九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 179
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NMスケールから学ぶ認知症の理解
グループ別、項目別の特性比較
*奥野 由佳岩崎 猛松浦 由美
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抄録

【はじめに】
認知症患者は複数の認知能力が障害されるが,すべての認知能力が同時に障害されるわけではないと言われている.そこで今回,当施設の入所者を対象に実施したNMスケールのデータをもとに,統計学的見地から「低下しやすい機能」と「維持されやすい機能」を比較検討した.その結果,認知症の程度ごとに一定の特徴があることが分かった.認知症予防進行のために何が大切か,考える機会を得たのでここに報告する.なお,報告に際し当施設の倫理委員会より承諾を得ていることを付言しておく.
【対象】
2009年3月~5月までの期間に,当施設に入所されていた全利用者86名(男性27名,女性59名).平均年齢85.51±9.09歳.要介護度3.67±1.28.
【方法】
86名に実施したNMスケールのデータをもとに,判定基準に従って「正常群」~「重度群」のグループに分けた.グループ間で「身辺処理」「関心・意欲・交流」「会話」「記銘・記憶」「見当識」の項目についての比較と,「正常群」~「重度群」のグループ内での各項目の比較を,t検定を用いて実施した.
【結果】
グループ間で低下しやすい機能について検討した結果,「軽度群」は「正常・境界群」に対し,全ての項目において有意に低下していた(P<0.05).「中等度群」は「軽度群」に対し,「身辺処理」の項目において有意に低下していた(P<0.05).「重度群」は「中等度群」に対し,「記銘・記憶」と「見当識」の項目において有意に低下していた(P<0.05).
項目比較では,「会話」と「関心・意欲・交流」に着目し,「中等度群」および「重度群」において維持されやすい機能について検討した.その結果,「中等度群」において「身辺処理」は「会話」「関心・意欲・交流」と比べ,有意に低下していた(P<0.05).「重度群」においてすべての項目は「会話」と比べ,有意に低下していた(P<0.05).また,「記銘・記憶」は「関心・意欲・交流」比べ,有意に低下していた(P<0.05).
【考察】
上記より,「軽度」~「中等度群」にかけては「身辺処理機能」から低下しやすく,「重度群」になるにつれて「記憶・記銘」や「見当識」が低下しやすいことが示唆された.また,「会話」および「関心・意欲・交流」は,他の機能に比べ,最後まで維持されやすい機能であることが示唆された.
介護老人保健施設においては,その性格上,利用者に対する認知症の評価とアプローチは不可避である.今回の結果は,各利用者についてリハビリテーション計画を策定するとともに,本人や家族にこれを説明し合意と協力を得る上で,有効な指針となり得るものであると考える.今後はこれを活用したリハビリテーションの実践を展開し,続報につなげたい.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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