九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • ~第2報~
    荒木 秀明, 武田 雅史, 猪田 健太郎, 赤川 精彦, 太田 陽介, 廣瀬 泰之, 吉富 公昭, 三村 倫子, 末次 康平, 野中 宗宏, ...
    セッションID: 001
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     昨年、我々は腰痛症例で持続する疼痛によって求心性入力が歪曲され、非効率的な運動制御を呈する症例の鑑別方法として、従来の理学検査に荷重伝達機能テストを加えることの有用性と、初期治療として過緊張筋のリリースと併用して深層筋に対する特異的安定化運動と、疼痛が生じないよう注意を払いながら深層筋と表層筋を共同収縮させる積極的な動的安定化運動の有効性を臨床所見と動作解析(床反力と三次元動作解析)からその有効性を報告した。今回は骨盤帯正中化後に腰部骨盤帯に対する疼痛誘発テストとジョイントプレイを施行し、その結果に準じた治療体系の有効性を無作為に検討したので報告する。
    【方法】
     対象は著明な神経学的脱落所見を認めず3カ月以上の罹病期間を有する慢性腰痛症例122例である。対象の内訳は罹病期間が平均13.2±6.8週間、年齢が平均36.3歳、性別が男性75例、女性47例である。開始時、全例に対してZEBRIS社製床反力計PDMを用いて両脚立位と片脚立位時の床反力中心(Center of Pressure:以下COP)を測定し、支持面積と総軌跡長を測定した。理学所見は疼痛(visual analogue scale:以下VAS)と体幹前屈角度(finger floor distance:以下FFD)とした。対象は全例とも当院のフローチャートに準じ骨盤帯正中化獲得後、運動パターンをランダムに施行した群(以下ランダム群)と、疼痛誘発テストの結果に準じ、共同収縮パターン選択した群(以下選択群)に無作為に分類した。今回選択したパターンは脊柱の不安定性に対しては背臥位での広背筋と大殿筋の共同収縮、骨盤帯の不安定性に対しては股関節内転筋群と反対側外腹斜筋の共同収縮とした。治療内容は7秒間、7回施行して、両群とも運動直後、開始時と同様に動作解析と重心動揺および臨床所見を測定し、群間で比較を行った。
    【説明と同意】
     全例に対して当院の倫理規定に基づき、十分な説明を行い、同意を得た。
    【結果】
     (1)VASは両群とも改善したが、選択群のみ有意差(P<0.01)を認めた。(2)FFDは両群ともに改善傾向であったが選択群のみ有意な(P<0.01)改善を認めた。(3)COPの支持面積は両側立位で両群とも有意(P<0.01)な改善を認めた。患側での片脚立位は選択群のみ有意(P<0.01)な改善を認めた。健側での片脚立位では両群とも変化は認められなかった。(4)COPの総軌跡長は患側立位のみ有意(P<0.01)な改善を認め、両脚立位と健側立位では有意差は認めなかった。
    【考察】
     安定化運動に関する無作為臨床試行論文をレビューしてみると、骨盤帯痛と慢性腰痛の再発予防に対しては安定化運動が効果的であるが、急性腰痛の機能障害と疼痛の緩和に対する効果は認められていない。今回用いたMNRはレッドコードを用いることで、疼痛に配慮しながら微細な免荷を行いながら漸増的運動療法が可能な方法である。結果、急性期において治療直後より理学検査およびCOPの総軌跡長と支持面積が治療前後に即座に有意な改善を認めたことから、MNRの急性期症例に対して、理学検査に相応して姿勢の安定性に関しても有効性が示唆されたものと考える。
  • 高崎 光一
    セッションID: 002
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     当事業所では、活動を行う際の媒介に施設通貨を活用している。今回、認知症対応型通所介護で施設通貨(以後 通貨と略)を利用した、作業療法(以後 OT)アプローチを行った。認知症の方で、通貨を自発的に活用できるようになったケースを報告する。また、報告に当たっては、事前に本人ならびに家族への同意を得た。
    【対象】
     Aさん。80歳代後半。女性。アルツハイマー型認知症。寝たきり自立度A2。認知症の自立度IV。FIM:105点。一般性セルフエフィカシー度:5点。週3回認知症対応型通所介護を利用している。
    【経過】
     Aさんに困っていることを伺うと「腰が痛い。」と訴えられた。そこで、通貨の説明として、通貨を利用することで腰の電気治療が可能であること。通貨を貯めるためには、バイタル(血圧・体温・脈拍)の記入や家事活動の参加等を行うと良いという事を伝えた。利用されて間もなくは、スタッフの声掛けによる家事活動の参加がみられた。この頃、通貨を貰える活動・通貨を払う活動等の説明を毎回行ない通貨の出し入れをスタッフが行った。3か月経過する頃には、家事活動の参加として自主的に湯呑を洗う姿が見られるようになった。また、自宅からエプロンを持って来られ、おやつ作りを行う等積極的な場面もみられるようになった。通貨に対する認識も高まり自分で通貨の出し入れを行うようになった。6か月経過する頃には、施設で使用しているものとは別に通貨を入れる袋を自宅から持って来られ、通貨を数える姿が見られるようになった。
    【結果】
     寝たきり自立度A2→A2。
     認知症の自立度IV→IIb。
     FIM105点→107点。
     一般性セルフエフィカシー尺度:5点→6点
     今回MMSEを3カ月毎に行ない、通貨を数える時に必要な計算に着目した。初回利用時、MMSE15点(計算0点)。利用3ヶ月時、MMSE22点(計算1点)。利用6ヶ月時、MMSE24点(計算5点)。となった。
    【考察】
     対象者の行動変容の移り変わりをマズローの欲求階層説を用いて考えると、前項で説明した、経過の初期では、自発的な発言や行動は見られず、生理的欲求・安全欲求は満たされていたと考えられる。中期では、他利用者と会話や家事活動を一緒に行う姿が見られるようになり、社会的欲求が満たされている。また、自宅からエプロンを持参し、積極的におやつ作りに参加している姿が見られるようになったことから、自我(自尊)の欲求が満たされていたと考えられる。今回は、上手く通貨を利用できていた対象者であったが、認知症の進行を止めることは難しい。今後、その人その人にあった関わり、OTアプローチをどのように行なっていくかが課題となると考えた。
  • ~ストーマ閉鎖後の排便障害に対する取り組み~
    槌野 正裕, 荒川 広宣, 中島 みどり, 山下 佳代, 山田 一隆, 高野 正博
    セッションID: 003
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【背景】
     当院は、大腸肛門の専門病院として、大腸癌、特に下部直腸癌に対する肛門機能温存術が積極的に行われている。術後は、残存骨盤底筋群に対してバイオフィードバック療法(BF)を行い、通常術後3~6か月で一時的人工肛門を閉鎖する。今回、便を貯留させる耐容量の増大を目的として、新たに取り組み始めたバルーン留置訓練を実施した症例を以下に報告する。
    【症例紹介】
     H21年9月に直腸癌(Rb)StageIの診断でParital ISR(D3廓清、根治度A、AN3:右骨盤神経温存、J-pouch)、covering ileostomyを造設された症例A氏(60歳代女性)、人工肛門造設時のWexnerスコア2であり、術後6か月のDefecographyでは、肛門収縮時でも造影剤が漏れており、残存肛門機能の検査結果も併せて人工肛門閉鎖後の便失禁の可能性が高いことが懸念され、主治医より直腸肛門機能訓練を依頼された。
    【治療経過】
     術後1か月目からBFを開始した。術後6か月で安静臥位では残存括約筋の収縮は可能となっていたが、静止圧24.5cmH2O、随意圧72.1cmH2Oと肛門括約筋機能低下、耐容量40ml、体幹筋群との協調的な括約筋の収縮が困難であったため、バルーン留置訓練を開始した。
     治療内容は、1)安静臥位でバルーンを挿入した状態での肛門括約筋収縮弛緩の学習、2)抵抗を加えて筋力強化、3)片脚拳上など腹圧上昇課題を与えて持続収縮力の強化、4)抗重力活動での持続力強化の順に進めた。4)では無意識のうちにバルーンが排出されていたが、訓練開始2か月後には、バルーンが自然排出することなく動作時も保持可能となった。静止圧44.9cmH2O、随意圧109.5cmH2Oと内圧上昇し、Defecographyでは収縮時の漏れが減少していた。その後2か月程度訓練を継続し、耐容量は85mlまで上昇。安静時の漏れも改善されてストーマ閉鎖となった。訓練時の空気の量は、最少感覚閾値の20mlから開始し40mlで行った。ストーマ閉鎖後は、本人も驚くほど排便コントロールされており、便失禁を気にせずに旅行にも行け、仕事にも復帰された。
    【考察】
     直腸癌術後の排泄機能訓練は確立されておらず、当院でも筋電図を用いたBFのみを行っていた。今までの人工肛門閉鎖症例の排便状況からは、「便意があったらトイレまで我慢できない。」などの訴えが多く、検査結果からは、静止圧の低下とともに耐容量も低値であったため、バルーンを留置しての運動療法を取り入れた。筋の収縮のみの静的訓練から歩行などの動的な訓練を行ったことで、残存括約筋と体幹筋群の協調的な収縮方法を学習でき、トイレまで我慢できる能力を獲得したことが術後の排便障害を軽減させた要因であると考えられる。
  • ~術後肝合成機能に着目して~
    児玉 了, 福本 和仁, 大串 幹, 西 佳子, 水田 博志
    セッションID: 004
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     生体肝移植(living donor liver transplantation)は肝機能の廃絶したレシピエントに、健康であるドナーの肝臓の一部を移植する手術である。肝移植を必要とする患者の多くは、全身状態が極めて悪化していることが多く、易疲労性、耐久力・持久力が低下しており、十分な術前リハの介入は行われていない状況にある。術後においては開腹後リハとして呼吸理学療法や運動耐用能の向上のため運動療法が実施されているが、リハを実施する際に生体肝移植術後に特化して、運動負荷量を決める基準は明確ではなくリハ効果についても、未だ科学的に実証されていない。今回の研究の目的は生体肝移植患者に有効で安全なリハを提供するために術後肝合成機能に着目し、生体肝移植術後のリハを実施する際の運動負荷量の指標として用いられるかということをカルテより後方視的に検討することである。
    【対象・方法】
     2010年1~12月までの1年間に当院移植外科で生体肝移植術が施行され、術後入院期間中にリハビリ処方がされた5名(女性5名、平均年齢59歳)をカルテより後方視的に調査した。今回の検討項目としては 1) リハ期間中のアルブミン値の推移 2) リハ期間中のコリンエステラーゼ値の推移 3) リハ期間中のCRP値の推移の3項目を検討した。
    【結果】
     1)アルブミン値の推移を示すとリハ期間中のアルブミン値が2.5以上の症例は歩行可能な傾向にあり、歩行レベルの内訳は独歩可能1名、歩行補助具なし監視レベル1名、杖歩行介助レベル1名だった。一方アルブミン値が2.5以下の2症例は歩行不可能で坐位レベルにとどまり、その後リハ中止・死亡となった。
    【考察】
     アルブミンは肝機能合成の指標とされ、減少する病態として肝硬変の他に炎症性疾患等がある。アルブミン低値では術後の合併症や高齢入院患者での死亡率が高まるという報告もあり臨床症状としては浮腫、腹水貯留等が見られ、生体肝移植術後の患者にも同様の臨床症状がみられることが多くリハの阻害因子と考えられている。他家の生体肝移植術後の先行研究では、Cortazzoらはアルブミン値が低い患者は高い患者よりも長期のリハとなり、FIMの改善も見られなかったと述べている。今回の研究結果よりリハ期間中のアルブミン値が2.5g/dl以上の傾向にある症例は歩行可能となったが、アルブミン値2.5g/dl以下の傾向にある患者は坐位レベルにとどまり予後も不良だった。よってアルブミン値2.5g/dlが歩行訓練実施グループと非実施グループを決める運動負荷量の指標となる可能性が考えられた。
    【まとめ】
     はじめで述べたように、生体肝移植術後に特化したリハの効果については未だ科学的に実証されていない。今回の研究において対象数は少ないが、生体肝移植術後のリハを実施する上でアルブミン値が2.5g/dl以上・以下によって、運動負荷量を調整する必要性が示唆された。最後に今回は生体肝移植術後のリハにおいてアルブミン値に着目してカルテより後方視的に研究を行ったが、今後の研究では体組成計、エコーなどで筋量(muscle mass)も測定しながら生体肝移植術後のリハ効果を科学的に検討していきたい。
  • 野中 信宏, 田崎 和幸, 山田 玄太, 坂本 竜弥, 油井 栄樹, 秋山 謙太, 林 寛敏, 澤田 知浩, 宮崎 洋一, 貝田 英二
    セッションID: 005
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     我々は腱修復術後例に対して腱癒着をいかに予防,改善するかを重視してセラピィを行ってきた.しかしながら,今回意図的に腱癒着させて腱固定効果による手の機能を獲得した症例を経験したので報告する.
    【症例紹介】
     症例は本報告に同意を得た60歳代の男性で左手関節背側部に鎌を誤って切りつけ受傷した.同日近医受診し,皮膚のみ縫合された.10日後,手指伸展不能を指摘され当院受診し,左長母指伸筋腱,示指・中指の総指伸筋腱(以下ED),長・短橈側手根伸筋腱(以下ECRL・B)完全断裂,環指のED不全断裂の診断にて受傷から20日後に腱縫合術を行った.近位断端部は退縮して瘢痕で癒着しており,筋のamplitudeは低下していた.可及的に腱を引きループ針にて縫合したが,緊張は高かった.ECRL・Bは筋短縮が強く縫合不能であった.
    【術後セラピィと経過】
     術後治療目標としてECRL・Bが働かないため,EDを適度に腱癒着させてその腱固定効果を利用した把握動作の獲得とした.術後翌日に手・指関節伸展位のsplintを装着させ,術後3週間は腱縫合部が緊張しない運動のみとした.手関節背側部に創があり,浮腫が残存しやすいため特に患手挙上と伸展拘縮しやすい手指MP関節の他動内外転運動を積極的に行った.術後3週時にsplintのPIP関節以遠をカットして指自動運動を開始した.また,示・中指MP関節の他動屈曲,母指CM関節の他動対立運動を遠位関節の腱固定効果による動態にて腱縫合部への緊張を確認しながら徐々に開始した.術後6週時にスプリントを除去してADL使用を許可した.EDに関しては,近位滑走訓練は積極的に行ったが,遠位滑走訓練は手関節軽度背屈位で指完全屈曲できる程度として腱癒着を意図的に生じさせた.
    【結果】
     術後4か月時の%TAMは手関節背屈30度位測定にて母指から環指まで順に86,98,100,96%であった.手関節掌屈すると指屈曲制限が認められた.手関節自動背屈・掌屈可動域は各50・30度であった.握力は健側比54%であった.HAND20では20項目中16項目が「全く問題ない」であり,他は1点が2項目,2点が2項目であった.
    【考察】
     強力な把握動作には指屈筋群の筋力だけでなく,共動筋である手関節背屈筋群の筋力が重要である.そこでECRL・Bの作用が期待できない本症例の術後セラピィでは意図的にEDを腱癒着させることで指屈曲時に腱固定効果での手関節背屈動作獲得を試みた.結果,物品を手関節掌屈位で把持する等のEDの大きな遠位滑走を必要とする動作ではやや困難さを訴えたが,良好な近位滑走と強力な把握動作においても手関節背屈位保持できることにより,手関節背屈筋の再建等は望まず社会復帰した.本症例では通常の腱修復例のように腱癒着予防,改善を目標とせず,残存機能から予後を想定し,意図的に腱癒着させるという治療方針を術後すぐに立案できたことが二次的再建術を必要とせずに使える手の獲得に繋がったと考えている.
  • ~起立訓練支援ゲーム「樹立の森リハビリウム」の開発~
    梶原 治朗, 林田 健太, 藤原 亮太, 田川 淳, 遠藤 正英, 中島 愛, 金子 晃介, 手嶋 林太郎, 中村 直人, 藤岡 定, 松隈 ...
    セッションID: 006
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では現在、九州大学、福岡市、地場ゲーム産業(GFF:Game Factory’s Friendship)で構成される産学官連携プロジェクトと連携し、リハビリテーション用のシリアスゲーム制作事業に参画している。シリアスゲームとは、学習・医療・環境等の様々な社会問題の解決を目的とするコミュニケーションツールの一つで、従来のエンターテイメント主体のゲームと同様に、楽しくプレイしながら、かつその結果として何らかの知識やスキルも得ることを目的とする。
    【目的】
     よりシンプルでかつ重要性が高く、幅広い患者が利用可能で、単調で辛い訓練がゲームを通じて楽しくできるというコンセプトのもと、脳卒中治療ガイドラインでもグレードAとして推奨される「起立-着席訓練」をテーマに選択した。ゲームの試作・開発にあたり、実際の臨床現場において欠かすことができない安全性と有効性の両輪について検証することを目的とした。
    【方法】
     当院回復期病棟入院患者48名に対して、3つの条件下(S:患者一人で/G:ゲームを用いながら/T:セラピストと一緒に)において起立-着席訓練を実施した。ゲームの有効性の検証として患者が可能な最大起立回数、疲労度や積極性といった主観評価を測定、安全性の検証として血圧・心拍数、めまいや気分不良の訴えの有無等を観察した。データの取扱に関しては、当院臨床研究に関する規定に則り個人が特定されないよう配慮を行い、当院倫理委員会による審査、承認を得たものである。
    【結果】
     最大起立回数は、患者一人で起立-着席訓練を実施するよりも、ゲームを行いながら、またセラピストと一緒に実施した方が、有意に回数が増加する傾向が認められた。主観評価測定においても、ゲームを行いながら実施した場合が疲労度の訴えが低く、積極性や持続性に関連する評価は有意に高い傾向が得られた。安全性の検証として、全患者のゲームを用いた訓練中に、めまいや気分不良の訴えは無く、転倒事故等につながるインシデントは発生しなかった。
    【考察】
     起立-着席訓練において患者が一人で行う場合(自主訓練)も、ゲーム「樹立の森リハビリウム」を利用することで、セラピストの介入とほぼ同様の有効性が得られる可能性が示唆された。ゲーム本来の楽しさといった心理的側面が、訓練への積極性や持続性の向上につながったことが推察される。安全性の検証については、あくまで本検証試験の範囲内で確認されたものであり、一人でのゲーム利用を想定した場合、準備や指導といった対策が必要である。
    【今後の課題】
     本検証はあくまで短期間の利用にすぎず、今後より長期間の継続的なゲーム利用における有効性と安全性の検証が必要と考える。ゲーム利用に必要なセッティングも、より安全なデバイスの検討やスタートアップの簡略化等の操作性の改善が必要である。プロジェクトの取り組みは、第48回リハビリテーション医学会および7th Games for Health Conference(Boston,USA)での発表が決定しており、異分野、海外で得られた意見についても報告予定である。
  • 大山 望, 三野 結加, 伯川 未来, 後藤 仁美, 高月 航, 稲本 裕子, 三谷 興
    セッションID: 007
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳卒中片麻痺(以下CVA)患者の日常において,リーチ対象と自己との距離認識が不適切な場面は多く,転倒に至る場合も少なくない.しかし,リーチについては健常者を対象とした先行研究が多くCVA患者についての報告は少ない.そこで,CVA患者は健常者よりリーチの見積もり誤差が大きいという仮説を立て,検討を行った.また,結果から得られた見積もりの過大過小傾向について合わせて報告する.
