抄録
【はじめに】
棘上筋、棘下筋完全断裂と肩甲下筋部分断裂を呈し、棘上筋の関節鏡視下腱板修復術(以下、ARCR)を施行後16週経過した症例に対して、肩甲上腕リズム(以下、SHR)と僧帽筋下部線維に着目して理学療法を施行し、自動挙上の改善がみられた症例を経験したので報告する。なお本研究については本人へ説明し同意が得られた。
【症例紹介】
60代前半、男性、大工。診断名は右肩腱板断裂。現病歴はH22年9月上旬仕事をしていて右肩に音がし、疼痛の出現と挙上困難となる。他院にて関節注射行うも症状取れず10月下旬に当院紹介となる。MRIより棘上筋、棘下筋完全断裂と肩甲下筋部分断裂を認め、11月上旬にARCR施行となる。
【理学療法評価】
運動前の疼痛は外転挙上90~100°、下制70~60°時に三角筋前~中部線維と上腕二頭筋長頭にNRS7/10。ROMは肩関節自動(他動)屈曲130°(150°)外転100°(150°)外旋0°(30°)内旋L4(L3)、筋力MMTは肩関節挙上3外旋2内旋2、肩甲骨周囲筋4、SHRは肩甲骨挙上・内転・上方回旋が健側に比べて先行し、僧帽筋上部と三角筋の過剰収縮がみられた。また胸椎伸展が早期にみられた。
【理学療法】
肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節を中心としたROM運動、僧帽筋下部線維の収縮運動、レバーアームを考慮してのSHR運動
【結果】
疼痛はNRS1.5~2/10に軽減し、ROMは肩関節自動屈曲150°外転150°外旋10°内旋L3、僧帽筋上部と三角筋の過剰収縮が軽減したことによりSHRの改善がみられ、また胸椎の早期伸展が消失した。
【考察】
棘上筋の一次修復により外転100°まで可能であったが、三角筋と僧帽筋上部の過剰収縮による肩甲骨挙上・内転・上方回旋と胸椎伸展の代償動作、三角筋前~中部の疼痛がみられた。これは棘下筋、肩甲下筋断裂によるtransverse force coupleの破綻が影響したものと考えられる。僧帽筋下部線維の収縮とレバーアームを考慮してのSHR運動を図ることにより、肩甲骨上方回旋を促し、三角筋の収縮効率が高められ、外転150°獲得と三角筋の疼痛軽減が図れたものと考えられる。大断裂例の棘上筋一次修復のみで理学療法を展開する場合、修復腱にストレスをかけないようにSHRの再教育を考慮していく必要があり、僧帽筋下部線維へのアプローチも有効と考えられる。