九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 167
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Bennett骨折後の母指CM変形性関節症の治療経験
*田嶋 裕作山下 導人園田 昭彦
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抄録

【はじめに】
Bennett骨折(CM関節脱臼骨折)後の合併症として母指手根中手関節症(以下CM関節症)がある。症状として疼痛とそれに伴う握力・ピンチ力の減弱などが出現し、母指の機能低下を引き起こす。そのため、日常生活動作や就業などに支障をきたしやすく、能力低下も問題となる疾患である。今回、右CM関節症に対する関節形成術を行った症例を経験したので報告する。尚、今回の発表に際し症例より同意を得た。
【対象】
40代男性。職業:焼酎製造。利き手:右。受傷日:H20.10.11ベルトコンベアーに右母指をはさまれ受傷。手術日:H20.10.14観血的脱臼整復術施行、H21.11.25関節形成術(Burton法)施行。経過観察期間:4ヶ月。
【術後プログラム】
翌日:患肢挙上・手指可動域訓練3週:母指自動可動域訓練・渦流浴4週:シーネ除去6週:他動可動域訓練・セラプラスト8週:Power grasp開始
【検査】
VAS、関節可動域、握力、ピンチ力(指腹・三指・側腹つまみ)、関節可動域・握力・ピンチ力の健側比、日本手の外科学会日常生活動作検査(以下手の外科ADL)、DASHを術前・術後4カ月を行った。
【結果】
VAS:8/10→2/10
自動可動域(°):橈側外転40→55掌側外転45→50MP屈曲40→50MP伸展10→20IP屈曲50→65IP伸展40→30
握力(_kg_):43.0→38.7
ピンチ力(_kg_):指腹母指示指間2.8→3.4指腹母指中指間2.6→3.6三指つまみ4.4→4.8側腹つまみ7.0→6.4
健側比(%):橈側外転73→100掌側外転90→100MP屈曲67→83MP伸展50→100IP屈曲71→108IP伸展100→75ピンチ力:指腹母指示指間54→68指腹母指中指間48→86三指つまみ73→104側腹つまみ120→84握力105→97
手の外科ADL:43/60→56/60DASH:32.5→12.5
【考察】
ピンチ動作などでは強力な母指内転筋力により第1中手骨は内転・屈曲し、長母指外転筋により橈・背側に引かれ、母指CM関節には剪断力が加わる。さらに強力な母指球筋や長母指屈筋により、この関節にかかる応力は大きなものとなる。このことから外傷後のCM関節には負担が加わると関節症に移行することは十分に予測できる。作業療法をする上でも把握しておかなければならないことである。
結果としてピンチ力は術前・健側との比較でほぼ改善しており、ADLは手掌をついた動作時とタオル絞り動作時に若干疼痛を感じているが、生活に支障はない。またDASHで32.5から12.5となり手、腕、肩に関する症状と活動遂行能力は改善した。
今後、作業療法を行っていく上で重要なことは、患者自身の協力を得ることが必要不可欠であり、患者へ対して訓練の意味、状態把握、CM関節への影響などを十分説明し、指導を行うことで効果を得られると考える。
川島らはCM関節症に対する装具療法で高い疼痛改善率と、満足度が得られたと述べている。今回は装具療法を行っていないが状態に応じては十分必要であると考える。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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