    【対象と方法】
     対象は,当院入院中のCVA患者20名(平均年齢63.8±12.0歳,男性12名,女性8名)と健常者20名(平均年齢64.35±9.7歳,男性8名、女性12名)の計40名である.CVA患者は,発症から1~3ヶ月で,視力障害のない動的端座位保持が可能な者であり,病巣,Br.stage,ADL,高次脳機能障害,転倒歴の情報も聴取した.方法は,端座位の被検者に対して目印をつけた車椅子を接近させ,1回目はリーチせず目印に届くと判断した地点で返事をしてもらい位置を測定,2回目に実際に届く位置を測定し,2点間の距離を誤差距離とした.両群の誤差距離は絶対値を用い,Mann-Whitney検定(有意水準は5%未満)にて比較した.また,CVA群・健常群・両群各々についての実測値と予測値の回帰直線から,過大過小傾向を調べた.
    【結果】
     1.CVA患者のリーチの見積もり誤差は健常者よりも有意に大きかった(p=0.01<0.05).
     2.両群に予測>実測の傾向が見られたが,CVA群の方が健常群より予測が小さかった.
    【考察】
     今回の実験により,CVA患者はリーチの見積もり誤差が生じやすいことが示唆された.到達運動の開始前には,運動イメージに基づいた随意的運動の構えと予測的な姿勢制御が無意識下で実行され,開始後に反射や随意的な筋収縮が生じ,姿勢方略を組み合わせた運動となる.CVA患者では,この一連の過程の障害に加え,身体機能低下や高次脳機能障害により日々更新される運動イメージを繰り返し誤って認識しているため誤差が大きくなると考えられる.また,先行研究ではリーチ対象と自己が接近する条件で見積もりは過大になるとの報告があり,予測が実測を上回る傾向にあった一因に測定条件が考えられる.予測距離については,CVA群の方が小さかったが,支持基底面を超えるリーチであったため運動の困難性とそれに伴った恐怖感が影響したと推測する.本研究により,リハビリテーションでは,運動表出のみでなく認知と運動の一致も重要であることが示唆された.また,見積もり誤差の周知は,転倒防止のための環境設定や動作指導に役立ち,患者自身にとっても「気付き」のきっかけになると考える.さらに,今回高次脳機能障害を有する者ほど誤差が大きい傾向も見られたため,今後は,他条件下での検討とともに,高次脳機能障害との関連も調べ,臨床での応用に役立てていきたい.
  • 宮崎 剛, 村木 敏子, 貞清 衣津子, 一ノ瀬 拓郎, 井手 晴美, 馬場 孝祐, 橋岡 恵子, 秋山 寛治, 伊藤 一也
    セッションID: 008
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳卒中片麻痺患者の肩関節痛は報告者によって5~84%と一定の見解は得られておらず,原因については肩関節周囲炎や亜脱臼,腱板断裂,中枢性疼痛,肩手症候群等が挙げられるが不明な点が多い.またMRI等,画像診断を用いて縦断的に行われている研究は少ない.今回脳卒中発症後,肩関節痛に関して3ヶ月,6ヶ月と経時的に画像診断と臨床検査を行ったので報告する.
    【対象・方法】
     本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.対象は,平成21年12月から平成23年2月までの間に当院に入院した者とした.取り込み基準は脳卒中発症が初回の者,JCSI-3以上の者,言語的・非言語的に意思表示ができる者,研究の趣旨を理解し,ヘルシンキ宣言に基づき作成された同意書により同意が得られた者とした.除外基準は研究の主旨が理解できない者,既往に肩関節疾患がある者とした.今回は条件を満たし,脳卒中発症後3ヶ月,6ヶ月時に経過を追えた10例を対象とした. 評価項目は,画像診断として肩関節MRI,XP検査,臨床検査として,肩関節可動域,Numerical Rating Scaleを用いた肩関節の運動時痛・安静時痛・圧痛・夜間痛を調べた.MRI評価は整形外科及び放射線科の2名の医師で行った.XP検査においては3名のOTにより肩峰骨頭間距離(AHI)をSynapse (FUJIFILM Mediccal Systems)を用いて計測し,3名の平均を測定値とした.統計解析はピアソンの相関係数を用いた.
    【結果】
     検査は脳卒中発症後平均91.2±10.7日時点と平均180.8±7.9日時点に行った.対象者は平均年齢66.4±14.4歳(男性7例,女性3例)であった.肩関節可動域において運動時痛と自動外旋可動域(r=-0.71)及び他動外旋可動域(r=-0.75)との間にそれぞれ高い相関を得た.AHIにおいて3ヶ月平均16.8±8.7mm,6ヶ月平均14.6±5.2mmであり,3ヶ月時では運動時痛と中程度の相関がみられた(r=0.62).また, 3ヶ月時のAHIと自動外旋可動域(r=-0.64)及び他動外旋可動域(r=-0.82)において相関を得た.MRI所見では上腕二頭筋長頭腱炎を主とする何らかの異常所見が全例の麻痺側,非麻痺側に認められた.
    【考察】
     片麻痺患者の緊張典型例は,内転,内旋位であり外旋制限をきたし易く,その要因の一つに大胸筋の筋緊張の影響が考えられる.尚且つ大胸筋はその走行から上腕骨骨頭を下方へ引き下げる力を有することからAHIの拡大への影響も考えられる.我々の研究において,1]外旋可動域の改善と運動痛減少,2]3ヶ月時のAHI拡大と運動時痛の関連性,3]3ヶ月時のAHI拡大と外旋可動域の制限が確認できた.またMRI所見では時期や麻痺側・非麻痺側に関わらず上腕二頭筋長頭腱炎を主とする異常所見は全例に認められた.これらのことから,片麻痺患者の肩関節痛は麻痺による直接的影響とは捉え難く,肩周囲筋群の異常緊張により,従来無症候性に持っている軟部組織の加齢変化が痛みとして顕在化する可能性が示唆された.よって片麻痺患者の肩関節痛に対する予防策として,急性期からの上肢ポジショニングや軟部組織由来の疼痛に対する対応が必要であると考える.
  • 日吉 雄大, 石橋 正裕, 甲斐 公規, 浅倉 恵子, 川江 章利, 稲場 留美, 岩根 美紀, 武居 光雄, 宮村 紘平, 安保 雅博
    セッションID: 009
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年、脳の可塑性の可能性が示されて以降、大脳の機能的再構築の促進を目指したアプローチが次々と報告されている。安保らは慢性期脳卒中患者に対して積極的な上肢機能の改善を目的とした反復性経頭蓋磁気刺激と短期集中作業療法(Novel Intervention Using Repetitive TMS and Intensive Occupational Therapy;NEURO)を提唱している。NEUROはこれまで複数の施設において有効性が多々示されている。今回、当院で実施しているNEUROの取り組みとその結果について報告する。
    【対象】
     東京慈恵会医科大学附属病院にて診断を受け、同院の定める治療適応基準を満たし、当院での治療を希望された脳卒中片麻痺患者24名(男性16名/女性8名、平均年齢57.0±12.0歳、発症から当院治療までの平均経過月数41.3±30.3か月)。BRSはIII~VI。内、実用手レベルは2名、補助手レベル12名、廃用手レベル10名であった。
    【方法】
     東京慈恵会医科大学附属病院の15日間プロトコールに基づき実施。入院時と退院時に上肢機能の評価を行い、治療効果を検討した。尚、治療開始に先立ち、全ての症例から同意を得た。
    【結果】
     上田式12段階評価において上肢7名、手指11名、FMA21名、WMFT22名、WMFT-FAS19名、STEF20名、VAS17名に改善を認めた。退院時、実用手レベルは9名、補助手レベル9名、廃用手レベル6名であり、麻痺側での包丁動作や箸動作、茶碗の把持が可能となるなど、多くの症例がADL・IADLにおいて何らかの動作の獲得及び改善を認めた。
    【考察】
     今回、慢性期脳卒中患者に15日間プロトコールに基づいたNEUROを実施。その結果、上肢機能及び主観評価が改善し、慢性期にあってもNEUROによる上肢機能の改善や新たな動作獲得が図れた。新藤は麻痺側上肢の使用頻度が減ることで学習性の不使用(learned nonuse)に陥ると報告している。これは、プラトーとなり使用を諦めたことで使用頻度が従来よりも減少し、更なる機能の低下を招くといった悪循環へ陥ることを意味している。実際に経験した症例も大多数が悪循環へ陥っている状態であった。このような悪循環に対しNEUROは、機能改善や動作再獲得を可能とし日常生活でも使用頻度が増すことから、更なる機能の向上へと繋がり好循環を生み出す転機となりえる。当院では、退院後も能力の維持向上が図れるように、自主訓練が在宅生活においても継続できるホームプログラム立案や生活動作指導を行っている。今後の課題は、機能改善の評価はもとより、機能維持についても追跡調査の実施や再指導等のフォローアップ体制の確立が急務である。
  • ~損傷部位と機能障害の関係~
    川崎 亘, 小川 裕, 池田 桃子, 森部 耕治
    セッションID: 010
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     視床は、嗅覚情報の一部を除くあらゆる感覚情報(視覚、聴覚、体性感覚、痛覚、味覚など)を大脳皮質に送る感覚伝導路の中継地点として存在している。視床の損傷によって運動感覚障害が起こることは既知の問題であり、また、同部位の損傷によって覚醒、注意、記憶、情動にも障害をもたらすことが知られている。今回、視床損傷における臨床症状への対処の必要性を明らかにするために、視床の機能解剖を十分に考慮した上で、画像所見を含めた症例の経過を報告する。
    【方法】
     急性期病院を経て当院回復期病棟に入院した視床出血患者4例(右3例、左1例)を対象とした。画像所見は入院時に撮影されたCT画像を利用し、視床出血による損傷部位を各例で列挙した。視床の損傷部位は、機能解剖学的に分類される、後部(PO)、腹外側部(VL)、前部(AN)、背内側部(DM)に特定し、臨床症状との統合・解釈を行った。また、本研究の調査を行うにあたり、当院の個人情報保護規定に基づき申請し、その取り扱いを行う許可を得た。
    【結果】
     視床出血4例中、2例は中等度から重度の感覚障害を呈し、画像所見からPO・VLの損傷を認め、内、退院時に中等度の上下肢運動麻痺が残存した1例は内包後脚の損傷も認めた。軽度の感覚障害に伴い注意障害・記憶障害を呈した1例はANの損傷を認めた。軽度の感覚障害と注意障害・記憶障害・情動障害を呈した1例はANとDMに損傷を認めた。
    【考察】
     視床損傷により感覚障害を呈し、損傷範囲またはペナンブラの影響によっては運動麻痺を伴う症例が多い。今回調査した4例中1例は内包後脚の損傷により運動麻痺が残存したものの歩行自立に至った。しかし、軽度の感覚障害であったが、注意障害・記憶障害・情動障害を伴った1例は、屋外歩行においては監視が必要な状態での退院に至った。この症例は、下肢の運動麻痺は軽度であったが、注意障害・記憶障害に伴う認知機能低下に加え、情動障害といった発動性低下・高い依存性・周囲への関心の低下といた退行的な行動変化が残存した。ANやDMは前頭前野や帯状回・扁桃体といった情動や思考・意欲・感情を司る部位との回路形成があり、ANとDMの損傷によりこれらの認知機能障害を引き起こしたと考える。リハビリテーションを進めていく上で、日常生活活動(ADL)の向上や社会復帰に向けて、運動機能回復の予測や画像所見と臨床症状の把握は重要であると考える。視床損傷患者においては、感覚フィードバックの能力低下を認めるも、視覚代償などの残存能力を活かしての機能回復に至る症例が多いと感じる。しかし、視床損傷に伴う認知機能低下は、学習といった機能回復の重要な役割に対し多大な影響を与える要素であり、特にANやDMの損傷を認めた場合は、認知機能障害の有無を確認し、十分に考慮してリハビリテーションを進めていく必要があると考える。
  • ~右脳梗塞の1例~
    納富 亮典, 原 麻理子, 飯盛 美紀
    セッションID: 011
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     右の広範な脳梗塞後,左手に非所属感,無目的な運動,物品操作時の拙劣さと握り込みを認めた症例に対し,外言語化による左手の運動を導入した結果,改善がみられたため,考察を加え報告する.尚,症例と家族には発表に際し文書同意を得た.
    【症例紹介】
     80歳代,女性,右利き.診断名:心原性脳塞栓症.Br-stage:左上肢・手指・下肢共にV.感覚:左上下肢表在・深部覚共に重度鈍麻.左手に強制把握あり.FIM:44点.
    【MRI・FLAIR所見】
     右頭頂葉・後頭葉・前頭葉内側,脳梁全域に高信号.
    【神経心理学的所見】
     MMSE:24/30点.BIT通常検査:14/146点,行動検査0/81点.数唱:foward5桁,backward4桁.聴覚性検出課題:正答率84%,的中率45%.記憶更新課題:3スパン正答率13%.PASAT:2秒条件3%.FAB:4/18点.Kohs立方体:不可.SPTA:拙劣さあるが命令・模倣動作とも可能.VPTA:錯綜図5/6,未知相貌の異同弁別7/8.
    【左手に関する症状】
     無目的に動く.左手に対して「隣の人の手」「この人,静かにしなさい」といった発言をする.物品操作では,リーチのずれ,Preshaping・shapingの拙劣さ,握り込みを認める.日常生活での使用は乏しい.
    【介入・経過】
     まずは外言語化による無目的な運動の抑制を試みた.また,「誰かの手」と言う左手の非所属感,左手の低使用,握り込みに対し,右手の運動抑制と左手の運動拡大を目的に,物品の握り・離しの単純動作を徒手的に誘導しながら実施した.自室内環境としても,ベッドでの寝返り方向,テレビ,棚の位置を左方向へ変更し,病室内の導線(トイレ,洗面台,廊下まで)をマーキングし,左空間への視覚探索・動作機会の増加を促した.左手への注意向上がみられた頃より,両手動作の練習を開始した.まずは手洗いなどの簡単な慣習動作から開始し,セルフケア,簡単な生活関連動作へと進めた.結果,セルフケア場面での左手の使用の増加や,外言語化による自己調整が可能となり,内観も「誰かの手」から「自分の左手」へと変化した.
     発症5ヶ月後にはBr-stageには変化はないものの,神経心理学的所見は,MMSE:24点,BIT通常検査:130点,FAB:8点,ADLはFIM:103点となり,歩行・整容・更衣・排泄動作は自立となった.
    【考察】
     本症状は左手の非所属感,無目的な運動より,posterior typeのalien hand syndromeと考えられた.病巣は広範な右半球と脳梁にあり,左手の情報と行為の中枢である左脳との連絡が絶たれたことによる症状と考えられ,非所属感や無目的な運動が生じた左手に対し,外言語化による左手の情報伝達と運動指令の再学習は有効と思われた.
