九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 126
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透析患者の浮腫を再考する
*藤本 隆古田 幸一
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抄録

【はじめに】
 一般的に透析後に浮腫を呈する症例は多く、その発生要因も様々である。今回症例を通して浮腫の捉え方とアプローチを再考する。
【症例紹介】
 70歳代女性。脳梗塞後遺症。麻痺側のシャントにて週3回人工透析を実施。H21/12右下腿骨折(麻痺側)受傷。骨折後よりシャント側上肢に著名な浮腫を認めた。
【初期評価】
 周径:前腕25cm、上腕27cm、茎状突起部18,5cm。浮腫により穿刺困難。麻痺側大・小胸筋、広背筋・大円筋・非麻痺側外腹斜筋・前鋸筋筋緊張亢進。食事は全粥、全介助にて平均4割程度摂取。失語を呈し、コミュニケーション困難。声かけにも反応乏しい。
【経過・治療】
 骨折後、シーネ固定により寝たきり状態。麻痺側上肢にROMexを実施したが、浮腫の改善は見られず。そこで、透析中のポジショニング・食事形態の変更・透析時間の変更と延長・運動療法を再考した。ポジショニングはバスタオルとクッション、三角枕を使用。臥位では骨盤・肩甲帯右回旋位をとることが多く、骨盤・肩甲帯の正中位保持と麻痺側上肢の筋群の過緊張を防ぐことに努めた。また、肢位によって鎖骨下動脈の拍動に差が見られたため、拍動が強い肢位でのポジショニングを実施した。食事形態はST・Ns・栄養士と相談し、軟飯に変更。口腔ケアをSTに依頼。また、食事場面に介入し声かけや介助、頚部のポジショニングと動作指導を行った。透析時間はDrと相談し、30分間の延長と午前→午後への時間変更を試みた。運動療法はリンパドレナージを追加した。
【結果】
 周径:前腕18cm、上腕23cm、茎状突起部14,5cm。穿刺も可能となり食事も軟飯にて平均7割程度摂取。食事動作時、若干の協力動作が得られるようなった。声かけに対する反応も改善が見られ、うなずきや笑顔が見られた。
【考察】
 骨折後に生じた透析患者の浮腫を多面的に捉え、1日の生活に焦点を当てアプローチを実施した。浮腫の原因として栄養障害や水分摂取量も挙げたが、局所性であり、安静臥床によるリンパ・静脈性浮腫と考えた。滝沢によると、浮腫に対するアプローチとして複合的運動療法が有効とされ、リンパ環流・静脈環流量の増加が浮腫の軽減につながると述べている。鎖骨下動脈より遠位では動脈と静脈は並行して走行し、鎖骨下動・静脈は大胸筋と小胸筋に挟まれている。上肢のリンパは鎖骨下静脈に流入することから、大・小胸筋の筋緊張緩和と上肢の静脈環流量向上の相関を考慮し鎖骨下動脈触察下でのポジショニングとリンパドレナージを試みた。拍動が強い状態の維持と、鎖骨下静脈の環流量を向上させた状態でのリンパドレナージが浮腫軽減に効果的であったと考える。また、透析時間の変更によりリハビリ介入時間の延長と、他職種との連携により食事摂取量の向上、感染予防を図ることができた。今回のアプローチでは浮腫の原因と治療の再考とともに、患者のQOL向上におけるチームアプローチの重要性を改めて感じた。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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