九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 82
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膝関節伸展制限と下腿三頭筋の伸張性との関連性
*宮崎 麻理子松田 友秋児玉 興仁福田 秀文榎畑 純二久松 憲明
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抄録

【はじめに】
膝関節の伸展制限を有する症例は臨床で遭遇する機会が多い.その伸展制限因子として荷重位での身体アライメントや膝窩部後方の筋群,関節包やその周囲靭帯等の関節構成体の制限が考えられているがそれらの直接的な関連性は明確ではない.
今回我々は膝関節伸展制限と腓腹筋,ヒラメ筋,その両筋から構成される下腿三頭筋全体の伸張性との関連性を検討したのでここに報告する.
【対象・方法】
対象は本研究に同意を頂いた膝関節の外傷・手術歴がなく,膝関節伸展制限を有した患者9名(男性1名,女性8名).平均年齢は81±5.1歳で,両側制限5名,片側制限4名,計14脚とした.
測定項目は➀膝関節伸展角度,➁膝関節伸展位での足関節背屈角度,➂膝関節屈曲位での足関節背屈角度(膝関節90°屈曲位で計測),➃足関節背屈位での膝関節伸展角度(➂の背屈角度を保持した状態で膝関節90°屈曲位から徐々に伸展し,背屈保持困難に至った角度を計測)とした.全て腹臥位・他動的に測定し,計測指標は日本整形外科学会の評価法に準じた.
統計学的処理は➀と➁,➂,➃それぞれの関連性をspearmanの順位相関係数を用い,危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】
1) ➀と➁において有意な相関は認められなかった(rs=-0.33,P>0.05).
2)➀と➂において有意な相関は認められなかった(rs=-0.22,P>0.05).
3)➀と➃において有意な正の相関(rs=0.65,P<0.05)が認められた.
【考察】
結果1)・2)から,膝関節伸展制限と腓腹筋・ヒラメ筋の単独での伸張性との関連性は認められなかったが,結果3)から両筋を一つの筋腱複合体とする下腿三頭筋全体の伸張性との関連性が認められた.
筋連結を持つ二関節筋と単関節筋とを伸張する場合,一方のみの伸張だけでは骨付着部の筋線維の伸張は得られるが,筋連結部の筋線維の十分な伸張は得られにくい.下腿三頭筋全体の起始・停止は,表層から腓腹筋腱膜層(腓腹筋起始部),総終止腱膜層(両筋の停止部),ヒラメ筋腱膜層(ヒラメ筋起始部)の3層からなり,腓腹筋・ヒラメ筋の両筋は総終止腱膜層で強固に連結している.これより両筋の伸張性が膝関節伸展制限と関与していることが考えられる.また膝関節伸展制限因子として回旋中心軸の外側偏位や関節包内運動の異常配分が考えられているが,今回検討した腓腹筋は大腿骨顆部,膝関節後方関節包に起始を有している為,その伸張性の低下や過剰緊張が関節包内運動の異常配分に関与し,膝関節伸展制限の一要因になりえると推測され,腓腹筋のみならずヒラメ筋との連結も踏まえ下腿三頭筋全体の伸張性を考慮する必要があると考えられる.さらに,腓腹筋・ヒラメ筋は足関節を介し姿勢制御に関与するので,これらの筋の機能不全は姿勢制御においても影響を及ぼすと考えられる.今後は,膝関節伸展制限における病態運動学や屍体解剖などの知見を整理し,姿勢制御も含めた更なる検討が必要である.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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