  • ~健康関連QOL(HR-QOL)からの検討~
    児玉 紘子, 吉岡 かおる, 花房 宏行, 新川 寿子, 奈良 進弘
    セッションID: 012
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     急性期リハビリテーションの後、在宅へつなげていく回復期リハビリテーションでは期限内で最大の能力の改善が要求される。そのため、心身の機能と能力の獲得への働きかけが最優先される。さらに、対象者の特性の多様性や合併症などの個人因子、家庭や地域などの環境因子への配慮もQOLを目指したアプローチには不可欠である。今回は、HR-QOL得点の変化の検討を行ない、回復期脳卒中患者の生活やニーズについて検討する。
    【対象】
     当院回復期リハビリテーション病棟に2010年1月から2010年8月までに入棟し作業療法を施行した脳卒中患者のうち、入棟時のMini-mental state examinati(以下MMSE)が20点以上の方に研究の主旨を説明し、それを十分に理解し協力に同意した方を対象とした(男性13名:女性8名、平均年齢60.2±14.6歳、入棟時FIM平均85.8±21、MMSE平均26.1±3.4点、平均在棟日数169±31.8)。
    【方法】
     QOLの評価はHR-QOLに注目しSF-36を使用した。入棟時と3ヶ月目、退棟直前に施行した。その中で、SF-36の下位項目の経過について、30歳代から59歳以下の群(若年群)と60歳代の群(60歳代群)、70歳代以上の群(高齢群)の3群に分け比較した。
    【結果】
     21例中1例以外は在宅復帰し、退院時のFIMは108±15.7点と改善していた。SF-36は入棟時、3ヶ月後、退棟時の得点について各年代間で違いを認めた。身体面の満足度を示す日常役割機能身体、社会生活機能については得点が改善していた(p<0.05)。しかし、精神的な満足度を示す項目では改善が認められなかった。
    【考察】
     今回の対象者の内、1名を除いて全員が在宅復帰し、FIMの得点も大きく改善しており、このことから、今回の対象者はいずれも機能的に高いグループであったと考えられる。年代によってHR-QOLの違いが認められたことから、年代を考慮したアプローチが必要である。すなわち、若年群では機能回復や能力獲得も早期に達成できるが、それによって復職などの次の目標へ挑戦していくことが必要となる。高齢群ではライフステージの中での役割の変化などへの対応が必要となる。また、身体的な下位因子では改善が認められたが、精神的な因子にはこのような変化が認められなかった。身体的な改善はQOLに良い影響をもたらし得るが、そのことが直ちに精神的な側面には反影しないことが示唆される。これは、身体的な改善によって次の段階の課題に直面することが一因と考えられる。精神的な側面へのサポートの重要性が示されたものと言える。
     以上の結果から、回復期のリハビリテーションにおいては、機能回復と能力改善へのアプローチとともに、ライフステージに基づく生活活動や社会活動を考慮した支援の重要性が確認された。
  • ~着衣動作に着目して~
    相田 淳子
    セッションID: 013
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     今回、脳塞栓症により高次脳機能障害に伴う着衣障害を呈した症例を担当した。入院時より、更衣に時間を要しており、錯行為が頻繁に見られることで頻回に口頭指示と修正介助を要していた。このような症例に対し、同環境で正常反応の反復練習と行為を細分化した要素的動作を重点的にアプローチすることで、改善が得られたので報告する。
    【症例紹介】
     80歳代男性。利き手は右手。平成22年3月に脳塞栓症を発症し、右片麻痺、運動性失語、高次脳機能障害を呈した。家族構成は、妻・長女と同居。発症前の生活は、更衣を含め全て自立。25病日後に回復期病棟回復期へ入院となる。
    【初期評価】
      Br-stage:上肢II-手指IV-下肢IV。感覚:表在・深部ともに重度鈍麻。筋力:左上下肢4レベル。高次脳機能:注意障害、観念運動失行、着衣失行、身体失認。FIM51点。更衣において、着衣はかぶり・羽織りともに一部介助レベル。所要時間は、かぶり5分30秒、羽織り4分15秒。着衣時に、一連の動作手順の理解不足、袖口の探索や服の形状把握に時間を要す、次の行為への移行がスムーズに行えない、といった問題点が認められた。
    【経過】
     第1期では、右上肢への意識付けと、錯行為が起こらないように動作前に確認を行うことで、正しい更衣手順の理解を図った。第2期では、高頻度に錯行為が現れやすい箇所に対し意識付けを強化した。また、動作手順を記したプリントを配布し、確認と練習を繰り返した。第3期では、同環境での反復練習を継続し、手順の定着化と所要時間の短縮を図った。
    【結果】
     入院6ヶ月経過。Br-stage:上肢III~IV-手指III-下肢IV~V。感覚・筋力:変化なし。高次脳機能:初期より軽減。FIM92点。更衣において、日によって動作遂行度に変動はあるが、かぶり監視、羽織り監視~一部介助(口頭指示、修正介助)に改善が得られた。所要時間は、かぶり1分40秒、羽織り1分50秒と大幅な短縮へと繋がった。
    【考察】
     着衣動作を阻害する要因として、主に3つの問題点が考えられた。それらの問題点に対し、まずは正しい動作手順の習得を目指し、錯行為が起こらないように正常反応の反復練習を行った。その中でも、服を広げて袖口の確認や服の形状把握をすること、右上肢を肩まで通してから背部に回すことを反復練習し、重点的なアプローチを実施した。種村は、生活障害を引き起こしやすい失行例に対しての治療ポイントとして、環境による動作成績の相違を確認することや、行為を細分化し、個々の要素的動作を行うことを挙げている。Heilmanによる観念運動失行患者の運動記憶学習の研究では、学習能力の低下を報告しており、本症例においてもその傾向が認められた。そのため改善には長期間を要したが、以上のポイントを押さえた関わりを行ったことで、着衣動作の改善に繋がったと考える。
  • 岩松 希美, 小柳 靖裕, 山内 康太, 鈴木 聡
    セッションID: 014
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     脳卒中治療ガイドラインにおいて、起立―着席訓練などの下肢訓練の量を多くすることは歩行能力の改善のために強く勧められている。また、歩行の改善のために短下肢装具(Ankle Foot Orthosis:AFO)を用いることも勧められている。急性期の片麻痺患者では早期から治療用装具を作成することが必要となるが、経過において長下肢装具(Knee Ankle Foot Orthosis:KAFO)からAFOへと移行する症例も多い。しかしKAFOからAFOへの切り換え(カットダウン)に必要な機能やKAFOの処方の詳細に関する報告は少ない。今回我々はカットダウンに必要な身体機能やADL能力を明らかにするために検討したので報告する。
    【対象と方法】
     2010年4月~2011年2月に脳卒中を発症した125名(年齢75.8±11.5歳、男性76名、女性49名、脳梗塞100名、脳出血24名、くも膜下出血1名)のうち、KAFOを使用して歩行練習を実施した症例を対象とし、退院時までにカットダウンした症例をカット群、カットダウンしなかった症例を非カット群に分類した。KAFO使用症例は22名で、使用期間は25.8±14.0日(発症28.7±13.3日)、在院日数は47.3±12.9日で、そのうちカットダウンしたのは15名であった。身体機能の評価として下肢Brunnstrom.Stage、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)、Trunk Control Test(TCT)、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)を、ADL能力の評価としてFunctional Independence Measure(FIM)を発症7日目、21日目にそれぞれ評価した。統計処理は2標本t検定、Mann-Whitney U検定を用い、有意水準を5%とした。本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に沿った倫理的配慮を行った。
    【結果】
     急性期脳卒中片麻痺患者のKAFO使用例において約68%がAFOへと移行した。発症7日目の評価においてカット群と非カット群で有意差はみられなかった。発症21日目においてカット群、非カット群のTCTはそれぞれ61.9±33.4点、15.4±20.5点でカット群が有意に高かった(p<.05)。同様にNIHSSは8.9±3.8点、15.0±5.4点、FIMは運動項目が31.9±21.5点、17.0±8.2点、認知項目が21.5±11.1点、8.9±6.4点で有意差があった(p<.05)。21日目のその他の評価で両群に有意差はみられなかった。
    【考察】
     急性期においてカットダウン可能な症例は多く、装具作成時には適切な選択が必要とされる。またカットダウンに必要な身体機能には、筋力や麻痺の程度だけではなく、体幹機能が関与し、ADLの改善にも影響を与えると示唆される。
  • ~シャント術後2年間追跡した1例~
    山内 康太, 鈴木 聡, 小柳 靖裕, 熊谷 謙一
    セッションID: 015
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【緒言】
     特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は歩行障害,認知障害,排尿障害を3徴とし,髄液シャント術により症状の改善を得る疾患である。今回,iNPHに対し脳室-腹腔シャント術を施行し,術後2年間の歩行能力を追跡した症例の経過を報告する。
    【症例・経過】
     80歳,女性。当院受診2ヶ月前より歩行障害が急激に進行し,画像所見より脳室の拡大(Evans Index0.27),シルビウス裂の拡大,円蓋部の狭小化を認めiNPH疑いにて入院。CSF tap test前後において歩行能力の改善認め,脳室-腹腔シャント術施行し,術後16日目に自宅退院。緩徐に身体機能は悪化し術後1年4ヵ月後より老人保健福祉施設に入所となる。
    【方法】
     評価項目は10m歩行試験にて自由および最大歩行における秒数と歩数,TUGにおける秒数と歩数,自由歩行における歩幅,歩隔,6分間歩行距離,MMSEとした。測定はCSF tsp test前後,シャント術7日目,14日目,1年後,2年後に実施した。なお,今回の調査はヘルシンキ宣言の趣旨に沿った倫理的配慮を行った。
    【結果】
     自由速度10m歩行試験における秒数・歩数はCSF tap test前後で38.7秒,78歩から18.1秒,33歩と改善し,7日目において15.8秒,28歩と最高値を示し,1年後では20.1秒,37歩,2年後では29.9秒48歩であった。最大速度10m歩行試験も同様の傾向であった。TUGにおける秒数・歩数はCSF tap test前後では55.0秒,88歩から26.9秒,42歩と改善し,14日目に24.0秒,38歩と最高値を示し,1年後33.0秒,44歩,2年後43.8秒,56歩であった。歩隔はCSF tap test前は25.0cmであったが,tap test後は18.5cmと改善し,1年後19.0cmと維持していたが,2年後では24.5cmとtap test前と同等であった。6分間歩行距離はCSF tap test前後では85mから138mと増加し,14日目では227mと最高値を示し,1年後190m,2年後100mであった。MMSEはCSF tap test前後では14点から16点とわずかであるが増加し,14日目では20点,1年後19点,2年後16点であった。シャントバルブ圧は退院時は120mmH2Oであり,退院後は130mmH2Oで一定であった。
    【考察】
     全ての項目にてCSF tap test後に改善し,シャント術後7,14日目に最も改善していた。シャント1年後,2年後では歩行障害,認知障害は緩徐に進行したが,2年後においてもCSF tap test前より各パラメーターは高値であった。歩行障害,認知障害の緩徐進行はシャント機能不全ではなく,加齢や活動性の低下が主要因であると考えられた。
  • 奥山 貴幸
    セッションID: 016
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     手術、麻酔後の合併症として術後高次脳機能障害Postoperative cognitine disorders(以下、POCD)は、近年、国内外で存在が確認されている。当院においても、現在までに各種術後にPOCDと考えられる症例を数例、認めた。その中でも今回、高次脳機能の一要素である注意機能を心臓外科術前後で差があるのかを調査する機会があったのでここに報告する。
    【対象および方法】
     心臓外科手術前後の83名。検査期間は心臓外科手術日を基点とし心臓外科手術前後2週間以内であり、検査は個室で行った。また検査実施の拒否や極度の意欲低下を示す症例、あるいは術後に明らかな脳梗塞などの合併症を呈した例、強いせん妄状態を認めた例は耐久性や理解力の低下などで、正確なデータの採取できない状況であったので対象外とした。また、標準注意検査法(以下、CAT)においてContinuous Performancen Testを除いたそれぞれ6項目の検査を心臓外科手術前後に実施し、術前にすでにカットオフ値を下回っている対象群(以下、術前低下群)、術前はカットオフ値を上回っているが術後に術前より低下している対象群(以下、術後低下群)をそれぞれの対象群での注意機能の低下の発生の割合を算出した。
    【結果】
     術前低下群では全項目でカットオフ値より低値を示さなかった例は60例中2例であり、全体の2%足らずであった。また術後低下群において検査項目別では、TappingSpan backwardが10例中9例(90%)Digit Span backward が22例中15例(68%)、Paced Auditory SerialAddition Test(以下、PASAT)の1秒条件が38例中21例(55%)などであった。
    【考察】
     術前検査において、すでにCATのカットオフ値未満である例が全体の98%と高い数値を示した原因としては、検査に対する意欲や不安などの精神的問題や耐久性の低下などの原因が考えられるが、すでにある心疾患による影響もあるのではないかと考えられる。さらに術後低下群でもほとんどの検査項目で発生率が高値を示した原因としては術前と同様に精神的問題や耐久性の低下も考えられるが、心臓外科手術後の合併症としてみられる脳梗塞、服薬状況などの影響も考えられる。今回の調査では心疾患を抱えている患者では術前においても注意機能が低下している対象が多いことが分かったが、術後2週間以内でも注意機能は低下している対象が多いことが分かった。その期間は身体的能力に支障がなくとも、注意機能は低下している可能性があり日常生活上では、転倒のリスクや記銘力を要する課題などにも影響が出るのではないかと考える。
  • 下仮屋 奈々, 榎畑 純二, 久松 憲明
    セッションID: 017
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回は脳損傷患者にみられた半側空間無視unilateral spatial negrect(以下USN)における聴覚性注意検査と日常生活活動activities of daily living(以下ADL)能力およびリハビリテーション(以下リハ)による経過について検討を行った。
    【対象】
     対象は2010年1月から2010年9月までに当院回復期リハ病棟に入院加療しUSN症状を呈した6例であった。
    【方法】
     1.リハの方法:リハは当院回復期リハ病棟で通常行われている作業療法・理学療法・言語聴覚療法を実施した。2.評価(検査)の方法:USN評価は行動性無視検査(Behavioural inattention testの通常検査(以下BIT)と、USNのADL評価であるCatherine Bergego Scale(以下CBS)を使用した。聴覚性注意検査は標準注意検査法(Clinical Assessment for Attention(以下CAT)より、聴覚性検出課題(Auditory Detection Task,以下ADT)とPaced Auditory Serial Addition Test2秒用(以下PASAT)を用いた。 ADL評価はfunctional independence measure(以下FIM)を使用した。3.評価時期:BIT通常検査、CBS、ADT、PASAT、FIMを訓練開始前後1週間(以下初期)、訓練開始後3週目(以下中期)、訓練開始後6週目(以下最終期)の計3回実施し経過の分析を行った。4.統計学的処理 統計学的分析はADT、PASAT反復測定一元配置の分散分析をBIT通常検査、CBS、FIMはFriedman testを実施した。水準間の差が認められたものは多重比較検定のTukey法を行った。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     BIT通常検査では、全体として改善傾向がみられたが統計学的有意差はなかった。CBSでは初期と中期および最終期に、FIMでは初期と最終期に有意な差が認められた。聴覚性注意検査であるADT正答率とPASAT正答率では初期と中期に有意な差を認めた。
    【考察】
     CBSとFIMは両評価とも初期、中期、最終期と経時的に改善傾向にあり、統計学的分析においてCBSでは初期と中期および最終期に、FIMでは初期と最終期に有意な差を認めADL場面でのUSNの改善が示唆された。PASAT正答率において高値を示したのは40代、50代の患者であったため、聴覚性注意検査では年齢の影響が関与する可能性があるのではないかと思われる。統計学的分析ではADT正答率、PASAT正答率の初期と中期にて有意な差が認められ、訓練初期での改善率が高いことが推測された。 以上のことよりUSNの実態をより理解するためには ADLを視点とするCBSや聴覚性注意検査も併せて実施し、その検査を認識したリハアプローチと判定が必要であると考えられた。
  • 塩屋 雄一, 岩下 大志
    セッションID: 018
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     重症心身障害児・者において日常生活における姿勢管理は重要な支援の1つである。今回、1症例に対し24時間の姿勢管理を再考し姿勢保持具を導入した。そして定量的評価を縦断的に実施し検討を行った。ここに家族の了承を得ることができたので報告する。
    【症例紹介】
     H様、13歳、女、サイトメガロウイルス感染後遺症、GMFCS level5、Chailey姿勢能力発達レベル 背臥位level2。右凸側彎・胸郭扁平・風に吹かれた股関節(両股関節脱臼)が見られ、非対称的で不均衡な接触支持面での姿勢を呈している。
    【姿勢管理】
     平成21年3月初~中旬までを姿勢保持具導入前(第1期)としクッションを使用した半背臥位・半腹臥位を行う。平成21年3月中旬~平成23年4月までを姿勢保持具導入後(第2~8期)とし日常生活三間表より日中は半背臥位・半腹臥位、夜間は背臥位の各姿勢保持具を使用した。姿勢保持具は対称的で接触支持面の拡大を目的として作製した。
    【評価】
     1)胸郭の厚み/幅=比率。2)体幹の骨指標計測(a.烏口突起、b.上前腸骨棘にて右a~右b、左a~左b、右a~左b、左a~右b)。3)Goldsmith指数を8期間にて10回ずつ計測し、1元配置分散分析と多重比較検定を行った。また4)体圧分析(背臥位と姿勢保持具)、5)股関節の側方偏移率(平成21・22年)を含めて検討した。
    【結果】
     1)2)の比較検定では有意差はなく3)では導入前後の比較検定に有意差が見られた。4)では姿勢保持具において接触支持面の拡大が確認できたが5)では、左股関節が上方へと偏移していた。
    【考察】
     文献によると他動運動や日中・夜間時のポジショニングなどにて拘縮の予防と筋の長さが維持されやすいとある。症例も対称的で接触支持面の拡大が促され3)4)に有効的な結果が得られたと考える。しかし5)より対称的な姿勢にて股関節外内転筋群は伸張されているが屈曲・伸展筋群では治療効果が少なく、臼蓋形成不全で脱臼していた左股関節は徐々に上方へと偏移してしまったと推測される。また1)2)でも胸郭や脊柱などが年数をかけて重症な構築的変形をきたしてしまい、改善が困難であったと考えられる。だが結果より適切な姿勢管理を行うことで現状は維持されており、縦断的定点調査における評価方法についても妥当であると示唆された。
    【まとめ】
     重症心身障害児・者における姿勢管理についての調査は、これまで殆ど実施していないのが現状である。今回は定量的評価・縦断的定点調査を実施することで過去の経緯、現状の把握、今後の方向性などの重要な指標が得られることに気づくことができた。更なる調査等を重ね、利用者の日常生活の質の向上へと還元していきたいと考える。
  • 長澤 元, 川上 大輔, 田中 美和, 大石 ちあき, 高下 大地, 坂田 師敬
    セッションID: 019
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     パーキンソン病患者の歩行障害により、転倒を繰り返す症例に対し、ポジショニング・視覚刺激介入を実施した。その結果、転倒予防への改善を認めた為、若干の考察を加え報告する。本報告に関し趣旨を説明し、本人・家族に同意を得た。
    【症例紹介】
     年齢・性別:70代女性。身長:140cm。体重:32.5kg。診断名:パーキンソン病・右肩腱板断裂・右肩関節脱臼。視力・聴力:問題なし。MMSE:22点。ROM:(右肩関節)屈曲80°・外転50°。(頸部)屈曲30°・伸展55°。MMT:左右上下肢4レベル。筋緊張:頸部筋緊張亢進。常時過伸展位。Hoehn-Yahrの重症度分類:4度。UPDRS:59/147。FIM:85/126。排泄は、ポータブルトイレ(以下Pトイレ)自立で行っていた。
    【目的】
     本症例は、当老健入所時より移動動作時、複数回転倒を認めている。今後、すくみ足等の歩行障害の症状における転倒予防の為、ベッド周囲移動動作のリスクの減少を図る。
    【介入】
    車椅子上、頸部過伸展予防を図る為に、ポジショニング実施。その後、視覚マーカーを作製し、すくみ足減少をサポートした。
    【結果】
     ポジショニングにより頸部過伸展減少し、視野拡大され視覚による情報入力量増加する。また、視覚マーカー非使用時、使用時の平均所要時間は、ベッド→Pトイレで0.79秒、Pトイレ→ベッドで0.49秒、ベッド→車椅子で0.01秒の短縮、車椅子→ベッドでは、0.41秒の延長となった。すくみ足出現回数は、全ての移動時合計で、視覚マーカーなし:28回、視覚マーカーあり:7回と著明に減少がみられた。
    【考察】
     本症例の当老健での転倒時の状況より、すくみ足による歩行障害が、転倒要因の1つであると考えられた。今回の介入により、すくみ足出現回数が著明に減少した。それにより、視覚刺激としてのマーカーが、踏み出しを誘発させる動機付けとなり、すくみ足等の歩行障害が改善される可能性が認められた。今介入以降、Pトイレ移動時等における転倒報告はされていない。今回は、視覚に焦点をあてたが、今後は歩行周期など動作分析に着目してアプローチしていきたい。
  • 徳永 剛
    セッションID: 020
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳血管障害患者の障害像は多様であり,日常生活活動能力(以下ADL)向上と自宅退院が必ずしも一致しないことを臨床で経験することも多い.そこでADL以外にも,自宅退院に影響を及ぼす要因があるのかを検討したのでここに報告する.
