九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 134
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深部静脈血栓症予防 ~理学療法士として~
*木村 悠人古門 功大
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抄録

【目的】
 深部静脈血栓症(以下、DVT)の予防には早期離床や積極的な自動運動が最も効果的と言われている。しかし、整形外科術後において血栓が形成されるのは、術後数日間とくに術直後から翌日までが多いと言われており、上記の予防法は実施困難であることが多い。そこで他動的な予防法として、抗凝固療法や弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法などが行われているが、依然として整形外科術後のDVT発症率は30~40%と高いのが現状である。
 そこで本研究では、他動的予防法として筋ポンプ作用が高いと思われる足関節他動運動時(以下、他動運動時)の静脈血流速度を測定し、間欠的空気圧迫法使用時(以下、IPC時)と比較することで、より効果的な対策ができないかを検討することを目的とした。
【方法】
 対象は健常成人12名の左下肢(男女各6名)。超音波診断装置(アロカ社)を用いて、安静時、IPC時、他動運動時の膝窩静脈血流速度を測定した。被験者はベッド上腹臥位とし、実験中は不必要な会話を禁止とした。
【結果】
 血流速度(cm/s)は、安静時18.0±5.4、IPC時53.6±26.8、他動運動時140.2±42.8であった。IPC時、他動運動時ともに安静時より有意に上昇し(P<0.01)、他動運動時はIPC時よりも有意に高かった(P<0.01)。
【考察】
 本研究の結果から、他動運動時の血流速度の増加はIPC時よりも有意に高く、DVT予防により効果的であることが示唆された。下肢の筋肉は第2の心臓と言われ、筋ポンプ作用が静脈還流の一部を支配している。自動運動が最も効果的であるのは筋収縮により深部静脈が圧迫され還流量が増すからであるが、他動運動でも筋の緊張-弛緩により同様に深部静脈は圧迫される。IPCでは足底の静脈叢だけを圧迫するのに対し、他動運動では下腿の静脈を圧迫する。DVTの好発部位は下腿静脈内であり、下腿静脈における血流停滞を防止する必要がある。他動運動により膝窩静脈における血流速度がより高かったことは、IPC時よりも多くの静脈が圧迫されることで還流量が増し、下腿での血流停滞がより軽度になると考えられる。以上より、他動運動でDVT発症率を低下させることが期待でき、臥床時期の患者に対し理学療法士として、拘縮予防のためだけではなくDVT予防としても積極的に他動運動を実施していく必要があると考える。
【最後に】
 他動運動がDVT予防により効果的であると考えられるが、実際の臨床においては実施されていないのが現状である。それは、IPCや弾性ストッキングがセッティングだけで済むのに対し、他動運動は定期的なマンパワーを必要とするからである。しかも、その頻度・回数も定かではない。今後の課題として、現実的な方法の構築や自動装置の開発などが期待されるところである。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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