【はじめに】
慢性期片麻痺患者はそれぞれ独自の代償を利用した歩行パターンで生活しているが、代償動作があれば、それだけ歩行の質は低下する。特に麻痺側遊脚初期(以下ISw)から遊脚中期(以下MSw)にかけて生じる足関節背屈不足に対する分廻し歩行は臨床でよく観察される。
今回、原因筋の収縮をトリガーとし、収縮を感知すれば設定範囲内の電気刺激を筋に送り、収縮をサポートすることが可能であるPASシステム(オージー技研製)を慢性期片麻痺患者の歩行訓練に用いた。症例において効果的な運動学習の獲得が行えたので紹介する。尚、症例には本訓練に対する説明と同意を得ている。
【症例紹介】
50代男性。発症から約2年経過した脳梗塞患者。上田の12段階グレードで左下肢グレードが7。Wisconsin gait scale(以下、WGS)が32点。本症例ではISwからMSwの足尖の引っかかりを代償するため、股関節を外転させて振り出しを行っていたことが問題であった。それに付随して本来可能であるISwからMSwにおける股関節と膝関節屈曲も消失していた。
【方法】
PASシステムを用いて、症例の前脛骨筋またはハムストリングスに電極を貼った状態で歩行訓練を6週間、1日40分~60分間実施した。歩行動作の中で電気刺激を行い、分廻しの直接的な原因となっている、ISwからMSwの足関節背屈不足と膝関節屈曲不足の改善を図った。
【結果】
WGSが25点となり、特にISwからMSw時の股関節、膝関節の屈曲が初期時に比べて改善し、歩行状態および代償動作の改善を認めた。また本訓練が終了した2年後に再評価を実施したところ、同一歩行周期(ISw時)においての分廻しは改善しており、効果の持続も認めた。
【考察】
脳卒中ガイドライン(2009)において筋電バイオフィードバックとFESを組み合わせると歩行の改善、特に足関節背屈の改善に効果があると報告がある。本症例も慢性期片麻痺患者であったがPASシステムの利用によって歩行能力の改善を認めた。また、原らは随意運動をトリガーとした電気刺激のほうが、トリガーを用いない電気刺激よりも麻痺側上肢の促通効果に優れると報告している。下肢においてもISw時に電気刺激により足関節背屈、膝関節屈曲がアシストされるため、繰り返し練習することで、新たな歩行パターンが確立され、全体的な歩容の改善を得ることができた。また、セラピストの口頭指示だけではなく、動作に合わせて、原因筋に自動的に直接電気刺激を送ることが可能であり、症例にとっても容易であったと考える。
歩行における電気刺激の治療効果は高いと考えられ、今後症例数を増やして歩行獲得と改善に向けた取り組みを行っていきたい。