抄録
【目的】
今回、乳がん術後に重度リンパ浮腫を呈したことによる上肢機能低下に伴いADL・QOLが著しく低下した症例を担当した。複合的治療により、特にQOLが顕著に改善したため、その介入方法などを報告する。
【事例紹介】
50代女性。11年前、右胸筋温存乳房切除術施行。その後、原発巣増大、肺転移指摘。癌性胸膜炎による胸水、呼吸苦を認め、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術施行。昨年、呼吸苦、咳嗽が強く、症状緩和目的で入院。右上肢のリンパ浮腫著明であり疼痛強く日中は臥床傾向。症状緩和とADL改善目的でリハビリ開始。主訴は、「腕があがらない」「肩がいたい」。ニードは、主婦業をやりたい。入院前は、夫・息子と三人暮らし。食事が入らず、体重12kg減。夫が家事など手伝っていた。
【介入の基本方針】
リンパ浮腫に対して、複合的治療をPTと実施。PTによる用手的ドレナージ・圧迫療法(バンテージ)を実施後、OTではバンテージ着用下での運動療法を実施。呼吸に対しては、PTによる呼吸理学療法実施。適宜、OTによるADL・APDL訓練を導入する。また心理的サポートを行いながらQOL向上を支援する。
【介入経過】
当初は、車椅子で来室され、表情乏しく、訴えが十分にできないほど息切れなど全身的に倦怠感強い。その状態での介入がストレスとなっていた。運動面では、右上肢の自動運動不可で、他動運動では強い疼痛出現。精神面では、「なさけない」とネガティブな発言が目立っていた。当初は、リンパ浮腫への複合的治療を中心として、活動量向上してからは、PTは呼吸理学療法、OTはADL訓練を中心へと変更していった。介入により、退院直前には、独歩で来室され、食が進まない状況であるが、調理に関して楽しそうに話すなど活動への意欲が受け取れた。実際、調理訓練場面では無意識下で右手を使う高負荷の活動も可能となっていた。精神面では、笑顔がみられ、「家族のために何かしたい」とポジティブな発言が聞かれるようになった。
【結果】
周径は、肘下10cmで最大で4.2cmの軽減。リンパ浮腫が軽減したため、右上肢の自動運動可能となり、バンテージからグローブ・スリーブへ移行して日中着用している。呼吸苦に対しては、酸素1.5リットル投与開始されて、SpO2 96-7%。息切れあるが、訴えを伝えることは可能。運動時に腫瘤周辺に疼痛あるが、服薬により緩和傾向。FIM74点から99点に改善。離床機会増加。右手で歯磨き粉やペットボトルのふた開け可能。慈恵リンパ浮腫スケール(JLA-Se:最高100点)にて機能は0点から35点、感覚は0点から24点、美容は8点から100点、心理的苦痛は0点から51点と大きく改善。
【考察】
当初はリンパ浮腫のために、セルフケアも思うように出来ず、家族に対して自責の念に駆られて精神状態が不安定であった。リハに対する希望は薄く、積極性が乏しかった。しかし介入により、リンパ浮腫が軽減して自動運動可能となったことで、セルフケアへの右手参加も見られるようになり、精神状態にも改善が見られて、積極性がみられるようになってきた。セルフケア自立となった頃から、妻・母親としての役割を果たしたいという思いを訴えることが多くなり、家族に自分が出来ることを何かしてあげたいという気持ちへと変化が見られた。以上から、リンパ浮腫改善が心身の苦痛を緩和させて、ADL拡大とQOL改善をもたらしたものと考える。