    【対象】
     H20年4月1日~H22年4月1日までに回復期病棟を退棟した脳血管障害患者48名(男性17名,女性31名)を対象とした.疾患の内訳は,脳梗塞25名,脳出血18名,その他5名である.対象者を自宅退院した者26名(以下,自宅群),施設または転棟した者22名(以下,非自宅群)に分類した.状態悪化で転院した者,発症前が自宅生活でない者は対象から除外した.
    【方法】
     自宅群と非自宅群の2群間で(1)年齢,(2)性別,(3)退棟時のBarthel Indexの各項目・合計点,(4)日常生活自立度,(5)痴呆老人の日常生活自立度,(6)高次脳機能障害の有無,(7)同居家族の有無,(8)同居家族の人数,(9)日中及び夜間介助者の有無を比較した.
     統計には,(1)(8)には対応のないt検定,(2)(6)(7)(9)にはカイ2乗検定,(3)(4)(5)にはMann-WhitneyのU検定をそれぞれ使用し,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
     (4)日常生活自立度,(5)痴呆老人の日常生活自立度,(8)同居家族の人数において自宅群が非自宅群に比べて有意に高かった(P<0.05).(6)高次脳機能障害の有無は,非自宅群が自宅群に比べて有意に高かった(P<0.05).その他の項目には有意差がみられなかった.
    【考察】
     脳血管障害患者において,機能向上・ADLの向上が目標として掲げられるが,すべての能力を獲得することは困難を要し,障害が残存することで,活動性低下,日常生活自立度低下し,自宅退院困難となる.また非自宅群において,高次脳機能障害(注意障害,失語症,半側空間無視,意識障害など)が有意にみられ,その中でも注意障害が半数以上を占めている.日常生活におけるリスクが高まることで介助・介護量が増えることが原因として考えられる.
     また同居家族においても非自宅群の方が,有意に人数が少ないことから介助・介護力が少なく,負担が大きくなっていることがうかがえる.
     以上のことから,障害によって介助・介護量が増えること,同居家族の介助・介護負担が増えることが,自宅復帰を阻害する因子として挙げられる.よって今後,自宅復帰率を向上していくためには,介助・介護負担を軽減することが不可欠である.
  • ~排出困難・蓄便困難への具体的アプローチについて~
    村田 奈理加, 溝口 祐香, 井上 みちる, 鎚野 正裕, 神山 剛一, 野明 俊裕, 荒木 靖三
    セッションID: 021
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     現在のリハビリテーションにおいて、排泄に関する訓練内容は基本動作・更衣動作・歩行訓練などの、排泄を行う際の一連の動作訓練が主流である。当院では、排泄に対する理学療法として、直腸まで便塊が到達しているが排出する事が出来ない排出困難と、便塊を直腸内に溜める事が出来ない蓄便困難に分けてアプローチを行っている。今回、排便障害に対し理学療法士介入したところ症状が改善した為、具体的アプローチを症状に分けて報告する。
    【対象と方法】
     訓練を行う際、指示理解が十分得られる事を前提とした。直腸肛門機能が低下した2例に対し、50ccのairを注入したバルーンを直腸内に挿入して理学療法士と検査技士が協働して介入した。排出困難には簡易式便座を使った偽便排出訓練を、蓄便困難には直腸内に留置した状態で訓練を行う偽便留置訓練を実施した。
    【症例1】
     80代男性。2年前より排出困難感出現。近医にて処方された坐薬を1回/3日に使用するも徐所に効果軽減。排便コントロール不良となり当院受診、偽便排出訓練開始となる。初回時、排出の際の息み方、骨盤前後傾しながら行い、さらには全身の筋緊張亢進・腹圧上昇困難であり、バルーン排出要介助であった。排出訓練と同時に骨盤底筋体操・排泄動作指導を行い、徐々に症状改善する。17回の理学療法介入後バルーン排出可能となり排出困難改善し自然排便が見られるようになった。
    【症例2】
     20代女性。二分脊椎により膀胱直腸障害あり。直腸肛門感覚は軽度鈍麻レベルで、直腸感覚の閾値も高い状態であり便秘と便失禁を繰り返していた。初期評価では偽便留置時間は2分。基本動作の段階で、漏れはなかったものの、平地歩行開始1mで偽便排出が見られた。その後理学療法士による介入から1年経過し、最終評価では基本動作・平地歩行・階段昇降時の留置も可能となり、偽便留置時間15分と延長された。経過と共に便漏れも減少していき、初期の段階では肛門運動も見られなかったが最終では随意的収縮が行えるようになった。
    【今後の展望】
     排便障害は、従来いわれてきた大腸肛門疾患・手術後の障害・先天性異常などに加え加齢による排便障害も急増し、その患者数は今後も増え続けると推察する。しかし、医療の分野においても排泄リハビリテーションの認知度は低いのが現状であり、今後も理学療法士としての排便障害への取り組みが、どのように影響を及ぼすか研究を深めていき、排泄の分野でのリハビリテーションを確立させていきたい。
  • 内田 健, 大橋 繁, 芳賀 公平, 北崎 由紀子, 中原 葉子, 空閑 彩加
    セッションID: 022
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     当院にてリハビリテーションを実施している患者と家族において、主たる介護者と当科職員との在宅復帰における認識較差が、患者の転帰や方針に大きく影響を及ぼすと推察し、認識較差についての調査を行った。なお本研究は当院の倫理委員会の審議に基づく審査を経たものである。
    【対象・方法】
     平成22年12月1日~平成23年3月31日の期間に当院入院中であり退院後何らかの介護・支援が予想される患者の主たる介護者に対して、入院1ヶ月経過時点でアンケートを実施した。内容は主たる介護者に対して34項目(病前生活・介護保険・ADL等)、職員に対して関連する26項目(FIM・HDS-R等)を実施。また主たる介護者、職員共に患者が在宅復帰可能か否かの主観的評価として、VAS(100mmの物差しスケールを用い、在宅復帰可能を100、困難を0)を用いた。主たる介護者の評価に基づき、在宅復帰可能と考える群(VAS:51~100mm;以下A群)、在宅復帰困難と考える群(VAS:0~50mm;以下B群)に分け、一標本t検定・Mann-Whitney検定を用いて統計処理を行った。
    【結果】
     対象患者35名(男性11名、女性24名、平均年齢79.5歳 標準偏差7.72)、主たる介護者35名(男性15名、女性20名)、有効回答数29名82.8%であった。A群18名・B群11名のVAS・FIMを職員との差(認識較差=職員-主たる介護者)を計算し検証した。A群ではそれぞれ認識較差を認めず、B群ではVASが平均+3(P<0.05)、FIMが平均+5.36(P<0.05)と認識較差を認めた。次にA・B群間で患者の個人因子のうち、高次脳機能障害の有無・程度、認知機能では、B群が重度の結果(P<0.05)となった。さらに環境因子のうち家屋状況(一軒家A群83.3%、B群36.3%)、在宅で患者が一人になる時間(6時間以上A群16.6%、B群63.6%)に有意差(P<0.05)を認めた。在宅復帰率はA群88.9%、B群27.3%となり有意差(P<0.05)を認めた。住宅改修の可否、介護力、介護保険サービスの知識は有意差を認めなかった。
    【考察】
     介護者は、入院前の家屋状況や退院後在宅で患者が一人になる時間の長さを重要視していた。住宅改修などの環境設定がより容易であり、尚且つ常に何らかの見守りができる状況であれば、家族は在宅生活を受け入れる心構えが出来易いと推察する。また、在宅復帰困難と考える介護者は、把握しているADLを実際の患者能力より低く認識していた。それにより、退院支援意欲や在宅復帰率の低下に繋がったという可能性が示唆された。本研究より患者・家族との認識較差を是正し退院支援に繋げるには、リハスタッフが介護者と綿密な係わりを持ち、情報をより正確に共有することが重要であると考える。
  • 石川 夏奈子, 高宮城 あずさ, 比嘉 俊文, 濱川 みちる, 島袋 雄樹
    セッションID: 023
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     ヒトは四肢運動に先行して腹横筋、多裂筋など深層筋が活動する先行姿勢調節機構(Anticipatory Postural Adjustments:以下APA)がはたらくことが知られている。また、Hodgesは腰痛患者ではそれらの活動に遅延が生じることを報告しており、痛みと脊柱安定化機能との関連性を示している。さらにMacDonaldらによると、無痛状態でも深層筋の活動の遅延と腰痛再発の関係性が示されている。痛みや姿勢アライメントなど機能面に改善がみられても、動作改善が得られず、その多くは痛みに対する不安や恐怖心を抱いていることを臨床上よく経験する。本研究の目的は疼痛条件下における上肢挙上時の腹横筋活動を観察する事で、痛みに対する不安とAPAの関係性を明らかにすることである。
    【対象・方法】
     対象は腰痛症状をもたない健常成人10名(男性9名・女性1名:平均年齢26.6±5.27歳)とし、対象者に研究内容を説明し同意を得た。方法は超音波診断装置(東芝社製SSA-6660A リニアプローブ7.5MHz)を使用し、上肢前方挙上時の腹横筋の活動を観察した。拳上動作は、疼痛刺激前・疼痛刺激後・疼痛想起時の3つの条件下とした。なお疼痛刺激は痛覚検査用の検査針にてL3/4近傍を経皮的に刺激し、疼痛刺激後の筋活動の観察は自覚的な疼痛消失後に行った。測定開始肢位はベッド上端座位で両足底接地・骨盤中間位・上肢下垂位とした。超音波のブローブは、第11肋骨内側に位置させ、各種の超音波イメージと挙上動作(動画)をデジタルビデオカメラに記録しパーソナルコンピュータ上で分析した。挙上動作開始時を基準とした腹横筋活動のタイミングを表出した。つまり、挙上動作に先行して起こる腹横筋の活動は負の表記で表す事とした。統計学的解析は、一元配置分散分析を用い、その後の検定にはTukey法を使用した。有意水準は1%未満とした。
    【結果】
     刺激前の腹横筋活動は-0.40sec±0.04SE、刺激後、想起時はそれぞれ-0.37sec±0.06SE、0.07sec±0.06SEであった。刺激前、刺激後の腹横筋の活動に有意な差は認められなかった。刺激前と想起時、刺激後と想起時にそれぞれ優位な腹横筋活動の遅延が認められた(P<.01)。
    【考察】
     本研究の結果から、疼痛刺激前後のAPAに変化は認められず、疼痛想起時にAPAの遅延が確認された。疼痛刺激は一過性疼痛であり、著明な機能変化もきたさない為、APAに影響を与えなかったと考える。しかし、その疼痛を想起した時にAPA遅延が生じるということは、疼痛経験がAPAに影響を与えるのではなく、その疼痛に対する不安感や恐怖心が大きく影響していることが考えられる。このことは、我々が疼痛など機能面に介入するだけなく、精神面をも包括したアプローチを提供する必要性の十分な根拠になるといえる。
  • 田中 創, 山田 実
    セッションID: 024
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     変形性膝関節症(以下,膝OA)は退行性・進行性の疾患であるが,臨床上,その重症度と疼痛の程度が必ずしも一致しないことを多く経験する.そこで今回は膝OAにおける変形の重症度と疼痛との関連性を検討した.さらに,近年では痛みの経験を破局的にとらえる「破局的思考」と疼痛の関連性が指摘されており,その因子を測定する尺度であるPain Catastrophizing Scale(以下,PCS)を用いて膝OAに関与する疼痛の因子について調査した.
    【方法】
     対象は当院にて膝OAと診断された者24名(男性:5名,女性:19名),平均年齢:65.9±12.4歳である.疼痛の評価にはVisual Analog Pain Scale(以下,VAPS)を用いた.さらに,疼痛に対する心理的因子を測定する尺度としてPCSを使用した.PCSはSullivanらによって作成された原版を,松岡らが日本語版に翻訳したものを使用した.PCSは痛みに対する破局的思考を測定する尺度で,13項目の質問形式からなり,そこから更に「反すう」「拡大視」「無力感」の3つの下位尺度に分類される.「反すう」「拡大視」「無力感」はそれぞれ,痛みについて繰り返し考える傾向,痛み感覚の脅威性の評価,痛みに関する無力感の程度を反映するとされる.その他に,疼痛に影響すると考えられる一般的因子として,年齢,発症日からの日数,膝OA の重症度(Kellgren Lawence分類:以下,KL分類)をあわせて調査した.本研究では回答が得られた27名のうち,内容の不備等を除き,最終的に24名の結果を用いて統計解析を行った.
    【説明と同意】
     対象者にはその趣旨を十分に説明した上で同意を得た.また,本研究は当院の倫理委員会による承認を得た上で実施した.
    【結果】
     Spearmanの相関分析の結果,年齢とPCSの間(r=0.419~0.562)およびVAPSとPCSの間(r=0.416~0.642)に,それぞれ中等度の有意な相関関係を認めた(P<0.05).なお,膝OAの重症度とVAPS,PCSの間には有意な相関関係は認められなかった.
    【考察】
     本研究の結果より,膝OA患者では年齢の増加に伴い破局的思考が強くなることが分かった.特に,下位尺度の項目より,年齢の増加に伴い無力感が増していることが示された.さらに,主観的な疼痛の訴えが強いほど破局的思考も強くなり,これは特に疼痛のことを繰り返し考える傾向,無力感を抱いている傾向にあることを示す.一般に変形の重度化に伴い疼痛が増強することが考えられるが,本研究の結果より変形の重症度と疼痛には必ずしも関連性がないことが分かった.
    【まとめ】
     今回の結果より,膝OAの重症度と疼痛には必ずしも関連性がないことが分かった.また,膝OAの疼痛には構造的因子だけでなく,年齢や心理的因子が関与していることが伺えた.
  • ~伸展可動域に着目して~
    衛藤 杏奈, 園村 和輝, 井上 裕久, 大塚 豊, 甲斐 功一, 井上 誠一
    セッションID: 025
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     人工膝関節全置換術(以下TKA)において、膝関節の伸展角度は、膝関節周囲筋の筋出力や歩容に影響するため、術後早期に伸展角度を改善させる必要があると考えられる。TKAに関して、術前の膝関節屈曲角度が術後の獲得角度に影響することについての報告は多く存在するが、伸展角度に関する報告は少ない。その中で、吉原らは術前に伸展-10°以上の制限が生じていれば、術後も伸展制限が生じやすいと述べている。今回、実際に術前の伸展角度が術後の伸展角度に影響するのか、当院におけるTKA施行前後の伸展角度について比較、検討したため報告する。
    【対象】
     対象は平成20年3月から平成22年7月までに当院にてTKAを施行した47例57膝(うち男性10例12膝、女性37例45膝)とした。平均年齢は74.9±6.31歳、平均入院期間は62.5±10.64日、使用機種はStryker社製Scorpio Superflex (35膝)、DePuy社製PFCΣ(19膝)、Zimmer社製NexGen LPS-Flex(3膝)であった。
    【方法】
     対象の術前伸展角度を0°~-5°、-6°~-10°、-11°~-15°、-16°~-20°の4群に分けた。各群の術前伸展角度と術後(8週時)伸展角度の平均値の比較、また各群の術後(8週時)伸展角度間の比較を行なった。統計はマンホイットニ検定、クラスカルワ―リス検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     術前伸展角度が0°~-5°群での平均伸展角度は、術前2.73±2.18°、術後3.15±2.18°。-6°~-10°群は、術前7.56±0.72°、術後6.11±2.89°。-11°~-15°群は、術前11.94±1.98°、術後5.44±4.01°。-16°~-20°群は、術前17.75±1.5°、術後6.5±5.06°であった。各群の術前・術後の伸展角度の比較は、0°~-5°、-6°~-10°群では有意差がなく、-11~-15°、-16°~-20°群では有意差が認められた。しかし、4群の術後伸展角度の比較では有意差が認められなかった。
    【考察】
     先行研究より、術前に伸展-10°以上の制限が生じていれば、術後も伸展制限が生じやすいと述べられているが、今回の結果より術前伸展角度が20°以下であれば、術後伸展角度に差はなかった。当院では術後早期から積極的に可動域訓練を行なっており、伸展角度へのアプローチとしては、重錘を使用した持続伸展やスピードトラック牽引の設置、伸展補助装具の使用などを行なっている。また、可動域制限が著明な症例に対しては、術前から可動域訓練を行い、術日までに可能な限り可動域改善を目的にリハビリを行なっている。これらの事が術前伸展角度が20°以下に対し、良好な伸展角度の獲得に繋がったのではないかと推察される。
    【まとめ】
     今回、TKA施行者の術前・術後の可動域に関して伸展角度に着目し、研究を行なった。結果より、術前・術後の伸展角度の比較は、0°~-5°、-6°~-10°群では有意差がなく、-11~-15°、-16°~-20°群では有意差が認められた。しかし、4群の術後伸展角度には有意差は認められなかった。今後は伸展角度制限が与えるADLへの影響等について検討していきたいと考える。
  • 今屋 将美, 東 利雄, 重本 弘文
    セッションID: 026
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     大腿骨近位部骨折患者に対する再転倒予防の観点が重要である事は論を待たない。今回過去5年以上の大腿骨近位部骨折再受傷例を調査し受傷状況に関する分析を行い、今後の診療に活かすことを目的とした。
    【対象と方法】
     対象は2005年12月から2011年4月までに当院に入院した大腿骨近位部骨折患者877例のうち退院後再度同骨折を受傷した25例(男性3例、女性22例、平均年齢87.5±6.6歳、反対側骨折21例、同側骨折4例)。調査内容は入院カルテを元に初回受傷(以下、初回)後退院から再受傷までの期間、初回および再受傷時の生活場所、発生時間・場所、さらに初回の退院時と再受傷時の痴呆性老人の日常生活自立度判定基準(以下、認知度)、移動能力を調査した。
    【結果】
     初回退院から再受傷までの期間は平均357±338日で、分布は退院後3ヶ月以内6例、6ヶ月以内5例、9ヶ月以内1例、12ヶ月以内5例、2年以内4例、2年以上4例であった。発生時間は3時間刻みにすると、初回は9時-3例、3時・12時・18時-2例、15時-1例、不明15例であった。再受傷時は15時-4例、0時-12時まで、18時-2例、12時-1例、不明10例であった。生活場所は初回が自宅21例、施設4例、再受傷時自宅18例、施設7例であった。発生場所は初回が自宅内11例、屋外・敷地内4例、施設内3例、不明3例、再受傷時自宅内13例、施設内7例、屋外3例、不明2例であった。場所の詳細は初回が居室内7例、庭3例の順で、再受傷時居室9例、廊下4例の順であった。認知度は初回が正常8例、1が5例、2が7例、3が5例で、再受傷時正常5例、1が4例、2が8例、3が7例、不明1例であった。移動能力は初回が独歩1例、杖歩行7例、支持歩行16例、歩行不能1例で、再受傷時独歩5例、杖歩行5例、支持歩行11例、歩行不能4例であった。
    【考察】
     今回調査した結果より再受傷率は2.9%であった。再受傷する症例の特徴は高齢の女性で自宅生活者に多く、再受傷までの期間は半年以内に44%が集中する一方で1年を越える時期では32%を占め、長期にわたる転倒予防の関わりが必要である事が示された。発生時間帯は先行研究より日中の時間帯に集中するとされるが、今回は発生時間の詳細が不明な例が多くその傾向をつかむには至らなかった。認知度は長期経過の中でやや低下する傾向にあるが、移動能力ではむしろ改善する症例もあり再転倒に関しては活動性の向上に伴うリスクが推測される。発生場所は初回、再受傷時とも自宅居室内が多く、環境面への配慮は必須である。以上のことから再転倒の予防には退院時の居室を中心とした住環境整備の重要性が改めて認識できた。さらに我々医療従事者は長期的視点に立ち年齢や身体能力の変化、退院からの時期に応じた継続的な在宅支援の後方連携がより重要であると再確認できた。
  • 山田 玄太, 田崎 和幸, 野中 信宏, 坂本 竜弥, 油井 栄樹, 林 寛敏, 秋山 謙太, 澤田 知浩, 貝田 英二, 宮崎 洋一
    セッションID: 027
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     Zone2指屈筋腱損傷例の術後の問題点は,自動屈曲不足とPIP関節屈曲拘縮である.今回,pinch動作を主な役割とする示指の屈筋腱損傷例に対して術後PIP関節を可能な限りの伸展位固定とした3例を経験したので検討し報告する.本報告において3例からの同意は得た.
