九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 135
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交通外傷による痛み、不定愁訴を呈した症例
~呼吸に着目して~
*中村 誠志
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抄録
【はじめに】
 追突事故による痛みと不定愁訴(頭が痛い、疲労感がある、眠れない、食欲がない)により在宅での生活に影響を及ぼした症例に対して早期に呼吸に着目することで不定愁訴の改善が認められたのでここに報告する。
【症例紹介】
 70代女性 職業:無職 診断名:頚椎捻挫、腰椎捻挫、胸部打撲、H22年4月助手席に同乗中後方より追突され当院受診。内服、物理療法にて様子見るも改善見られず、2日後より、頭痛、腰痛、頚部痛持続。
4日後~食欲低下あり、6日後安静、治療目的にて当院入院の運びとなる。7日後よりリハビリ開始となる。
【初期評価】  
 Borg-scale:20、不定愁訴(+)頭痛、頚部、腰部痛み VAS10、平均睡眠時間4時間
呼吸機能:浅い胸式呼吸、呼吸音減弱(右>左)、呼吸数22~24回/分、右側胸郭が遅れて拡大、
胸郭の柔軟性左右差あり、胸骨下角:70°(右40、左30)
筋緊張:呼吸補助筋群、肩甲挙筋過緊張、腹部、殿筋群低緊張、 圧痛所見:腰方形筋、左内腹斜筋
【治療プログラム】
 1.筋膜リリース 2.胸郭の関節可動域練習 3.腹式呼吸練習 
【1週間後の結果】
 Borg-Scale:12 不定愁訴(+)頚部、腰部、頭痛:VAS4、平均睡眠時間6時間
呼吸機能:胸腹式呼吸、呼吸音左右差なし、呼吸数19~21回/分、胸郭拡大軽度右低下、
胸郭の柔軟性軽度右低下、胸骨下角:80°(右側40°左側40°)
筋緊張:呼吸補助筋群軽度過緊張、腹部、殿筋群低緊張、圧痛所見:腰方形筋、内腹斜筋軽減
【考察及びまとめ】
 交通外傷の影響から痛み、不定愁訴によりBorg-Scale20と理学療法が困難な状況であり、呼吸様式は呼吸補助筋群を利用した努力性呼吸であった。このため、安静を保つことができず筋疲労の蓄積から呼吸補助筋群の筋緊張の左右差、胸郭柔軟性の低下が認められた。また松本らは腹式呼吸を獲得することの重要性は吸気と呼気の比が1:2となることで、1:1の呼吸様式比べて副交感神経活動が賦活化することを述べている。つまり、呼吸様式が不定愁訴に影響を与えているのではないかと考え、呼吸の関与があるのではと仮説を立て腹式呼吸を獲得することを目的とした。
 そこで治療介入は、腹式呼吸の制限であった胸郭の柔軟性、筋緊張の左右差に対して筋膜リリース、胸郭の可動域練習を実施し腹式呼吸の練習を実施した。
 結果、呼吸様式、Borg-Scaleの改善に加え、胸の重みが軽減し会話も楽になったと訴えもあり、睡眠時間も約6時間と延長が可能となった。つまり、腹式呼吸を獲得したことにより呼吸補助筋群の抑制、呼吸苦の軽減により不定愁訴への改善が認められたのではないかと考える。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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