九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 168
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荷物挙上動作における脊椎彎曲角の変化
*松尾 奈々村田 伸
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抄録

【目的】
腰痛は,個人の身体能力にさまざまな身体・作業負荷が加わり発生する。腰痛発症の原因は様々であるが,腰痛症患者に対して,原因に応じた運動療法や日常生活動作の指導が行われている。そのなかで,日常生活動作の指標として,高い所への収納動作の際に,腰部負担軽減からみて好ましい収納の高さを身長比で示している。しかしながら,収納動作の際に足台を使用することもあり,身長比のみでは十分な指標とならない場合も考えられる。そこで本研究は健常成人女性を対象に,荷物挙上動作を行う際の脊椎彎曲角の変化について比較検討した。
【方法】
某医療系専門学校に所属する健常成人女性14名を対象とした。対象者には研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,および個人情報の漏洩に注意することについて説明し,理解を得た上で協力を求めた。方法は,安静立位姿勢にて,両上肢で重量2kgかつ横幅が肩幅程度の箱を把持し,上肢を0°,60°,90°,120°挙上した姿勢の胸椎後彎角および腰椎前彎角を計測し,スパイナルマウスを用いて測定した。今回分析に使用したのは,第1胸椎から第12胸椎までの上下椎体間がなす角度の総和である胸椎後彎角と第1腰椎から第5腰椎までの上下椎体間がなす角度の総和である腰椎前彎角であり,後彎角を正,前彎角を負で表記した。統計処理は,反復測定分散分析ならびにScheffeの多重比較検定を行った。なお,解析にはStatView5.0を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
腰椎前彎角は上肢挙上角0°が-25.9±5.9°,上肢挙上角60°が-25.8±5.3°,上肢挙上角90°が-29.1±6.5°,上肢挙上角120°が-29.6±6.3°であった。腰椎前彎角の有意な増加が認められたのは,上肢挙上角90°(p<0.05)および上肢挙上角120°(p<0.05)であった。一方,胸椎後彎角は上肢挙上角0°が28.9±5.3°,上肢挙上角60°が27.6±5.6°,上肢挙上角90°が25.3±5.6°,上肢挙上角120°が22.5±7.8°であった。胸椎後彎角の有意な減少が認められたのは,上肢挙上角90°(p<0.05)および上肢挙上角120°(p<0.01)であった。
【考察】
本研究の結果,上肢挙上角90°以上で腰椎前彎角が有意に増加することが明らかとなった。本研究では荷物挙上動作時に2kgの負荷を加えたことで腰部関節モーメントに変化を生じ,モーメントアームが最大となる上肢挙上角90°位で腰椎前彎角の増加が生じたと考えられる。一方,胸椎後彎角は上肢挙上角90°以上で有意に減少していた。上肢挙上時の胸椎後彎角の変化は先行研究の結果を支持するものであった。以上より,立位姿勢で荷物挙上動作の際に,上肢挙上角を90°未満とすることで,腰椎前彎角の維持が図れることが推察された。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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