が高いことからTUGの有用性が示唆された。しかし評価時に疼痛や性格による影響からTUGが変動してしまうこともみられた。今回の対象者は要介護認定を受けておりTUGの結果からも身体機能や認知機能が低下していると考えられ、TUGは歩行自立度判定基準として簡便且つ有用ではあるが、判定を行なうには対象者の特性に合わせた評価を検討していく必要性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行車やシルバーカー使用下におけるTUGを機能的移動能力の客観的指標として用いることは有用であることは示唆された。しかし判定には身体機能だけではなく認知機能や心理状態等様々な要素が影響する為、複合的な評価が必要である。