    【症例紹介・経過】
     症例1:30代,女性,機械に巻き込まれて受傷し,右示指浅指屈筋腱(以下FDS)・深指屈筋腱(以下FDP)・尺側動脈・神経の完全断裂であった.症例2:40代,男性,草刈り機に手が当たり受傷し,左示指FDS・FDP・両側動脈・神経の完全断裂に加え,母指基節骨基部での完全切断を合併していた.症例3:50代,男性,牛の爪を切る際に誤って受傷し,右示指FDP・両側動脈・神経の完全断裂,FDSは腱交叉部で部分断裂していた.症例1は挫滅創で腱断端部はささくれており,症例2・3は比較的clean cut損傷であった.3例とも腱を吉津法,動脈・神経を顕微鏡下にて縫合した.症例2は母指再接着術を行い,症例3のFDSは放置した.術後は腱縫合不全の危険性や両側動脈損傷を考慮して3週間固定法を選択し,固定肢位は手関節中間位,MP関節60度屈曲位,PIP関節は縫合組織に伸張が加わらない最大限の伸展位固定にて背側シーネを行った.3例とも術後1週経過時に術後固定肢位の背側splintに変更し,3週経過時以降は通常のセラピィと特に指腹pinch獲得を目標としたFDS単独の近位滑走訓練を行った.症例1はPIP関節屈曲拘縮を呈したため術後5週経過時にPIP関節伸展用動的splintを導入した.
    【結果】
     最終時の%TAMは,症例1・2・3の順に77.6%・82.7%・80.8%で,PIP関節他動伸展角度は3例とも0度で関節拘縮はなかった.症例1は,腱縫合部での強固な癒着によりMP関節の屈曲拘縮が生じたため腱剥離術を施行した.全例自動屈曲不足が僅かに残存したものの日常生活や仕事に支障はなく社会復帰した.
    【考察】
     今回の3例は,PIP関節を伸展位固定することでPIP関節屈曲拘縮を最小限に予防できたが,腱縫合部がより遠位で癒着したため2割程度の自動屈曲不足を残す結果となった.指列の特性から示指は,基本的にgrip動作をあまり必要とせずpinch動作を主な役割とするため,3例の僅かな自動屈曲不足は問題とならず社会復帰が可能となったと考えている.このことからZone2指屈筋腱損傷例の3週間固定法における術後のPIP関節固定肢位は,指列の特性により橈側指は可及的に伸展位とし,尺側指はgrip動作を考慮して屈曲位にすることが一方法かもしれない.しかし症例1のような高エネルギー損傷例は,MP関節屈曲拘縮に対して腱剥離術を施行しており,PIP関節だけでなく隣接関節の屈曲拘縮も予防する必要性を痛感した.
  • 油井 栄樹, 田崎 和幸, 野中 信宏, 山田 玄太, 坂本 竜弥, 林 寛敏, 秋山 謙太, 澤田 知浩, 貝田 英二, 宮崎 洋一
    セッションID: 028
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     一般的にZone3手指屈筋腱断裂修復術後の予後は良好とされており,後療法は固定法が選択されることが多い.しかし早期社会復帰の観点より拘縮予防が最も期待できる術後早期にセラピストが介入する意義は大きい.今回Zone3手指屈筋腱断裂例に対する術後早期運動療法を経験したので報告する.
    【症例と術中所見】
     症例は本報告に承諾を得た40歳代の建設業を営む男性である.乗っていた脚立が折れ転落し,その折れた脚立にて左手掌部を串刺しするようにして受傷した.左示指深指屈筋腱断裂,母指~環指指神経断裂の診断にて翌日腱及び神経縫合術を行った.術中所見は,示指深指屈筋腱は虫様筋起始部のやや遠位で断裂しており,横手根靭帯を切離して近位断端を同定し,吉津1法にて縫合した.次に固有尺側掌側母指神経,第1・2総掌側指神経を縫合した.腱・神経ともに断端部を新鮮化し,若干強い緊張にて縫合し,術後固定肢位は指屈曲位とした.
    【術後セラピィ】
     術後2日目より指他動屈曲位を自動屈曲運動にて保持するholding運動とDIP,PIP単関節での他動伸展運動をセラピスト管理下にて開始した.指自動伸展運動は,虫様筋より遠位での断裂であるため積極的に行いたかったが,神経縫合の緊張が高いため術後3週経過時から開始した.
    【結果】
     経過観察可能であった術後13週経過時における最終評価では,%TAM103%,Strickland法98%であった.また指腹部におけるSemmes Weinstein Monofilament Testでは母指尺側・環指橈側4.08,示指4.93,中指5.46であり,同時期より現職復帰した.
    【考察】
     我々は屈筋腱断裂修復術後に早期運動療法を行う際,運動時以外は再断裂が予防しやすい損傷指屈曲位固定を選択する.そのため屈曲拘縮しやすいDIP,PIP関節は単関節ごとの他動伸展運動にて対応している.MP関節を屈曲位として行うこの運動は,Zone1・2修復例と比してZone3修復例では腱縫合部の遠位腱滑走距離が減じるため,より安全に行うことができる.本症例においても経過を通して全く関節性の屈曲拘縮を呈さなかった.またZone3は虫様筋が存在しており,指自動伸展運動を行うKleinert法はこの虫様筋の収縮によりその遠位部での深指屈筋腱縫合部への緊張を減じている.しかし虫様筋起始部より近位での深指屈筋腱断裂例では,虫様筋の収縮が腱縫合部への緊張を逆に高めると考えられる.ゆえにZone3においては,一概にKleinert法を併用するのではなく,腱縫合部が虫様筋起始部よりどの部位にあるのかに着目してセラピィを行う必要がある.さらに本症例では見られなかったが,Zone3損傷では虫様筋の拘縮も起こり得るため,奇異的現象の有無を評価し,必要であればその伸張運動での対応が肝要である.以上のようにZone3においても,解剖学的特徴を踏まえた早期運動療法は有効であると考えている.
  • 田崎 和幸, 野中 信宏, 山田 玄太, 坂本 竜弥, 油井 栄樹, 林 寛敏, 秋山 謙太, 澤田 知浩, 貝田 英二, 宮崎 洋一
    セッションID: 029
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     橈骨遠位端骨折例の後療法では,矯正損失することなく良好な手関節可動域を獲得することが望ましい.我々は手関節運動による矯正損失を可及的に防止するため,徒手的に手関節部を遠位方向に牽引した状態で行う手関節早期他動運動療法(以下TN法)を行った.その成績を検討し報告する.
    【対象と方法】
     2005年からの5年間に演者がTN法を併用して後療法を行い,本報告に同意した男性9例10手,女性31例32手を対象とした.平均年齢61.1歳,AO分類A2:7手,A3:11手,B3:2手,C1:9手,C2:6手,C3:7手であった.初期治療は保存6手,経皮pinning 2手,non-bridge型創外固定1手,bridge型創外固定は8手中経皮pinning併用4手,掌側locking plateは25手中創外固定併用1手であった.TN法開始時期は,掌側locking plateとnon-bridge型創外固定例が術後平均1.1週,その他の例は初期治療後平均4.3週であった.方法としてTN法開始後の経時的な手関節他動掌背屈可動域とその健側比,X線評価ではTN法開始前と最終時のradial inclination,volar tilt,ulnar varianceを調査した.なお両手骨折例の比較可動域は背屈65度,掌屈65度とした.
    【結果】
     TN法開始後1週,2週,4週,8週経過時の平均手関節他動可動域と健側比は,背屈では56.8度,60.1度,63.1度,63.7度で健側比は88.5%,94.4%,98.3%,99.3%であった.掌屈では54.2度,57.4度,59.5度,61.0度で健側比は87.0%,92.2%,95.6%,97.8%であった.X線評価ではvolar tilt 3度,ulnar variance 2mm以内の矯正損失を5手に認めた.
    【考察】
     TN法により開始初期に飛躍的な可動域改善を示すと共にその後も良好な改善経過が認められた.5手に認めた矯正損失は軽度であり,本法は有用な運動法と考えられた.
  • ~直視下腱板修復術と鏡視下腱板修復術との比較~
    稲津 圭樹, 園村 和輝, 井上 裕久, 大塚 豊, 甲斐 功一, 井上 誠一
    セッションID: 030
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     当院では手術適応である腱板断裂患者に対し直視下腱板修復術(以下ORCR)を施行しており、また平成21年1月以降より鏡視下腱板修復術(以下ASRCR)も併せて行っている。肩腱板修復術においてORCRとASRCRとでは術式の違いにより可動域に違いが生じるのではないかと考えた。そこで今回、当院で腱板修復術を施行した症例の術前・退院時可動域を調査し、ORCRとASRCRの退院時可動域について比較検討したので報告する。
    【方法】
     対象は平成18年1月~平成20年12月にかけてORCR施行し調査可能であった21例21肩(男11肩、女10肩、平均年齢66.3歳)、平成21年1月~平成22年11月にかけてASRCR施行した13例13肩(男6肩、女7肩、平均年齢62.3歳)、計34例34肩である。尚、広範囲腱板断裂やpatch法が必要であった症例は除外とした。これらの屈曲・伸展・外転・1st外旋・2nd外旋・内旋・水平内転の術前と退院時可動域の有意差を検定した。さらに退院時可動域をORCRとASRCRの2群に分け、各運動に対して有意差を検定した。統計にはスチューデントのt検定、マンホイットニ検定、対応のあるt検定、ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた。尚、今回は自動可動域のみを検定した。
    【結果】
     術前と退院時可動域との比較では、屈曲・2nd外旋・内旋・水平内転に有意差が認められた。屈曲・2nd外旋の可動域は術前より拡く、内旋・水平内転の可動域は術前より狭い結果となった。ORCRとASRCRとの退院時可動域では、すべての運動方向において有意差は認めなかった。
    【考察】
     今回の結果からORCRとASRCRでの退院時可動域には有意差を認めなかった。術前と退院時の可動域に有意差が認められたことについて、これは当院における腱板修復術後の後療法の取り組みが影響しているのではないかと考える。当院では腱板修復術直後から肩腱板装具にて屈曲・外転・外旋肢位で固定し、経過とともに腱板装具屈曲角度を下げ下垂位へと移行する。下垂位可能後に肩腱板装具を除去し、伸展・内旋・結帯動作を行い治療を進める。この当院の取り組みにより屈曲・外旋は拡く、内旋・水平内転は狭くなったのではないかと考える。またASRCRはORCRとほぼ同様の術後成績が得られていることが確認できた。ORCRとASRCRの術後成績に有意な差はないという報告は多いが、いずれも一年前後での評価によるものが多い。今回は退院時までと短期間の調査であった。今後は調査不足であった筋力・疼痛・結帯動作などを評価し長期的に経過を追っていきたいと考える。
    【まとめ】
     ORCRとASRCRの退院時可動域について比較検討した。ASRCRはORCRとほぼ同様の治療成績を得られていることが確認できた。今後は筋力・疼痛・結帯動作など評価し、長期的に経過を検討していきたい。
  • 柳原 加奈子, 堀江 淳, 阿波 邦彦, 白仁田 秀一, 今泉 裕次郎, 市丸 勝昭, 直塚 博行, 山田 穂積, 古賀 義行
    セッションID: 031
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する全身持久力評価の重要性は十分なエビデンスが得られている。しかし,COPD患者の瞬発的歩行能力評価はあまり行われていない。本研究では,瞬発的歩行能力評価としての5m最速歩行時間をmodified Medical Research Council(mMRC)息切れスケール,Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)病期分類,多次元重症度指数(BODE index)の各グレード別で検討した.
    【方法】
     対象は,研究の参加に同意が得られた症状の安定期にあるCOPD患者34名(男性32名,女性2名,平均年齢76.3±7.4歳,BMIは20.4±3.3kg/m2,%FVCは74.14±27.5%,%FEV1.0は 46.3±22.7%,FEV1.0% は51.7±19%)であった.なお,本研究除外対象者は,重篤な内科的合併症の有する者,歩行に支障をきたすような骨関節疾患を有する者,脳血管障害の既往がある者,その他歩行時に介助を有する者,理解力が不良な者,測定への同意が得られなかった者とした.測定項目は5m最速歩行時間、mMRC息切れスケール,GOLD病期分類,BODE indexとした.なお,5m最速歩行時間とは10mの歩行コース上をできるだけ速く歩くよう指示し,中間5mの歩行時間を測定した.
     統計学的解析方法は,5m最速歩行時間を mMRC息切れスケール,GOLD病期分類,BODE indexの各クラス別に一元配置分散分析で分析し,Post hocテストはTukey検定を用いて分析した.なお,帰無仮説の棄却域は有意水準5%とし解析ソフトはSPSS version 17.0(Windows版)を使用した.
    【説明と同意】
     本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した.対象への説明と同意は,研究の概要を口頭,及び文書にて説明後,研究内容を理解し,研究参加の同意が得られた場合,書面にて自筆署名にて同意を得た.
    【結果】
     5m最速歩行時間の平均値は3.49±1.36秒であった.mMRC息切れスケールのGrade 1は2.62±0.28秒(4名),Grade 2は3±0.9秒(16名),Grade 3は3.81±1.13秒(9名),Grade 4は5.13±2.02秒(5名)であった.GOLD病期分類のStage1は3.17±1.19秒(4名),Stage 2は3.52±0.9秒(8名),Stage 3は3.18±1.16秒(15名),Stage 4は4.28±2.08秒(7名)であった.BODE indexのquartile 1は3.22±1.09秒(6名),quartile 2は2.84±0.64秒(12名),quartile 3は3.57±1.27秒(10名),quartile 4は4.85±1.94秒(6名)であった.5m最速歩行時間の各グレード別では,mMRC息切れスケール(Grade 1 vs 4: p=0.014,Grade 2 vs 4: p=0.006)とBODE index(quartile 2 vs 4: p=0.015)に有意差が認められた.しかし,GOLD病期分類では有意差は認められなかった.
    【考察】
     mMRC息切れスケールの軽症群と重症群との間,BODE indexの軽症群と重症群との間に有意差が認められたことで,瞬発的歩行能力は肺機能よりも呼吸困難の増大や,全身持久力などを含む多次元的な能力低下が,瞬発的歩行能力の低下に及ぼすことが示唆された.その原因として,重症COPD患者は呼吸困難に伴い,活動性が低下した状態にあり,廃用的機能低下を呈しているためと考えられる.
    【まとめ】
     本研究によって,重症COPD患者は瞬発的歩行能力の低下がみられた.したがって,重症COPD患者の理学療法評価に5m最速歩行時間の評価が必要であると提案できる有意義な研究と考えられる.
