抄録
【はじめに】
今回、左前頭頭頂葉白質病巣にて、対象物に対する到達・把握運動に障害を認めた症例を経験した。到達運動障害の訓練は、林や平本が報告しているが、多くはみられない。そこで今回視覚運動制御系・頭頂葉機能を考慮した訓練を実施し若干の改善が得られたため、考察を加え報告する。
報告に際し本人、家族の同意を得ている。
【症例】
70才代女性、右利き。H21/11発症。H22/1当院入院。MRI所見:左前頭頭頂葉白質病変(H21/11)、左被殻出血(S54:保存的加療にてADL自立・箸操作可能)。神経学的所見:上田式12段階片麻痺回復グレード検査[上肢・手指10]。筋緊張[深部腱反射左右差なし。病的反射陰性。他動運動時の抵抗感あり]。右上下肢表在・関節位置覚中等度鈍麻。神経心理学的所見:右周辺視野にて右手で視覚性運動失調。動作所見:右上肢運動は全般的に拙劣。視覚除去時の運動再現はスムースだが到達困難。シェーピング障害(プレシェーピング含む)。視覚から運動への変換課題障害。STEF右9点・左42。
【到達運動・把握運動障害の要因】
視覚から体性感覚への変換に問題があり、加えて視覚性運動失調とシェーピング障害などの頭頂葉病変でみられる動作所見と類似した問題がみられていた。また画像所見でも、前頭頭頂葉白質病変が認められ、視覚運動経路の損傷が認められた。これらより、視覚運動制御系・頭頂葉機能を考慮した訓練内容の検討を行い実施した。
【訓練内容・結果】
訓練回数:1回を約10分程度で各5日間介入。介入前10日間、体幹・肩甲帯機能訓練・促通訓練実施したがSTEF9点と変化なし。
訓練1:両手組での到達運動(以下両手運動)を行った。対象の位置・方位・奥行きの認識を考慮し課題設定。結果はSTEF19点。
訓練2:視覚で物品の対象認知を行い、その後接触しフィードバックにより誤差修正を図った。大きさの属性・形の認識を考慮し課題設定。結果はSTEF21点、シェーピングの改善(握り直しの減少)を認めた。
【考察・まとめ】
本症例の障害要因を、視覚と体性感覚の統合と視覚運動経路の障害と考えた。そこで、視覚運動制御系・頭頂葉機能を考慮した訓練内容の検討を行い実施した。訓練_丸1_では、両手運動では脳梁による左右の脳連絡や、運動関連領野間の動的な相互作用が、同期的に作用しあっているとのStephan P.Swinnenの報告を参考に、両手運動での訓練を実施した。これは、両側半球での到達運動をプログラムし、非麻痺側が麻痺側への運動イメージ、注意喚起を図ることも想定できる。加えて、非麻痺側運動に正しい到達運動が繰り返し誘導され修正が図れたのではないかと考えた。
訓練_丸2_では、物品の対象認知を視覚で行い、その後実際に接触して確認する作業を行った。kawasimaは視覚から体性感覚情報統合では視覚情報をワーキングメモリで保持し、提示物との誤差修正に関連して起こる脳活動がみられると報告した。つまり訓練_丸2_で行った課題にて、視覚と体性感覚情報統合が修正され握り直しの減少をみとめたのではと考えた。今後はさらに、評価・訓練内容等の検討をしていきたいと考える。