九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 151
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上腕骨近位端骨折に対する保存療法の一経験
*新川 陽太宮ノ原 章吾中村 宏志
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抄録

【はじめに】
 上腕骨近位端骨折は転倒して直接外力で起こり、特に高齢者、骨粗鬆症のある女性に頻発するとされている。骨折の治療は3partや4part骨折においても早期から保存的運動療法にて良好な成績が得られるという報告もあるが、手術手技や器具の改良の進歩が著しく発展し観血的治療が優先される傾向が強い。今回、治療中亜脱臼を生じた上腕骨近位端骨折の症例に対して保存療法を行った結果、上肢機能やADL面で良好な経過を認めたので報告する。
【症例紹介】
 農業を営む70代後半の女性。歩行中に転倒し、利き側の右上肢と体幹部を打撲。右肩関節周囲の腫脹、疼痛、運動時痛が強く、翌日当院受診。右上腕骨近位端骨折(3part骨折)の診断を受けた症例である。骨粗鬆症による陳旧性第12胸椎・第1腰椎椎体骨折で、円背を呈している。
【レントゲン所見】
大結節骨折(上方転位)、上腕骨外科頚骨折 :3part 骨折
【保存療法】
 上腕~前腕ギプスシーネ固定にバストバンド固定を行った。3週目、X線で大結節の転位が大きくなり、亜脱臼が生じてきたため、3週後からリハビリを開始した。
【初期評価】
 体表上、上腕骨下垂位にて肩峰~上腕骨骨頭間に1横指程度の陥凹を認め、上腕骨を内旋位にすると前下方に2横指程度の陥凹を示す。肩関節周囲筋は全体的に萎縮があり、腋窩周囲の軟部組織は圧痛と硬結感を認め、他動的に上腕骨を動かすと肩関節周囲の疼痛と筋緊張が増強し、ほとんど不動の状態である。JOA‐S:14点 VAS:7/10 ADL:家事面では夫が食事を作り、入浴は来院時に清拭を受け、更衣は夫の介助を要する。
【経過】
 保存療法は良肢位保持と肩甲骨臼蓋に対して上腕骨頭を求心位に安定させることを中心に実施した。レントゲン所見にて上腕骨頭の位置、仮骨形成の状態を確認しながら段階的に筋再教育や関節可動域訓練を進めた。
 受傷後、8週の時点で上腕骨下垂位にて肩峰~上腕骨骨頭間の陥凹は体表上ほとんど認めなくなり、レントゲン上、亜脱臼の改善がみられた。JOA‐S:48点、VAS:2/10、肩関節可動域においては、屈曲100°、伸展10°、外転80°、外旋20°であった。ADLは包丁の使用が可能、家事や更衣は独立して実施でき、入浴は軽介助レベルに回復した。
【考察】
 今回、観血的治療を視野に入れた状況で保存療法を実施した結果、上肢機能の改善とADL向上に至った。この要因として、良肢位保持および肩甲骨臼蓋に対して上腕骨頭を求心位に安定させることが回復につながったと考えられる。亜脱臼を合併している場合、肩甲骨臼蓋に対して上腕骨のポジションをどう置くかが重要であり、自覚症状や反応、レントゲン所見を経時的に確認しながら機能向上に努めていく必要性を学んだ。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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