  • 池永 千寿子, 黒山 荘太
    セッションID: 032
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     糖尿病の治療は運動療法・食事療法・薬物療法が中心とされているが、薬物療法実施率90%に対し、運動療法・食事療法は共に60%と低いと報告されている。糖尿病教育入院における運動療法の課題は、1)日常生活中の身体活動量の増加、2)安全な実践方法の習得、2)習慣化・継続のための計画である。当院では糖尿病教育入院中に理学療法士が介入し運動療法の実践と指導を実施している。今回、理学療法士による退院後の運動指導介入を開始し、身体活動量の変化と継続的指導の効果を調査した。
    【方法】
     対象はH20年12月~H22年9月に2週間の糖尿病教育入院した2型糖尿病患者77名。運動制限となる細小血管症の合併や重症疾患治療中、期間中の薬物療法の変更、退院1・3・6ヵ月後に受診しなかった者は除外した。退院後介入を始める以前の患者32名(非介入群 平均年齢60歳)と退院後介入実施患者45名(以下介入群 平均年齢61歳)に対し、入院時・退院1・3・6ヵ月後に評価した。評価項目は退院後の運動継続率として2回/週以上で20分/回以上の運動実施者率を算出し、運動量を確認するために国際標準化身体活動度質問表のshort versionを使用して平均的な1日の身体活動における消費エネルギー(kcal)を算出した。退院後の介入効果を確認するために両群のBMI・HbA1c・随時血糖値を測定した。統計処理は、介入群の身体活動量経過を比較するために1way ANOVAとTukey法を用い、両群の介入効果を比較するために2way rep-ANOVAとTukey法を使用した。本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に沿った倫理考慮を行った。
    【結果】
     介入群の運動継続率は退院1ヵ月後96%→3ヵ月後87%→6ヵ月後78%、身体活動量は入院時56.4kcal→退院1ヵ月後203.0kcal→3ヵ月後191.6kcal→6ヵ月後208.7kcal(p<0.001)を示し入院前比較して退院1・3・6ヵ月後は有意に増加した(p<0.01)。BMIでは介入群25.5→24.3→24.1→24.1、非介入群27.8→26.3→26.0→26.2と交互作用は認めなかったが両群間に有意差を認めた。血糖値では介入群160.6m/dl→168.0m/dl→159.0m/dl→151.3m/dl、非介入群146.2m/dl→161.5m/dl→156.3m/dl→162.4 m/dlと交互作用は認めなかった。HbA1cでは介入群9.3%→7.4%→6.8%→7.0%、非介入群8.1%→7.1%→6.9%→7.1%を示し交互作用を認め(p<0.001)入院前に比べて1・3・6ヶ月で有意な改善を認めた。
    【結語】
     糖尿病教育入院退院6ヵ月後までの運動療法において身体活動量の有意な増加を認め、教育や継続的な指導が有効であることを示したが、運動継続率は低下する傾向にあり更なる工夫が必要と考える。また理学療法士指導による継続的な指導の有無で血糖値に効果を認めなかったが、介入群のBMIと経過におけるHbA1cに効果を認めた。6ヵ月までのΔHbA1cでは介入群に高い改善傾向を示した。理学療法士による継続的な指導は今後も必要と考える。
  • 山田 宏美, 阿比留 博次, 米田 宏之, 白川 琢大, 守崎 勝悟, 高橋 哲也
    セッションID: 033
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では平成22年度より,心疾患患者に対して身体活動量計から得られた情報をもとに運動指導を実施している.最近の3軸加速度センサーを用いた身体活動計は日常活動における低強度から中等度まての身体活動量を精度良く把握することができ,遠隔期の運動指導に有効であるという報告も多いが心疾患に対して応用した例は少ない.今回は我々が身体活動量計を用いて行った運動指導によって,入院期から外来期と通して順調に回復した症例と外来期に身体活動量が低下する症例について報告する.
    【対象】
     当院で心臓リハビリテーション(心リハ)を実施し,身体活動量計の装着の同意を得た心疾患患者3例(平均年齢74歳±11.5).診断は,症例1,症例2は急性心筋梗塞,症例3は狭心症であった.
    【方法】
     身体活動量計(オムロン,Active Style Pro)を入院期(22.3日±6)および外来期(2ヵ月間)に継続して起床時から就寝時まで装着してもらった.対象者には入院期,外来期には2~3週間もしくは1ヶ月に一度の外来心リハの際に歩行エクササイズ(EX)(METs×時間),生活活動EX,歩数,歩行時間などにもとづいて運動指導を行った.2ヶ月経過後は活動量計を回収し,各指標の経時的変化や1日の平均値,入院期と外来期の平均値を算出し比較した.
    【結果】
     症例1は入院期の歩行による1日の平均Ex(入院期歩行Ex)は0.2Ex,生活活動による1日の平均Ex(入院期生活活動Ex)は0.2Ex,1日の平均歩数(入院期歩数)は673.0歩,1日の平均歩行時間(入院期歩行時間)は16.6分であった.外来期では歩行による1日の平均Ex(外来期歩行Ex)は1.5Ex,生活活動による1日の平均Ex(外来期生活活動Ex)は0.8Ex,入院期の1日の平均歩数(外来期歩数)は3557.0歩,1日の平均歩行時間(外来期歩行時間)は45.7分であった.症例2は入院期歩行Exは0.2Ex,入院期生活活動Exは0.7Ex,入院期歩数は1300.3歩,入院期歩行時間は24.9分であった.外来期歩行Exは0.2Ex,外来期生活活動Exは1.5Ex,外来期歩数は2163.2歩,外来期歩行時間は15.3分であった.症例3は入院期歩行Exは0.1Ex,入院期生活活動Exは0.2Ex,入院期歩数は2040.1歩,入院期歩行時間は32.8分であった.外来期歩行Exは0.3Ex,外来期生活活動Exは0.2Ex,外来期歩数は2236.0歩,外来期歩行時間は36.8分であった.症例1は外来期に各指標とも改善し,経時的に回復が認められた.症例2や症例3では一部の指標に改善は認められるものの,経時的には身体活動量の維持もしくは低下が認められた.外来期に身体活動量が低下する原因は,腰痛や膝痛,胸部症状の悪化・継続などであった.
    【考察】
     身体活動量計を使用し,本人への運動指導を実施した.視覚的にも回復を実感できる身体活動量計を用いた指導は患者からも好評で一定の効果を得たが,運動器疾患の悪化や胸部症状の悪化,継続することで身体活動量が向上を認めない症例もいた.心疾患のリハビリテーションでは,単に歩数や運動強度の指導だけでなく,一日の活動量をフィードバックすることで症例の病態や生活リズムを考慮した運動指導が可能で,自己管理や復職に向けたサポートに有用であった.
  • ~転帰に影響するADL動作~
    大池 康晴, 田中 雄也, 八重倉 政和, 藤井 弘通, 松田 浩昭
    セッションID: 034
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     現在日本における肺炎の死亡率は全疾患中4位であり、高齢であるほど死亡率が増加する。高齢者における肺炎の治療は完全でないことも多く、根治に至った場合においても罹患期間中の長期臥床によりADLの低下をきたすことも少なくない。
     高齢者の肺炎罹患患者はADLの低下をきたしやすく、全身性の廃用症候群の進行、認知面の低下から寝たきり状態となり、自宅復帰が困難となる症例も多い。
     そこで今回、当院入院した肺炎の診断名がついた患者について、その後の転帰に影響するADL要因について検討・考察し、今後アプローチ方法に活かそうと考えた。また、特にどのようなADLが患者の転帰について影響しているのかを考察した。
    【方法】
     対象症例は、H.21.6~H.23.4に肺炎で当院入院中患者において、入院前の生活レベルが自宅生活中であり、ADL自立している症例のうち、内科的治療と並行して呼吸理学療法施行している全24症例を対象とした。また入院中に死亡した症例5症例は除外した。それらの患者を、肺炎治療後、退院先が自宅となった症例(以下A群)・自宅以外となった症例(以下B群)に分類し、入院から退院時のFIM得点項目の推移を統計・考察した。その両群をFunctional Independence Measure(以下FIM)における小項目・中項目にて比較した。統計処理は中項目の差をt検定、小項目の差をmann-whitenyのU検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     中項目で比較した結果、セルフケア・排泄・移乗・移動の項目において有意差(P<0.05)が認められた。しかしA群・B群間のFIM小項目においては有意差を認めなかった。
    【考察】
     今回の結果から、重症度分類、発症からリハ介入時までの日数、FIMの小項目には有意差を認めなかった。FIM排泄・移乗・移動の中項目においては有意差が認められた。これは対象患者が肺炎の発症にて治療上の臥床を強いられることによりFIMにおいて運動項目の低下が引き起こされた為であると考えられる。
     この有意な低下を予防する為にはリハ介入時からできるかぎり早急に患者の早期離床が不可欠であると考えられる。井元らの研究においても入院期間中の身体活動量は減少傾向にあり、そのことがADLの低下につながった可能性があるとしている。
     また先行文献によれば介護者の負担増大も自宅退院の妨げになっているとあるため、早期に身の回り動作を獲得することで自宅退院につながる可能性がある。
     追行研究では、今回有意な差が見られた項目に対して積極的にアプローチを行い、自宅復帰率の向上率がどのように推移するか追って調査したい。
  • 上間 伸浩, 神田 佳代, 金城 博貴, 金城 直美, 金城 一二
    セッションID: 035
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     外来リハビリテーション(以下外来リハ)の役割として、患者様の疼痛緩和、身体機能とADLの維持・向上が挙げられる。しかし高齢のために症状が長期化すると、機能改善が見えにくい場合が多い。そこで患者様の身体面だけではなく、生活面や精神面までを含めた全人的な健康増進を目的としたアプローチが必要であるが、外来リハでは身体面へのアプローチが中心となっているのが現状である。患者様への身体面のアプローチにより活動性を向上させ、社会参加を促すことが、地域での健康的な生活につながると考え、我々は日々患者様と向き合っている。しかし慢性疾患の患者様の治療効果の判定は困難である。そこで今回健康関連QOLの評価指標であるSF-36を用いて、身体的健康と精神的健康を考察し、外来リハの患者様に対するより良いアプローチ方法を構築することを目的として健康関連QOL評価を行なった。
    【方法】
     平成22年9月27日~10月5日の間、研究の目的を説明し、同意を得られた当院外来リハに半年以上通院している慢性疾患を有する患者様36名(男性7名、女性29名)、年齢60~93歳(平均79±19歳)に、36項目からなる自己報告式の健康状態調査票・SF-36を用い、身体的健康を4項目(身体機能、日常生活機能・身体、体の痛み、全体的健康感)、精神的健康を4項目(活力、社会的機能、日常生活機能・精神、心の健康)の合計8つの項目に分類し、各々100点満点に得点化した。
    【結果】
     各項目の点数の平均点は身体機能:53.0、日常生活機能・身体:50.6、体の痛み:56.3、全体的健康感:57.9、活力:60.4、社会的機能:69.8、日常生活機能・精神:68.5、心の健康:68.6となった。各項目の合計点数との相関係数は、身体機能:0.44、日常生活機能・身体:0.66、体の痛み:0.65、全体的健康感:0.49、活力:0.74、社会的機能:0.57、日常生活機能・精神:0.82、心の健康:0.69となった。また身体的健康と精神的健康の合計点数の間には、有意な相関が見られた(相関係数0.63)。
    【考察】
     結果より、精神的健康の項目がQOLに強い影響を与えている事が示された。また身体的健康と精神的健康の間に、有意な相関関係があることが示された。以上から慢性疾患の患者様に対しては、身体機能に対するアプローチだけでは限界があるため、QOLを向上させるためには精神面を考慮したアプローチが必要である事が示唆された。心と体は切り離せない関係にあるため、ストレス・マネジメントや自律神経系などを考慮したアプローチ方法の構築を今後の課題として取り組んでいきたい。
  • ~アンケート調査を用いて~
    兼元 博康, 高柳 公司, 平川 樹, 大石 美月, 大場 勝子, 本多 由加, 金丸 由美子, 大石 賢, 有村 圭司, 横田 悠介, 前 ...
    セッションID: 036
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院の回復期リハビリテーション病棟が開設し3年が経過する。しかしながら当院を退院した患者が在宅復帰後どのような生活を送っているのかといった、在宅でのADL状況は把握できていないのが現状である。今回、在宅復帰患者を対象に在宅ADLの状況を調査し、退院時ADLとの比較・検討を行なったので報告する。
    【方法】
     当院回復期リハビリテーション病棟より在宅へ退院(2008/07/01~2010/10/30)した脳血管疾患患者39例(38名)平均年齢72.08歳に対し、アンケート調査を実施。1.Functional Independence Measure(以下FIM)、2.Barthel Index(以下BI)の2項目。また1・2に関しては退院時・退院後1か月(以下1M)・退院後2か月(以下2M)・退院後3か月(以下3M)時点で評価し、退院時と1~3M時のそれぞれの項目を比較し有意差を抽出した。
    【結果】
     FIMにおいては退院後1M・2M・3Mの合計点が、入院時と比較し低下していた。また各項目においては、退院-FIMと退院1M-FIMでは入浴・更衣(上衣)・更衣(下衣)・椅子移乗・トイレ移乗・社会的交流の項目で低下がみられた。退院-FIMと退院2M-FIM、退院-FIMと退院3M-FIMでも上記の退院-FIMと退院1M-FIMと同様の結果であった。BIにおいては退院後2M・3Mの合計点が、入院時と比較し有位に低下していた。また詳細項目においては退院後3Mの階段の項目で低下がみられた。
    【考察】
     FIMは退院1M時点でBIは2ヶ月時点で合計点に低下が認められた。FIMでは入浴、更衣(上衣)、更衣(下衣)、ベッド・椅子・車椅子移乗、トイレ移乗、社会的交流の項目で低下を認めた。更衣はFIMで低下を認めるがBIでは低下していない。これは上肢機能や手指巧緻性の低下、また介助者の時間的問題や本人の意欲の低下などが更衣動作における点数低下の原因と考えられた。また入浴、移乗も低下しているが、これもBIにて低下していない。両者にある問題点として、介助者の時間的問題や過介助、さらに環境設定の不備が点数の低下原因であると考えられた。社会的交流は自宅へ帰り外出する機会が減少したことが原因であると推察された。BIでは階段が低下しているが、これもFIMでは低下していない。これは入院中は階段昇降等の訓練を実施し獲得しているが、退院後は積極的使用する機会が減少したことが考えられ、それによる廃用性の低下であると推察された。今回の調査により在宅復帰後におけるADLでは変化項目としてFIM:入浴、更衣(上衣)、更衣(下衣)、ベッド・椅子・車椅子移乗、トイレ移乗、社会的交流BI:階段で有位に低下していたことが明らかとなった。今回の結果を今後、退院時指導や退院後のリハビリテーションに活かしていきたいと考える。
  • ~不使用箇所に着目して~
    佐々木 奈苗, 島崎 裕樹, 中村 亮二, 坂本 拓也
    セッションID: 037
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     当院では自宅退院する患者に対して住宅改修を提案し,実施している.しかし,改修内容については担当セラピストの判断に委ねられ,その後の使用状況についての確認は希薄になりがちであった.そこで今回改修後の使用状況を調査し,想定外に不使用となったものに着目し考察したので以下に報告する.
    【対象】
     H21.4~H23.3で改修を行い当院から自宅退院した患者で,H23.4時点で在宅生活を継続している45名(男性16名 女性29名 年齢72.7±9.9歳)を対象とした.障害老人の日常生活自立度はJ1:4名,J2 :13名,A1:18名,A2:6名,B1:0名,B2 :4名であった.
    【方法】
     退院時の障害老人の日常生活自立度(以下前自立度),現在の障害老人の日常生活自立度(以下後自立度),改修場所,改修内容を調査し,使用状況(不使用箇所の有無)を聴取した.前自立度と後自立度の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた.使用状況を,「常時使用」と時々もしくは全く使用しない「不使用」に分類した.
    【結果】
     前自立度と後自立度において有意差がみられ,後自立度の方が高い傾向にあった.総改修数は127件で,玄関(40件),トイレ(29件),浴室(28件)の順に多かった.改修内容は手すり設置105件,段差解消15件,便器交換3件,床材変更2件,浴槽交換1件,その他1件であった.常時使用は107件(84%),不使用は20件(16%)で,不使用箇所はトイレ7件,廊下4件,浴室3件,玄関1件であった.
    【考察】
     改修後,80%以上が常時使用され,後自立度の方が高い傾向にあったことより,改修は患者の自立度を維持向上させる一要因となる事が示唆された.一方,不使用の理由は1:徐々に自立度が低下2:疼痛などの状況に応じて使用3:セラピストの生活予測が不適切4:患者・家族とセラピスト間の意見の相違のいずれかであった.想定外の不使用を防ぐ為,3に対してセラピストは機能的な予後予測に加え,早期から住環境や以前の生活状況を把握して,生活予測を行う必要があると考える.4について,患者・家族は退院後の生活を以前の生活からイメージする点,漠然とした転倒恐怖感を持ちやすい点,有効な改修の判断が難しい点が相違の原因にあったと考えた.以上のことから,セラピストは患者の能力と住環境を踏まえた生活予測を行い,入院中から家族を含めたADL練習などの継続的な介入を行う必要がある.それにより不使用箇所を減少させることができるのではないかと考える.
    【まとめ】
     改修後,常時使用されるものが多かったが,患者・家族とセラピスト間の意見の相違により不使用となる事があった.両者には退院後の生活イメージや転倒,改修についての認識に相違が起こりやすく,住環境を想定したADL練習などを行い,本人・家族に継続的に働きかける必要がある.
