九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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褥瘡治療における理学療法士の役割
~持ち込み褥瘡患者に対して治療介入した1例~
*三木 亘典*久原 雅代*山村 陽介*大川 裕行
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p. 105

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抄録

【はじめに】

超高齢社会を迎え、自宅や病院、施設において自力体動困難に陥る高齢者が増加している。臥床を強いられる高齢者は、仙骨部を中心に褥瘡を発生させることが多い。このような中、当院においても褥瘡対策委員会が組織され、理学療法士も参画して入院患者を対象に集中的治療を実施している。今回、その活動を報告するとともに褥瘡治療における理学療法士の役割について若干の考察を加え報告する。

【活動報告】

当院の褥瘡対策委員会のメンバーは、医師、看護師、栄養士、薬剤師、理学療法士で構成され、毎週1度褥瘡患者の回診を行い、患部の状態の観察と記録、集学的意見の交換を行っている。委員会における理学療法士の役割は、褥瘡患者および褥瘡リスク患者のケア内容を把握して、ポジショニングを検討し、画像に残して正確に病棟看護師に申し送る情報発信が中心となっている。

【事例紹介】

87歳、女性。当院外来受診時より、右大転子部に水泡、発赤を伴う褥瘡を認めた。自宅において軟膏剤等で褥瘡の処置をしていたが悪化。さらに左大転子部にも褥瘡発生したため、褥瘡治療目的で当院入院となった。合併症は、脳大動脈瘤術後、冠動脈狭窄、狭心症、高血圧症、アルツハイマー型認知症であった。入院時評価(H27.11.2)は、JCS:Ⅲ-2、FIM18点、ブレーデンスケール9点、TP5.6g/dl、Alb2.3g/dl、Hb8.3g/dlであった。また、褥瘡部位評価(DESIGN-R)では左右大転子部[D-4,E-6,s-9,I-3,G-6,N-3,P-12:39点]であった。この症例に対して効果的な全身の体圧分散を図るためにエアーマットベッドを使用した。また、1日3回のスキンケアと高気圧酸素治療が行われた。理学療法士は、体圧測定器を用いて局所の圧を測定し、褥瘡部位に圧迫が加わらない臥位姿勢を検討してポジショニングを決定した。その肢位を画像に記録して、2時間毎の体交・除圧を病棟看護師に申し送った。理学療法は離床を中心に実施し、車椅子座位時間を長く確保できるよう、シーティングクッションを使用した。

【説明と同意】

本症例の御家族には、症例報告させていただく旨を説明し同意を得た。

【結果】

再評価(H28.3.29)の時点で、DESIGN-Rは左右大転子部[D-3,e-3,s-3,i-0,g-3,n-0,P-9:18点]まで改善し、TP6.6g/dl、Alb2.8g/dl、Hb10.7g/dlと向上がみられた。また、全身状態に応じて離床を中心に理学療法を行ったことでJCS:I-3、FIM22点と徐々に覚醒レベルの向上や離床時間の延長に繋がり、車椅子座位時間が5~10分から1時間程度まで持続可能となった。介入当初は困難であった端座位保持も5分程度可能となった。

【考察】

褥瘡改善には、除圧を含めた局所管理に加え栄養管理が重要である。局所管理において理学療法士の役割は、患者の身体機能を把握していることを活かして、患部の除圧について深く関わることである。その際、褥瘡発生に至った身体的特徴やベッド上での動作の特徴を踏まえ、臥位姿勢や車椅子座位姿勢のポジショニングを検討することが重要となる。また、患者の離床を促し、全身の筋力を維持して関節拘縮の予防を通じて体圧の集中を防ぐことに努め、褥瘡発生予防に寄与することが理学療法士の役割である。

【まとめ】

当院では多職種が連携・協働して褥瘡管理を行っている。その中に理学療法士が参画し、理学療法の実施に加え、ポジショニングに関するアドバイスを行うことで褥瘡の早期改善に貢献できる可能性がある。

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例の御家族には、症例報告させていただく旨を説明し同意を得た。

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