主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
【はじめに】
上腕骨近位端骨折は,高齢者に多い骨折の1つであり,上肢機能障害を残しADL・APDLに影響を及ぼす.特に女性症例では家事動作などに上肢機能が必要となってくる. 骨折後症例における作業療法の目的は,上肢機能の改善をADL・APDL に早期に反映させることにあると考える.そこで今回,上腕骨近位端骨折症例に患者立脚型outcomeである,Disabilities of Arm,Shoulder and Hand(以下,DASH)を用いて受傷前,受傷後4週,受傷後8週に評価を行ったので報告する.
【症例紹介】
70歳代女性,階段より転落受傷.受傷時CTで左上腕骨近位端骨折を認め入院.Neer分類は2part. 職業は主婦.家族との4人暮らし.ADLは自立.家事は本人が行っていた.利き手は右側.
【経過】
受傷後3日にlocking plateによる骨接合術施行.受傷後5日より作業療法を開始した.受傷前DASH scoreは,リハ開始時に聴取し、Disability/Symptom(以下,DS):4.2点,Sports/Music(以下,SM):0点,Work(以下,W):0点だった.やや困難とした項目は[庭仕事],中等度困難とした項目は[頭上の電球を替える]だった.作業療法経過は開始時より振子運動を開始,受傷後3週より抗重力運動を開始した.
受傷後4週のDASH scoreは,DS:33.3点,SM:25.0点,W:25.0点だった.受傷前と比較して,[きつめまたは新しいビンのフタを開ける]や[壁ふきや床掃除],[買い物バッグや書類カバンを持ち運ぶ]の項目がやや困難へと悪化した.
受傷後7週で自宅退院となり,受傷後8週のDASH scoreは, DS:39.2点,SM:33.3点,W:50.0点だった.特に手指だけでなく上肢全体の筋力や90°以上の可動域を必要とする項目で困難度が増加.また受傷後4週でやや困難とした項目のほとんどが中等度困難に悪化した.
【考察】
今回,上腕骨近位端骨折症例に対してDASHを用いて評価を行った.その結果,入院から退院後,特定の項目で困難度が増加していた.症例は退院直後から家事動作を行っており増加の原因と考えられた.今回,作業療法は機能面に着目しすぎ,上肢機能をADL・APDLにうまく反映させることができなかった.
DASHは,本症例を通してADL・APDLの経時的変化を反映しており、上肢障害の評価法として有用性があると考えられた.今後は,機能面のみならずADL・APDL面にも焦点を当て作業療法介入すべきと考えた.