  • 高橋 翔子, 東島 美佳, 渡辺 千賀子
    セッションID: 038
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     近年、平均在院日数の短縮化が進められており、機能訓練に加え早期から日常生活動作などを中心とした動作訓練や指導・確認が在宅復帰に向けて必要である。しかし入院生活の中で在宅生活と類似した環境を作り出し十分な動作訓練や確認を行うには限度があり、患者本人や家族から生活動作に対する不安の声を聞く事も少なくない。入院中に自宅でセラピストが動作訓練する事は困難であるが、外出や外泊を活用し、在宅での生活状況を毎回情報収集する事で問題点を絞り易く、動作訓練や指導・確認も迅速に行えるのではないかと考える。
     そこで今回、当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期病棟)入院患者における外出・外泊状況について調査を行い若干の考察に加え、今後の取り組み内容について報告する。
    【対象・調査方法】
     平成22年9月から平成23年2月までに当院回復期病棟に入院した患者164名(男性48名、女性116名)を対象とした。そのうち脳血管疾患患者は28名、運動器疾患患者136名であった。調査方法は、回復期病棟入棟後に外出及び外泊を実施した人数、在宅復帰率、在院日数をそれぞれ調査した。
    【結果】
     外出・外泊実施者は全体の36.0%、在宅復帰率は81.5%であった。平均在院日数は72±47日となった。
    【考察】
     入院中に外出や外泊を実施する事は、患者本人や家族が生活に必要な動作の問題点を明確にしやすく、セラピストも在宅での動作を意識した訓練を早期から取り入れる事とができ、退院後の在宅生活をなるべく短期間で安定させる事に効果的だという報告がされている。
     今回の調査を終え、在宅復帰率に比べ外出・外泊実施者が4割に満たない状態であった。これは、当院回復期病棟スタッフの外出・外泊に対する意識の低さが原因の一つだと考えられる。また疾患によっては病前との生活動作に大きな違いが生じるケースもあり、生活イメージが不鮮明なために外出や外泊を懸念してしまうのではないかと考えられた。しかし、介護を要する患者ほど入院中の外出・外泊の機会を増やし、退院後の生活イメージを具体的にしていく事が必要であると感じた。
     そこで平成23年4月より外出・外泊アンケートを導入した。外出・外泊実施後に在宅での日常生活動作に要した介助量や転倒の危険性、不安な動作などをチェック方式にしたアンケートを実施する。このアンケート結果を元に訓練内容の再検討や、病棟ADLの適切な選択がなされているかなど具体的なディスカッションをスタッフ間で行っていく。また患者・家族の在宅生活に対する不安の解消に繋げていくために外出・外泊前後で動作能力のフードバックを行い、情報を共有していく。これらの取り組みを行う事で、退院後の生活イメージをスタッフだけでなく本人・家族も具体的に理解する事ができれば、外出・外泊の促しと実施頻度が増えるのではないかと考える。よって今後も経過を追い、調査報告していきたい。
  • ~メモリーノートの意識付け~
    森山 喜一郎, 宮原 智子, 高嶋 隆司, 麻生 裕介, 梶原 庸平, 岩田 智子
    セッションID: 039
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     記憶障害者が日常生活を送る上で,メモリーノートなどの代償手段が有効となる場合が多いが,その定着には難渋する例も少なくない。今回,頭部外傷後遺症により著明な記憶障害を呈した症例に対し,自己教示法を用いてノートを使用した歩行訓練を実施した。結果,ノートの存在及び参照をすることへの意識付けが可能となり,代償手段として使用しながら歩行することが可能となったので報告する。
    【方法】
     対象者は40歳代,男性。頭部外傷受傷後20年以上経過した後,当院外来で週3回の訓練を開始した。Brunnstromステージ右上肢5手指5下肢4~5,移動手段は車椅子で自宅内ADLはほぼ自立であるが,IADLは家族が行っていた。右側の筋緊張調整不良,失調があり見守り~軽介助レベルの杖歩行であった。主訴は自分で歩けるようになりたいであった。数年の逆行性健忘及び前行性健忘が著明で,WAIS-3はVIQ95,PIQ88,FIQ91,RBMTはSPSが2点,SSが0点であった。
     毎回ノートに歩行のコースを患者自身に書かせた後に歩行を実施した。歩行は2通りのコースを設定し,交互に使用した。自己教示法の効果を検証する目的で,シングルケース実験法を用い,自己教示法を用いない訓練(以下,A期とする)と,用いた訓練(以下,B期とする)を10回ずつ実施した(A1期,B1期,A2期,B2期)。A期は,歩行中コースが分からなくなるなど困難が生じたらノートを見るよう促しを行い,B期はそれに加え歩行開始前に“分からなくなったらノートを見る”と患者自身が述べた上で歩行を開始した。効果判定として,歩行コースのうち自らノートを見ながら進めた過程の数をカウントし,ABにおいて比較した。
     本研究に当たり,本人及び家族に事前に同意を得た。
    【結果】
     各期の中央値はA1で2.5,B1で4,A2で3.5,B2で5であり,B期において得点が高かった。B1,B2は全てA1の中央値以上であったが,A2は9,10回目に中央値を下回った。A2ではB1の効果が持続したが、後半の4回から点数が低下し始めた。B2では初日より満点となり,3回目以降継続した。ABの差をウィルコクソン符号付順位和検定を用いて検定したところ,B期の方が有意に点数が高かった。
    【考察】
     今回“分からなくなったらノートを見る”という自己教示により代償手段を自ら言語化した結果,自発的にノートを確認する行動が見られるようになった。これは,言語化することで歩行前に自らノートを意識付け,ノートの参照及び使用という行動を強化することができたのだと考える。また,本症例は著明な記憶障害があったが,そのような対象者にも自己教示法が有効であることが示唆された。今後は,自宅での活動やスケジュールの管理など,他の具体的活動において同様に自己教示法を用い,ノートの意識付けを汎化させることが必要である。
  • 永石 和也
    セッションID: 040
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     一般的に座位訓練を開始する際の意識レベルは、JapanComaScale(以下、JCS)I桁、II桁の一部と言われている。今回重度意識障害を呈した症例に、筋緊張亢進の一要因となっていた背部への圧・刺激を減らすために端座位訓練を実施した。今回、この取り組みにて筋緊張や意識レベルに改善が認められたため、考察を含め報告する。
    【症例紹介】
     10代男性。169cm、75kg。交通事故により多発性脳挫傷・脳内出血、外傷性くも膜下出血を受傷。筋緊張亢進により四肢硬直状態。
    【評価】
     JCS:III-200。MAS:3。B.I:0点。筋緊張亢進により頚部・体幹・四肢は重度可動域制限を示した。特に頸部は左回旋位、両足関節は尖足位で痙縮を呈した。また、後頭部・背部に圧・刺激が加わると異常姿勢反射が強くみられ、頚部・四肢伸展パターンを著明に認めた。車椅子座位では全身の反り返りにより姿勢が崩れやすく、端座位では脊柱右凸側彎・骨盤後傾位により座圧中心点が一定せず筋緊張を高める傾向にあった。
    【介入方法】
     背部への圧・刺激の軽減にむけて端座位訓練を行った。今回は座位の支持性を高めるためにPT・OT同時介入し前方から骨盤支持・修正、後方から上肢帯を支持し、左右対称的な姿勢となるようにした。
    【結果】
      JCS:II-20。MAS:1+。端座位時、頚部・上肢帯の筋緊張低下。介入初期にみられた異常姿勢反射は軽減し短時間ではあるが車椅子座位が可能となった。また、呼びかけに対しての開眼や思い出の写真を追視する様子、嗜好品であれば嚥下する等の変化がみられた。
    【考察】
     石神らは「トライアルケース」として、重症例(遷延性意識障害や座位不能な重度障害)にも車椅子座位、関節可動域訓練、精神的な刺激を入れる多面的なアプローチの重要性を述べている。今回、一般的には適応外となる重度意識障害患者であったが、端座位訓練の導入により背部への圧・刺激量の軽減や臥位から座位への姿勢変化により固有感覚や前庭感覚入力を図れ、橋・延髄レベルでの姿勢反射の統合を促せたと考える。これらにより、異常姿勢反射や筋緊張など陽性徴候の出現を抑制でき、身体・精神面へストレスの少ない時間を提供することが出来たと考える。また、安定した姿勢アプローチにより骨盤・体幹の運動学習(筋活動)を促通できたことで、空間での安定性が得られ頚部・上肢帯の努力性筋緊張の軽減にも繋がったと考える。これにより、表情が穏やかになる等の変化が見られはじめ、視覚・聴覚など感覚入力を得やすい環境となり意識レベルの改善に働いたと考える。
  • 峰岡 貴代美, 井上 勲, 諫武 稔, 都甲 真希
    セッションID: 041
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、くも膜下出血により痙縮を起こし廃用手であった左上肢に対し、ボツリヌス毒素療法とCI療法(変法)、機能的電気刺激を併用した。結果、上肢機能に向上が見られ使用が可能となったため、報告する。
    【症例紹介】
     30代男性。くも膜下出血急性期治療後、4ヵ月リハビリ実施し自力歩行可能。3ヵ月後再発し手術実施。3ヵ月リハビリ実施後自宅退院、6ヵ月後職場復帰。独歩自立し電車通勤可能、営業職から事務職に配置変更され右手の使用により業務遂行は可能であった。
    【経過】
     左手の機能向上を希望され当院受診(発症より1年半経過)。ボツリヌス毒素療法とCI療法、機能的電気刺激使用による集中的リハビリ目的で2週間入院。初期評価時、12段階グレード上肢5、手指4。筋緊張は左上肢亢進、動作時の左手指は屈曲位となり1~3指は随意的な伸展は困難。手関節背屈は随意的に30度可能。感覚は、表在、深部とも中等度鈍麻。STEF左上肢11点。ピンチは母指と示指のPIP関節屈曲位での横つまみ。動作は努力性で代償動作が出現し実用性が低く、日常生活や仕事で左手は不使用であった。ボトックス注射後、筋緊張は若干軽減したが、動作時の左示指屈曲は残存したため、手指伸展装具を装着しての訓練を実施。意識化では筋緊張亢進が増強し、バスケットボールでのドリブルやボールパスなど、楽しみながらの無意識下での動作を導入。また、電卓操作や両手でのパソコン操作、定規での線引きなど、職場復帰後も左手の使用が継続されるような課題を導入。機能的電気刺激を使用し、手指伸展をアシストしながらの動作を実施。ストレスを考慮し、CI療法での非麻痺側の拘束は行わず、上肢訓練以外のエルゴメーターなども自主トレーニングに導入。また、モチベーションを向上するため、MAL評価項目は軽度の努力で実施可能なものとした。
    【結果】
     CI療法開始2週間後、12段階グレード左上肢8、手指4。STEF左上肢16点。4週間後外来にて、STEF26点まで向上。その後ボトックスの影響と思われる脱力が軽度出現するも、左手指の動作時の伸展が可能となり、左手を補助手として使用可能となった。
    【考察・まとめ】
     痙縮は、リハビリテーションの阻害因子となる。症例は、左手指の強い痙縮のため、使用が困難となっていた。非利き手の麻痺であり、利き手のみの使用で動作が可能であったことから、左手は学習性不使用でもあったと考える。今回ボツリヌス毒素療法により、痙縮が軽減し積極的な作業療法実施が容易となり、CI療法により左手の使用が促され機能向上に繋がったと考える。また、ストレスを考慮した拘束をしないCI療法が、症例のモチベーションを維持し、退院後の自主訓練の継続や、左手の実生活での使用が可能となったと考える。症例の今後の人生を考えると、貴重な余暇時間を費やしての機能訓練継続ではなく、実生活への汎化が重要であると考える。
  • 宮本 一樹, 川原 扶美, 川原 大和, 斉藤 弘道, 児玉 陽子, 原野 裕司, 北原 雅代, 土井 亮, 志波 直人
    セッションID: 042
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳卒中による上肢麻痺はプラトーに達するとその後の回復は困難となる場合が多い。脳卒中後片麻痺に対しての反復経頭蓋磁気刺激(以下rTMS)については近年多くの報告がなされているが、今回当院にて慢性期の脳梗塞患者に対して上肢機能の更なる改善を試みるべく、rTMSと上肢機能練習を実施する症例を経験したのでここに報告する。本症例においては大学倫理委員会の承認を得て実施された。
    【症例紹介】
     60代男性。93年7月、海綿状血管腫脳内出血にて血管腫摘出術。98年6月再出血にて手術、左半身不全麻痺、左下1/4同名半盲を呈する。職業は造園業を営み自宅は妻と2人暮らし。主訴は左手が緊張すると動かしにくくなることであり、rTMS・リハビリ目的にて入院となる。
    【実施方法】
     2週間の入院期間にてrTMSとCI療法に準じた上肢機能練習を実施。刺激強度は運動野刺激域値の90%MTで1Hzの低頻度連続磁気刺激を健側大脳運動野に施行。1日健側100-1000回、週5日実施。評価及び上肢機能練習はCI療法-道免和久編、中山書店-に準じたShaping項目をrTMS後に午前中2時間、自主練習として午後2時間を週5日実施した。
    【評価:開始時→退院時】
     ROM:手関節他動背屈30°→60°。片麻痺機能評価(12段階回復グレード)上肢7→8-手指3→3。Modified Ashworth Scale(MAS)肘関節1→1・手関節3→2。簡易上肢機能検査(STEF)右97点→100点・左4点→14点。脳卒中上肢機能検査(MFT)右31点→31点・左18点→20点。Wolf Motor Function test(WMFT)44点→58点。Fugl Mayer Assessment(FMA)上肢項目30点→35点。Motricity Index(MI)上肢92.3→92.3。カナダ作業遂行測定(COPM):遂行度3→5・満足度4→7。
    【考察】
     rTMS・上肢機能練習により手関節背屈のROM拡大と片麻痺機能検査MAS、STEF、MFT、WMFT、FMAの各評価にて機能向上がみられた。全指伸展が可能となり、物体のつまみ動作が行えたことで点数の向上につながった。rTMSの効果として脳梁抑制の減少による運動機能改善が報告されているが、今回の評価結果では手指屈筋群の痙性が抑制され手指の伸展が可能となった為と考えられた。この機能改善を持続させる運動訓練としてCI療法に準じた上肢機能練習は確実な効果があったと考えられた。また、COPMにおいては緊張をおさえて上肢を使用することに対する遂行度・満足度が高まり機能的な回復だけでなく精神的充足も図れたのではないかと考えられた。
  • 村田 亮, 阿南 啓太, 高田 理華, 山口 良樹, 北野 晃祐, 菊池 仁志
    セッションID: 043
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は、全身の筋萎縮が進行して徐々に日常生活が阻害される。全身の筋萎縮と筋力低下は、不活動を促進させ、2次的な筋力低下を招く。通常、筋力増強には過負荷が必要である。しかし、ALSに対する過負荷の運動は、筋疲労から疾病進行を助長する危険性があり、負荷量の設定に難渋する。今回は、バイオフィードバックを用いて一定負荷の握力運動を実施したALS患者1名について報告する。
    【症例紹介】
     70歳代男性。利き手:右利き。罹患歴:13年。ALS重症度分類:重症度3。病型:下肢型。現在は、外来通院2回/週と定期的なレスパイト入院(2週間)によりリハビリテーションを継続的に実施している。FIM:80点(食事はスプーンを使用しており、整容は電動歯ブラシを使用している)。ALSFRS-R:35点。
    【方法】
     握力の測定は、手指筋力測定器(SAKAImedEG-200)のスメドレー式握力計を用いて、入院2週間前、入院日、退院日の3回測定した。測定は疲労を考慮して1回の測定とし、測定肢位を肘関節90度屈曲位、手関節中間位とした。握力計の幅は、PIP90度屈曲位で中節骨上に位置させ、症例に把持してもらい調整した。バイオフィードバックは、入院中に手指筋力測定ソフト(ハンドバイオフィードバックシステムEG-290)を用いて入院日握力値の30%の負荷量で握力運動を2秒間×10回で連続12日間実施した。本報告は、当院倫理委員会の承認を得て実施し、ヘルシンキ宣言を尊重し、個人が特定される事が無いよう注意した。また、症例に評価・訓練内容を説明して同意を得て実施した。
    【結果】
     右握力運動は疲労の訴えなく実施可能だったが、手掌部皮膚疾患により左握力運動を中止した。右握力値は、入院2週間前12.4kg、入院日11.1kg、退院日12.2kg。
    【考察】
     ALS患者に対するバイオフィードバックを用いた握力運動は、30%負荷で2週間実施することで握力増強が図れた。握力増強は、2週間の継続的な握力運動により、運動学習効果として手指屈筋群の筋出力が向上した結果と考えられる。30%の負荷量は、症例の疲労感の訴えが聞かれなかった。その為、30%の負荷量は、症例にとって適度な負荷量であったと考えられる。更に、バイオフィードバックは、症例自身が30%の負荷量を容易に把握でき、過用に注意が必要なALS患者の握力運動に有用であろう。入院2週間前から入院日までの握力運動非実施の期間では、握力値の低下が認められた。これは、筋萎縮による握力低下に加え、不動による2次的な握力低下が考えられる。2次的な握力低下を予防する為には、30%程度の負荷量の運動を毎日実施することが必要であると思われる。今回の報告は、シングルケースである為、今後は症例数を増やし、継続的な経過を追う必要があると考えられる。
  • 梅津 清佳, 平塚 剛, 江里口 孝徳, 花房 宏行, 蓑田 かすみ, 村岡 範裕
    セッションID: 044
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年、低頻度経頭蓋磁気刺激療法(以下低頻度rTMS)を用いて脳卒中後の上肢麻痺の回復が促されたとの報告や、CI療法に代表される集中的作業療法は上肢機能の改善に有効との報告が散見されている。そこで、当院では慢性期脳卒中片麻痺者の麻痺側上肢機能障害に対し、短期入院にて低頻度rTMSと作業療法の併用を試みている。今回、上肢機能において6ヶ月の経過を追い、長期的な効果が得られた事例を経験したため報告する。なお、発表に際し本人・家族には説明の上、書面にて了承を得ている。
    【事例紹介】
     10代後半に事故にてびまん性脳損傷と診断され、四肢痙性麻痺(右>左)と高次脳機能障害を認めた30代前半の女性。約1年の入院後自宅退院、身辺動作は自立していたが上肢機能へのニードが強く、週1回外来リハビリテーションを受けていた。右上肢はBrunnstrom stageにて上肢・手指IIIで、物品を掴んでおく事はできるが離すことが難しく、操作は努力的で時間がかかっていた。左上肢は実用手レベル。また、Mini-Mental Stateは20/30点で記憶・注意の面で介入が必要な部分があった。
    【方法】
      入院期間は3週間で、土日を除いた5日間を2回、計10日間のrTMSと作業療法の併用を行った。その前後と、実施3ヶ月後、実施6ヵ月後に上肢機能の評価を行い、評価にはFugl-Meyer Assesmentの上肢運動項目(以下FMA)とWolf Moter Function Test(以下WMFT)を用いた。rTMSは左大脳運動野領域内の手指運動中枢に、運動閾値の60%の強度で1ヘルツの刺激を200回と設定し医師が行った。その後作業療法士(以下OT)が60分間、右上肢に対し自動運動を中心とした個別療法を行った。自主訓練は、佐野らがまとめたshaping項目を参考に課題指向的な物品操作訓練を3時間、OTが声かけや修正を加えながら行った。訓練以外でも右上肢の日常的な使用を促し、退院後は家族へ自主訓練の資料を渡し継続して行ってもらった。
    【結果】
     実施前、実施後、実施3ヶ月後、実施6ヵ月後で比較し、FMAは、31/66点、49/66点、46/66点、47/66点へ、WMFTの課題遂行時間の合計は、801秒、580秒、658秒、520秒へと変化した。物品の掴み離しが行え、操作時の努力性は軽減した。楽に鏡を顔の前にもってこれた、右手でフォークを握って食べた、などの発言が聞かれた。
