抄録
【はじめに】
今回、老年期幻覚妄想を伴う腰痛の症例に対し、訪問リハビリテーションを実施した。腰痛が幻覚妄想によるものと身体に起因するものが混在しており、それぞれにアプローチした。腰痛の軽減に伴い日常生活活動に改善がみられたのでここに報告する。なお、この報告をするにあたり、対象者と家族に説明を行い、同意を得ている。
【症例紹介】
60歳代女性。要介護度2。平成21年12月腰部圧迫骨折。平成17年8月脳梗塞(左片麻痺)。平成10年4月から老年期幻覚妄想状態あり。家族との関わりは2人暮らしの夫が主。「腰痛の為何も出来なくなり、寝たきりに近い状態となった。」と夫より平成23年2月に介護支援専門員を通して相談あり。腰痛の原因は不明。
【初期評価】
人との交流は避ける傾向にあり、介護保険サービスの導入など新しいことへの受け入れは拒否的である。起居動作時に右腰部に痛みを訴える。Br.Stage上肢・手指・下肢共にV、HDS-R29点、Barthel Indexは40/100点でほとんどベッド上での生活である。
【方法】
ベッド上での体幹を中心とした自動運動や起居動作など身体運動時に痛みがあるときは腰痛が身体に起因するものと判断し、関節可動域運動、筋力維持・増強運動、起居動作運動、歩行器歩行運動の中で実施可能なものを行った。一方、ベッド上安静時には無い痛みが会話後に生じる、実施前にVASで10/10点と返答しながらも起居動作や起立動作が行えるなど身体的な原因が考えられにくいものは、腰痛が幻覚妄想によるものと判断し、対象者の訴えに対し傾聴を行い、関節可動域運動など体動の少ないものを行った。
【結果】
平成23年4月には、起居動作や歩行器歩行時のVASは0/10点、Barthel Indexは65/100点、室内の移動が歩行器使用で可能、昼食は居間の椅子座位で可能となった。一方で、ベッド上安静にも関らず疲労を訴え歩行練習ができない、原因のない息苦しさを訴え訪問リハビリテーションができないなどの訴えをすることもあった。
【考察】
老年期幻覚妄想状態の特徴は人格変化や思考過程の乱れが少ないことが挙げられる。本症例でも腰痛、疲労や息苦しさといった身体的な訴えは表情や態度からは一見しただけではわかりにくくなっている。しかし、ベッド上安静時には無い腰痛が会話をしただけで起きるなど、幻覚妄想が生じる時の心の変化を捉え、その際には対象者が感じている不安に共感を持って耳を傾けることを主にリハビリテーションを実施した。それにより、幻覚妄想は徐々に少なくなり、身体に起因する腰痛へのアプローチが可能となった。その際はVASでこまめに安静時、体動時の腰痛の程度を確認することを中心に行った。新しい運動の導入については慎重に検討した。以上のような対応が腰痛の改善につながったと思われる。