九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 124
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ギラン・バレー症候群に対してのアプローチ
代償動作抑制を主眼とした訓練構築
*筒井 裕介小鶴 誠
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抄録

【はじめに】
今回,軸策損傷型ギラン・バレー症候群(以下GBS)を呈した症例と関わる機会を得た.当院へ転院してきた時点での身体機能は5m程度であれば独歩可能であったが,上肢機能に関しては近位筋MMT2レベル,遠位筋1レベルで,肩関節運動に伴う肩甲骨挙上などの代償動作が目立った.現在のところ,GBSに対する訓練指針の報告は少なく,関節可動域訓練や筋力増強訓練,ADL訓練(基本動作含む)が代表的である.そこで,アノーキンの運動学習モデルを参考に訓練を構築した.その結果,良好な改善を認めたので以下に報告する.
【症例紹介】
20代男性.発症当初は呼吸筋機能の低下も認め,Hughesの運動機能尺度においてGrade5であった.発症より50病日後に当院転院となり,その時点でGrade2の状態であった.下肢の回復は良好で,5m程度であれば自力歩行が可能な状態であった.上肢においては,随意運動の要求に対して運動開始時で肩甲骨挙上による代償動作を認め,日常生活における上肢の使用は全て代償動作によるものであった.病前の職業は看護師で,ニードは職業復帰であった.
【治療介入】
治療における条件として,代償動作抑制を目的とする為,過負荷となる筋出力を要求しない状況での訓練を設定した.そして,アノーキンの運動学習モデルより運動学習促進のためにはフィードフォワード情報とフィードバック情報の比較照合が必要とされており,体性感覚の予測(トップダウン情報)と実際の感覚(ボトムアップ情報)の比較を行った.訓練の段階付けは,セラピストによる動作分析と症例の言語記述を指標として難易度の変更を行った.訓練の一例を以下に述べる.
肩関節運動のコントロールを目的として,肘関節伸展位,手関節軽度背屈位にて,セラピストの誘導の下で任意の図形を示指でなぞる.セラピストは症例の上肢を図形に合わせて誘導する.この時,運動開始前に体性感覚の予測を症例に要求し,実際の運動後に予測と実際の身体感覚の比較を行う.
【結果】
上記の訓練を,神経回復の状況に合わせて実施した.結果,介入当初認めた肩関節の代償動作は消失した.現在はHughesの運動機能尺度Grade1まで回復を認め,ADL,APDL完全自立し,ニードである復職を達成している.
【考察】
今回,GBSを末梢神経障害と捉え,過度な筋出力が代償動作の学習を促進し,神経回復における筋出力の阻害になる可能性があると考えた.回復過程に沿った訓練の細分化を行い,アノーキンの運動学習モデルに基づいた訓練設定が機能回復における代償動作の抑制に繋がったと考える.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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