主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
【目的】
我々は前回の研究において、円背高齢者の下肢の筋力バランスについて検討したところ、膝関節屈曲筋力に対し膝関節伸展筋力が高値を示したという結果を得た。そこで今回は前回の研究で得た知見をもとに、筋力増強訓練の違いにより円背高齢者のバランス能力に差が生じるかどうかを検証することにした。尚、報告に際し当院の倫理委員会より承認を受けている。
【対象】
当院外来通院および通所リハビリテーションを利用している患者で、既往に中枢疾患がなく下肢関節に強い不定愁訴のない円背を呈している患者25名(男性4名・女性16名、平均年齢82.2±7.5歳)を対象とした。円背の定義については、円背指数13以上の患者を円背とした。円背指数計測は第7頸椎~第4腰椎棘突起を結ぶ直線をL、直線Lから彎曲の頂点までの距離をHとし、Milneらの式を用い、その割合を円背指数(H/L×100)として算出した。
【方法】
まず全ての患者に対し重心動揺、ファンクショナルリーチテスト(以下FRT)、膝関節屈曲・伸展筋力を測定した。重心動揺についてはユニメック社製UM-BAR2を用い、単位面積軌跡長を測定した。筋力については日本メディックス製パワートラックMMTコマンダーを用いて行った。その後患者を膝関節伸展筋群のみの筋力増強訓練を行う群8名(以下A群)、膝関節屈曲筋群のみの筋力増強訓練を行う群8名(以下B群)、膝関節屈曲・伸展筋群の筋力増強訓練を行う群9名(以下C群)の3つの群に分け、それぞれ3ヶ月間筋力増強訓練を行った。3ヶ月後上記した3つの評価を再度行った。
【結果】
統計処理の結果、筋力、FRT、単位面積軌跡長においてA・B群はともにすべての評価項目において有意差は認めず、C群についてはすべての評価項目において有意差を認めた。すなわちC群は3ヶ月後、筋力は向上し、FRTの数値は大きくなり、単位面積軌跡長の数値は小さくなった。
【考察】
円背高齢者では脊柱の力学的均衡が崩れ、全身的に様々な影響を及ぼす。その一つの現象として、姿勢保持筋を中心とした筋群の主動筋と拮抗筋を同時収縮させることにより姿勢を安定させようとする傾向が若年者と比較して強くなる。そのため常に筋収縮が過度に要求され、このことが筋の易疲労性を招き、二次的に筋力の低下をもたらす原因にも繋がる。つまり、円背高齢者ではバランスを保つために主動筋と拮抗筋双方の収縮が過剰に要求されるが、同時に主動筋と拮抗筋双方に筋力低下をきたし易くなるという相反する要素を含んでいる。これが円背高齢者のバランス能力低下をきたす一つの要因であると考える。そしてこのような円背高齢者特有の力学的構造が、今回の研究において主動筋と拮抗筋双方にアプローチしたC群に有意な差がでた結果に影響を与えたのではないかと考えた。