抄録
【はじめに】
精神科病院において実施されている精神科作業療法についての知識の普及は、身体障害分野などの他の作業療法に比べて大きく遅れている状況にある。例えば身体障害分野のリハビリテーションとしての作業療法が病院で行われていることは多くの家族が知っているが、一方、精神科病院で作業療法が行われていることを知らない家族も少なくない。この事は精神科作業療法を利用する精神障害者やその家族にとって不利益をもたらすものではないかとの問題意識を持った。そこで鹿児島県内の精神障害者をもつ家族を対象にした精神障害者家族会の研修会で精神科作業療法の普及活動を行った。今回、この活動の概略を紹介し、若干の考察を加える。なお、この普及活動は平成20年度日本作業療法士協会「作業療法推進活動パイロット事業助成制度」を受けて実施した.
【普及活動の内容】
精神科作業療法を紹介する「精神障害者家族会の研修会」を3回行った。各研修会において鹿児島県内の精神科病院に勤務する作業療法士が講師になり、「精神科作業療法の役割と実際」をテーマに精神科作業療法の実践を紹介し、その後、意見交換を行った。各々の内容は次の通りである。
1)種子島会での研修会(平成20年度精神保健福祉研修会)
開催日時:平成20年11月22日(土)13:00~15:30
会場:西之表市市民会館 参加者:合計106名
2)鹿児島県精神障害者家族会連合会での研修会(平成20年度「心の健康ネットワーク研修会」)
開催日時:平成21年1月28日(水)10:00~14:30
会場:鹿児島市勤労者交流センター 参加者:合計120名
3)きもつき会での研修会(平成20年度精神保健福祉研修会)
開催日時:平成21年3月1日(日)13:00~15:30
会場:リナシティーかのや 参加者:合計113名
【結果と考察】
今回行った一連の研修会参加者は合計339人であり、これらの参加者に精神科作業療法の役割と実際について概要から実践に至るまでを具体的に説明できた。さらにその参加者の立場や職業は家族や当事者に加えて民生委員や警察職員、行政職員、医療福祉施設職員など幅広いもので、精神障害者の治療を担う精神科作業療法の認知度を幅広く高める契機になったと考える。
参加者へのアンケート結果では「今回の紹介で、精神科病院で行われている作業療法についての理解が深まりましたか?」という質問に対して94.2%が「はい」と回答している。また「今後、精神科病院で行われている作業療法について知る機会を増やして欲しいと思いますか?」という質問には94.7%が「はい」と回答した。この結果からこのような機会を多く作り精神障害者のための医療・保健・福祉における作業療法の役割を認識してもらう場を積極的に継続して設ける必要性を感じた。さらに当事者や家族、それを支援する地域の精神科作業療法に対するニーズを把握する場になると考えた。