    【考察】
     上肢、手指機能におけるFMA、WMFTの点数の変化から、上肢、手指機能に改善を認め、それが6ヶ月後まで持続したと考えられた。このことは、低頻度rTMSと作業療法の併用による機能改善が新たな動作の獲得や意欲の向上をもたらし、さらに長期的な自主訓練、右上肢の日常場面での継続的な使用が上肢機能の維持・向上に有用であったことを示唆している。
  • ~CT所見を基に臨床推論を行って~
    田邉 繭子
    セッションID: 045
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、転倒を繰り返した下腿切断の症例を担当して患者理解に難渋したが、CT所見を基に臨床推論を行い、患者理解に繋がったため報告する。
    【症例紹介】
     80才代前半の男性。S49年からアルコール依存症で入退院を繰り返し、現在は断酒に成功。A病院生活支援施設に入所中に左第5趾の壊疽が起こり、H22年6月初旬B病院にて左下腿切断術施行。その時点で症例に義足作製の意志なく、A病院に戻ると義足作製の希望あり。H22年9月下旬義足作製、リハビリ目的にて当院へ入院の運びとなる。
    【理学療法開始所見】
     幻肢(±)、幻肢痛(-)、断端部痛(-)、粗大筋力テストは両上肢・右側下肢4、左側下肢3で、断端長は15.3cmであった。病棟生活でのADL状況はPトイレ使用、車椅子駆動しての移動可能。CT所見では脳質周囲の低吸収域、前頭葉・側頭葉の低吸収域、脳全体の萎縮、視床の高吸収域がみられる。
    【経過】
     訓練開始当初の性格は穏やかであったが、義足作製し、仮義足装着しての訓練を開始すると作業療法の介入を拒む様子や易怒性が出現し、ベッド周囲での転倒を繰り返した。義足を装着しての起立、立位保持、平行棒内歩行、車椅子移乗は可能となり、H23年2月下旬に本義足作製し、A病院へ転院の運びとなる。
    【考察】
     症例は理学療法を介入する中で日によって訴えが二転三転することや自分の考えに固執し、他者からの意見を拒むことに加え、ベッド周囲での転倒を繰り返す状態がみられた。
     症例の変化に合わせてCT所見から臨床推論を行い、症例に大脳萎縮に伴う広範な症状が存在すると考えた。転倒の繰り返しは扁桃体や前頭葉に加え、海馬等の機能低下による危険回避に対する認知や注意の機能低下や短期記憶、ワーキングメモリーの保持困難等の症状によるものと考えた。また、日によって訴えが二転三転することや自分の考えに固執し、他者からの意見を拒むことは、前頭葉の機能低下に伴う情動を抑制する理性脳としての機能低下や意思決定の困難によるものと考えた。
     一般に80才以上の血管性切断は、義足歩行は極めて難しいとされており、CT所見や症例の行動から再転倒により断端部に傷をつくり、義足装着ができない期間を生じることが考えられるため、訓練開始時に目標とした実用的な義足歩行の獲得からベッド周囲での動作獲得に目標を変更した。
     退院時には時折ブレーキのかけ忘れはみられるものの、ベッド周囲での転倒はみられなくなり、ベッド周囲での動作獲得に繋がる義足装着及び、義足装着しての起立、立位保持、移乗が可能となった。上記の動作獲得により、義足作製は症例の転倒リスク軽減に繋がったのではないかと考える。
     今回、CT所見を基に臨床推論を行ったことで、問題行動と思われがちな症例の行動も脳の機能低下によるものであることが分かり、CT所見を基に臨床推論を行うことの重要性は高いと考える。
  • 高橋 博愛, 辻 義輝, 甲斐 有希, 荒牧 健太, 河口 美沙, 池永 勇二
    セッションID: 046
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     脳卒中片麻痺患者においては他疾患患者と比較して障害像は多岐にわたるため、重度障害例ではリハビリテーション(以下リハ)入院期間は長期化する。一方で病院機能分化が進む中、脳卒中片麻痺患者においても在院日数は短くなる傾向にある。そのため、当院でも日常生活活動(以下ADL)回復に要する期間や程度により脳卒中発症早期での病床あるいは転院先の検討が必要とされている。今回、当院での初回歩行時に装具および介助を要した脳卒中片麻痺患者おける短期でのADL帰結との関連をカルテより後方視的に調査した。
    【方法】
     2009年12月から2010年11月に当院に脳卒中急性発症にて入院した105名(死亡退院、再発、重篤な合併症例を除く)のうち、初回歩行訓練を装具および介助を要した17名を対象とした。また、対象患者の2ヶ月後のBarthel Indexあるいは転院時のBarthel Index(以下転帰時BI)と年齢、在院日数、リハ開始時Barthel Index (開始時BI)、発症から起立訓練に要した日数(以下起立日数)、発症から歩行訓練に要した日数(以下歩行日数)、および1日あたりの理学療法実施量(以下PT実施量)との関連をそれぞれSpearmanの順位相関係数にて検討した。統計解析はJSTAT for Windowsを使用した。また、データは個人が特定されないよう配慮した。
    【結果】
     対象患者の平均年齢は、67.6±11.1歳、性別は、男性12名、女性5名、疾患は、脳梗塞10名、脳出血6名、くも膜下出血1名、障害側は、右片麻痺9名、左片麻痺8名、在院日数は、55.4±21.41日、起立日数は15.4±17.33日、歩行日数は24.2±19.94日、PT実施量は1.5±0.63単位/日、開始時BIは、10.0±19.25点、転帰時BIは47.6±27.12点であった。転帰時BIと在院日数(rs=-0.763、p=0.023)、起立日数(rs=-0.705、p=0.0048)、歩行日数(rs=-0.581、p=0.0202)、PT実施量(rs=0.659、p=0.0084)、開始時BI(rs=0.846、p=0.0007)は有意に相関を認めた。
    【考察】
     今回の結果より脳卒中片麻痺患者の短期ADLは、離床時期の違いに大きく影響を受けることを再認識した。また、急性期でのPT実施量の増加は、短期でのADL改善に寄与するものと思われ、発症早期からのPT実施状況も転帰時期でのADL能力の参考になるものと考えられた。対象数が少なく十分な根拠はないが、起立日数および歩行日数にバラツキを認めたことは、当院での離床開始時期について再考を要するものと思われた。
    【まとめ】
     当院での脳卒中片麻痺患者では、短期ADL回復に開始時BI、離床時期、PT実施量が関連すると思われた。
  • 若林 修子, 長野 友彦, 大場 勇輔, 新野尾 嘉孝, 柴田 薫, 川満 尚彦, 山野 優子, 芦塚 美奈子, 江藤 友梨, 野田 沙弥香 ...
    セッションID: 047
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     当院の障害者施設等一般病棟(以下,当病棟)では,入院患者の障害像が多岐にわたり,発症から入院までの日数が長期に及ぶ方が多い.今回の研究では,当病棟における褥瘡患者の現状と悪化要因を明確にし,悪化を防ぐための臨床的要点を考察することを目的とした.
    【対象・方法】
     対象は平成21年1月1日から22年10月31日までの当病棟入院患者175名の内,褥瘡のある30名(発生率17%).診療録より属性項目(年齢,性別,発症から入院までの期間,疾患名等),入院時項目(股・膝関節可動域,排泄自制能力,Hoffer座位能力分類,基本動作能力等),褥瘡評価項目(発生部位,治癒率,治癒期間,ブレーデンスケール等)を抽出.なお,排泄自制能力はBarthelIndexの基準に準じて評価.Hoffer座位能力分類は支持なし~あり,全介助の2段階で評価した.
     (1)現状分析は,属性・入院時・褥瘡評価項目について記述統計量で示した.
     (2)入院中に褥瘡が悪化したものを悪化群,維持・治癒したものを非悪化群に分類し,χ2乗検定,フィッシャーの直接検定で悪化要因を比較分析した.
     (3)褥瘡の悪化群,非悪化群を目的変数とし,属性・入院時・褥瘡評価項目を説明変数としたロジスティック回帰分析を行い,悪化要因を分析した.(2)(3)の結果をもとに,悪化防止策の要点を考察した.統計解析にはJMPver9を使用し,有意水準は5%未満とした.なお本研究を行うにあたり当院の倫理委員会の承認を受けた.
    【結果】
     (1)対象者の平均年齢は64.4±17.6歳,男性19名,女性11名,発症から入院までの期間は595±132日,疾患名は脊髄疾患11名(36%),脳血管疾患10名(33%)が多かった.入院時項目は排泄自制能力の全介助が排尿19名(63%),排便21名(70%),基本動作能力は座位を除く全項目で半数以上が全介助であった.褥瘡評価項目は発生部位において尾骨部18箇所(35%),仙骨部12箇所(23%)の順で多く,全体の治癒率は78%,治癒期間は18日であった.
     (2)悪化群は11名(37%)であった.悪化要因として,膝伸展-10°以上,排尿・排便自制能力で有意差を認めた.
     (3)膝伸展-10°以上とHoffer座位能力分類(オッズ比3.3),排尿と排便自制能力(オッズ比0.03)との交互作用間で有意差を認めた.
    【考察】
     排泄自制能力,座位を除く基本動作能力において,半数以上が全介助であった.発生部位は尾骨と仙骨で全体の約6割を占め,約8割が治癒していた.全体の約4割が悪化し,要因として膝関節拘縮,排泄自制能力が挙げられた.Garberらは,背臥位で股関節屈曲30°,膝関節屈曲35°で最も仙骨部に圧力がかかると報告しており,膝伸展-10°以上の制限が悪化要因に示されたことは新たな知見であった.また膝関節拘縮がありかつ座位能力が全介助であれば,悪化するリスクが約3倍高まることも確認された.今後の対応としては,1:清潔に留意した排泄ケア,2:関節可動域の維持・改善(特に膝関節),3:座位能力の獲得を目指したポジショニング,シーティング等が要点になると考察できた.
  • 大重 匡, 粟田 美湖
    セッションID: 048
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     簡便な温浴は、浸す面積を小さくすれば洗面台などでも行え、在宅での治療にも用いることが出来ると考える。今回は前腕浴よりも簡便な部分浴として、手だけを温水に浸す手浴(手浴)と母指だけを温水に浸す母指浴(母指浴)を施行し、身体への影響を比較検討した。
    【方法】
     対象者は健康な若年男性12名(内訳:年齢21.1±0.7歳、身長173.9±5.5cm、体重64.2±6.5kg(Mean±SD)) である。部分浴は十分な安静後、室温19℃前後の環境で、41℃の部分浴を20分間実施した。母指浴は母指IP関節までとし、手浴は両手関節までとした。なお両浴はランダムに1日以上の間隔を空けた。湯温はTERUMO社製MODEL CTM205を使用し、41℃に保つよう設定した。 測定項目は舌下温、右前腕皮膚血流量、皮膚温、主観的温感強度、血圧、心拍数とした。測定は安静時と部分浴20分経過時に測定した。舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205を用い、血圧はOMRON社製デジタル自動血圧計HEM-7700、心拍数は日本光電社製BSM-2400を使用した。統計処理は2群間の平均値の差の検定を関連2群でパラメトリック検定とノンパラメトリック検定を用いた。
    【結果】
     舌下温は母指浴では安静時より0.51±0.30℃上昇し、手浴では安静時より0.58±0.40℃上昇した。母指浴と手浴の比較では有意差は認めなかったが、安静時の舌下温と比較すると両浴で有意に舌下温は上昇した(p<0.01)。右前腕部の皮膚血流量は、安静時より母指浴で0.9±1.8増加、手浴では6.1±7.8増加を認め、母指浴より手浴が有意に増加した(P<0.05)。主観的温感強度は母指浴で3.1±0.3点、手浴で3.2±0.4点となり、有意差は認めなかった。心拍数は、母指浴では安静時より0.25±5.7bpm減少し、手浴は6.8±8.4bpm増加し有意差を認めた(P<0.05)。血圧は、両浴で収縮期血圧、拡張期血圧ともに一桁程度低下した。
    【考察】
     舌下温は、温められた表面積に依存すると考えられており、堀切らは、41℃10分間の全身浴で舌下温が0.7~1.0℃上昇すると報告している。今回の結果では両浴ともに0.5℃以上上昇した。母指浴は全身浴と比較すると温める表面積は非常に小さい面積となるが、手浴と同程度まで上昇したことは、温める面積が小さくても、温浴効果は得られることが分かった。また、母指浴では大きな循環の促進を伴わない体温の上昇がみられ、また主観的な温感も19℃という比較的涼しい環境下で「ちょうどよい」という快適な結果になった。一方、手浴においては循環機能の促進を伴う体温の上昇がみられた。以上のことから、治療効果として循環を促進したい場合は手浴が適しているが、自覚的な温感を得たい場合や循環以外の治療効果を期待する場合は母指浴でも十分効果があるということが考えられた。
    【まとめ】
     1.本研究では健康な若年男性12名に対し母指浴と手浴を行い、身体への変化を観察した。
     2.舌下温は母指浴と手浴ともに約0.5℃上昇した。主観的な温感も同等に「ちょうどよい」という結果であったが、皮膚血流量、心拍数については手浴の方が有意に上昇した。
  • ~5歳児を対象にして~
    甲斐 美穂, 冨永 浩一, 松本 武士, 北嶋 秀一, 田中 良和, 鵜池 弘貴, 野上 翔子, 角 典洋, 永利 知也, 村田 伸
    セッションID: 049
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     ヒトには,利き手や利き足のように機能的に非対称であることが報告されている.先行研究では,健常成人の上肢については明らかな一側優位性が認められ,下肢では明らかな優位性は認められていない.しかし,これらの研究では健常成人を対象としており,幼児を対象とした報告はない.そこで今回,健常な5歳児を対象に,上下肢の一側優位性について検討した.
    【対象】
     対象者は,健常な5歳児18名で,内訳は男児10名,女児8名,平均身長110.7±3.4cm,平均体重19.6±2.4kgである.対象者およびその保護者には,研究内容と方法を十分に説明し,研究参加の同意を得た後,測定を開始した.
    【方法】
     上肢については「箸を持つ方の手」を利き手とし,下肢については「ボールを蹴る方の足」を利き足とした.上肢の筋力の代表値には握力を用い,下肢筋力の代表値には大腿四頭筋筋力を用いた.握力の測定には,デジタル式握力計(株式会社OG技研)を使用した.測定肢位は,左右上肢を体側に垂らした安静立位で,肘関節伸展位のまま,左右各2回ずつ測定し,その平均値を採用した.大腿四頭筋筋力の測定については,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製)を使用した.対象者の下腿遠位部にセンサーを設置し,端坐位,膝関節90°屈曲位で最大等尺性収縮筋力を左右2回ずつ測定し,それぞれの最大値を代表値とした.上腕周径は上腕の最大部,前腕周径は前腕最大部を測定した.大腿周径は,膝蓋骨上縁から20cm上部を測定した.下腿周径は下腿の最大部を測定した.統計処理は,利き側,非利き側の測定値の比較には対応のあるt検定,測定値間の相関分析にはピアソンの相関係数を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
     「箸を持つ方の手」については,18名全員が右と認識していた.よって,対象者が認識している側を利き手,その反対側を非利き手として分析した.下肢については18名全員が右下肢でボールを蹴っていた.よって,ボールを蹴った側を利き足,その反対を非利き足として分析した.握力について,利き手(平均10.5±1.5kg)と非利き手(平均10.0±1.6kg)を比較すると,有意差は認められなかった.また,前腕周径についても,利き手(平均16.5±1.0cm)と非利き手(平均16.6±1.0cm)であり,有意な差は認められなかった.利き足の大腿四頭筋筋力は平均7.1±1.3N,非利き足は平均6.6±1.6Nであり,有意差は認められなかった.大腿周径(利き足平均30.3±2.2cm,非利き足平均29.9±2.5cm)についても,有意差は認められなかった.ただし,握力と前腕周径(r=0.41,P<0.05),大腿四頭筋筋力と大腿周径(r=0.56,P<0.05)では,共に有意な正の相関が認められた.
    【考察】
     今回対象とした5歳児の周径,握力,大腿四頭筋筋力は,全ての項目で一側優位性は認められなかった.先行研究では,利き手と認識するのは小学生以降と報告されており,5歳児の段階で利き手,非利き手の差はほとんどないのかもしれない.下肢の場合は,歩行を中心とした下肢の体重支持機能を効果的にしている結果と推察した.今回の結果から,5歳児の理学療法を行う際には,利き手や利き足の影響を考慮する必要性が少ないことが示唆された.
  • 大西 弘展, 後藤 真希子, 岡本 伸弘, 増見 伸, 山田 学, 中村 浩一
    セッションID: 050
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     静的ストレッチング(Static stretching)は,ボブ・アンダーソンにより日本に伝えられ,治療やパフォーマンス向上などのために臨床やスポーツ現場で広く用いられている.そのため,臨床研究から基礎研究まで超音波エコーや画像解析などを使用した様々な観点から研究が行われており,その効果として可動域の改善と筋緊張の低下・血液循環の改善・筋痛の緩和・障害予防・パフォーマンスの改善などが共通して報告されている.これらの効果を報告した先行研究は,ストレッチング直前・直後を比較した「即時効果」がその殆どである.しかし,実際の臨床現場では効率的な運動指導ならびに運動学習が重要であり,そのため「即時効果」だけでなく,「持続効果」も知る必要がある.「持続効果」について先行研究を探索したところ,ストレッチ直後から10分後までの可動域の改善を認めたとういう報告はあるが,それ以降での知見は得られていない.そこで我々は先行研究と同様の方法を用いて,10分後及びそれ以降の可動域改善における「持続効果」について検討した.
    【対象】
     下肢に形態的変化の既往が無い健常な男女24名(男:15名,女:9名)右下肢24脚を対象とした.年齢27.7±4.5歳,身長166.5±7.5cm,体重59±12.8kgであった.これら対象者には,研究の趣旨および方法を十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した.
    【方法】
     評価前に対象者の運動条件を整えるため,エルゴメーター(5min,60w)を課した.角度調節が可能なTilt table(OG技研社製)を用いて,足関節最大背屈角度にて2分間の静的ストレッチングを実施した.ストレッチングの直前,直後,10分後,20分後,30分後,40分後,50分後,60分後に足関節背屈可動域を測定した.測定条件として踵部離床や膝関節屈曲が出現する直前,あるいは足関節周辺に疼痛を生じる直前の角度を「背屈可動域」とした.測定時にもストレッチング効果を与えてしまう影響を踏まえ,各時間の測定については同日中には行わず,先行研究を参考に7日間以上あけて行った.各時間での足関節背屈可動域を分散分析により検定を行い,多重比較検定にはTukey-Kramer法を用いた.なお,統計処理にはSPSS 11.5Jを使用し,危険率5%未満を有意とした.
    【結果】
     (1). 直後,10分後,20分後,30分後ではストレッチング直前との有意差を認めた.(p<0.05)
     (2). 40分以降ではストレッチング直前との有意差を認めなかった.(p>0.05)
     (3). 直後と10分後では有意差を認めなかった.(p>0.05)
    【考察】
     今回,ストレッチングにおける持続効果の再検討を行った.研究結果から,ストレッチング10分後までは先行研究と同様の効果を認め,さらに10分以降おいても,ストレッチング終了後30分まではその効果を認めた.しかしながら,それ以降は関節周囲における軟部組織の可逆的変化の影響からか持続効果は認められず,これらの結果から運動療法における新たな指針が示唆されたものと考える.
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