九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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腰椎手術前・後における腹部体幹筋の筋厚変化
早期体幹筋トレーニングと術後疼痛の関係について
*藤川 寿史*藤崎 友輝*木村 玲央*田丸 智章*宮﨑 雅司*井尻 幸成*榊間 春利
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p. 109

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抄録

【目的】

腰椎手術患者の術前・術後の背筋力と腹筋力の不均衡は術後の痛みや活動制限に関係している。そのため、ローカル筋(腹横筋や多裂筋など)やグローバル筋(腹直筋や外腹斜筋など)の活動を促進する体幹筋トレーニングは重要になる。しかしながら、腰椎術後リハビリテーションにおける適切な介入方法に関してはよく分かっていない。当院では腰椎手術前後から下部体幹の安定化を目的としたトレーニングを行っている。本研究の目的は、腰椎手術患者のdraw-in ex、bracing ex、頭部挙上運動における腹横筋、内・外腹斜筋の筋厚を計測し、術前後の筋厚変化とトレーニングの有用性、痛みとの関連を検討することである。

【方法】

対象は腰椎疾患により観血的腰椎手術適応となった20名(男性15名、女性5名、69.7±11.2歳)とした。手術前日、術後2日目、術後7日目日における腹横筋、内・外腹斜筋の筋厚を超音波診断装置(東芝社製、リニアプローブ)を用いて安静時、draw-in、bracing、頭部挙上時にそれぞれ計測した。測定は仰臥位でプローブの位置を前腋窩線と臍部水平線の交点とした。draw-in、bracing、頭部挙上は術前に運動方法の確認を行い過度な努力や痛みを伴わない範囲での運動とし、安静時は呼気終末で筋厚を計測した。計測前に健常成人4名を対象として検者内信頼性を級内相関係数(ICC)によって検討した結果、腹横筋0.888、内腹斜筋0.821、外腹斜筋0.721であり高い信頼性が得られた。統計学的検定は反復測定による一元配置分散分析を用い、多重比較検定を実施し、有意水準は5%とした。さらに、20名のうち手術前日、術後2日目、術後7日目の安静時腰部痛をVASにて計測できた9名のVAS数値の変化量と各筋厚の変化量をピアソンの相関係数を用いて検定を行った。

【結果】

安静時の腹横筋筋厚は術前と比較し術後7日目で有意に低下した。腹横筋筋厚はdraw-inとbracingで有意に増加し、内腹斜筋の筋厚はbracingと頭部挙上で有意に増加した。体幹筋トレーニングと疼痛の関係において、術前から術後2日目のVAS変化量と頭部挙上時、draw-in時の外腹斜筋の筋厚変化量に有意な負の相関がみられた。また、術後2日目から術後7日目のVAS変化量と安静時腹横筋の筋厚変化量に有意な正の相関がみられた。

【考察】

今回、疼痛の変化と関係なく術後に安静時腹横筋の筋厚が減少することが示唆された。これは、術後の疼痛よりも手術侵襲による問題や術後安静が筋厚減少に影響していると考えられた。また、腰椎術後患者に対する、draw-in ex、bracing exは腹部筋群を活動させる術後運動療法として有効であることが示唆された。

疼痛との関係において、術後の痛みが体幹筋トレーニング時の腹部筋厚変化に影響し、特に頭部挙上運動時の外腹斜筋が術後疼痛の影響を受けやすいことが示唆された。頭部挙上は重心移動を伴う抗重力運動であり、起居動作に重要である。そのため、疼痛を考慮した適切な起居移動方法を選択することが早期離床につながると考えられた。

【まとめ】

腰椎手術前後の腹部筋群の筋厚変化と疼痛の影響について検討した。術後の筋厚変化において、内・外腹斜筋と比較して腹横筋が最も影響を受けやすく、安静時腹横筋の筋厚は術後に減少することが示された。術後運動療法として、draw-inや bracing exが有効であることが示唆された。また、外腹斜筋の活動は疼痛の影響を受けやすく、疼痛を考慮した起居方法の選択が重要であると考えられた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究の実施に際し、被験者に対して口頭にて研究趣旨を十分説明し同意を得た上で実施した。開示すべき利益相反はない。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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