抄録
【はじめに】
骨折の一つに大腿骨近位部骨折があり、その90%以上の起因は転倒とされている。本骨折による歩行・ADL能力低下が再骨折及び生命予後に影響することが報告されている。今回、当院における大腿骨近位部骨折の傾向と予後、高齢者に対する理学療法の介入について検討した。
【対象と方法】
調査期間H19.1~21.12 男性20・女性69例 計89例について以下6項目を調査。
1.骨折の分類(内・外側型)
2.術式
3.両側例の初回から反対側骨折までの期間
4.受傷前・後のADL比較(歩行状況・Barthel Index:以下BI)
5.死亡率
6.基礎疾患・合併症
【結果】
男性20例(23股)平均年齢78.2±4.6歳、女性69例(75股)平均年齢87.1±5.7歳、うち右側41例、左側39例、両側9例
1.内側型57例、外側型41例、両側例の内訳 同型66%
2.術式 人工骨頭置換術24例、CHS法45例、スクリュー固定11例、γ-nail 5例、保存療法13例
3.両側例9例の初回から反対側骨折までの期間 平均10.4ヶ月
4.受傷前と同様の歩行レベル獲得率43.8%(独立歩行可→不可20.2%)、在宅復帰率32.6%(自宅→施設・転院12.4%) BI:減少傾向にあるが有意差なし
5.死亡率 約8%(予後観察・確認不明例は除外)
6.基礎疾患・合併症 脳血管障害22.5% 心疾患8.9% 視力障害6.7% 認知症25.8% 入院時HDS-R平均12.2/30点
【考察】
大腿骨近位部骨折の発生頻度は高齢になるほど増加し65歳以上では女性が男性の2倍近くになるとされている。当院でも平均年齢83.8歳、男女比は1:3.5で女性が有意に多い。今回調査した89例中両側例は全体の10.2%、平均10.4ヶ月で発生しており、松田らの報告と同様の傾向を認めた。ADL比較においてはADL能力低下が施設入所や転院例の増加、歩行レベル獲得率・在宅復帰率に影響したと考えられるがBIの統計学的有意差は認められなかった。当院では施設からの転院例も多く在院日数・退院時レベルも異なるが今回の調査では死亡率約8%であった。骨折受傷によるADLレベル・身体能力低下、基礎疾患などが再骨折発生率の増加・生存率に関与すると考えられる。両側例では約10ヶ月で反対側骨折を受傷していることからこの期間での再発予防の取り組みが重要といえる。再発の起因はいずれも転倒であり予防の第1は転倒予防である。そこで外的因子としての生活指導を含めた居住環境の整備と内的因子として運動機能の向上が必要であると思われる。内的因子の改善として筋力・平衡機能・俊敏性獲得を目的に外転筋力の強化、継足歩行・片脚立位訓練などの転倒予防訓練を継続することが再発予防に繋がると考える。