九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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女子バスケットボールにおけるACL損傷予防の取りくみ
~顧問教育の重要性~
*永吉 由香*繁松 敬幸*山口 佳介*堀部 奈津美*瀨口 真太朗*舌間 崇士*木山 貴彦*秋本 亮一
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p. 122

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抄録

【はじめに】

我々は、2000年より女子バスケットボール(以下、バスケット)部に帯同し、スポーツ現場で活動している。

前十字靭帯(以下、ACL)損傷は女子バスケットで多く受傷するとされ、実際にこの16年の中で多くの損傷を目の当たりにしてきた。これに対し、さまざまな予防の報告と共に、そのエビデンスも確率されてきていることから、我々は地域の中学、高校、大学の女子バスケット部へ出向きACL損傷予防クリニックにて損傷予防トレーニングの指導を施行し、その成果を含め報告してきた。しかし近年、ACL損傷予防トレーニングをチームの練習に取り入れるか否かは顧問教諭次第であり、選手へのACL損傷予防クリニックだけでは発生を減少させることが難しいと実感するようになった。

今回、全国の高校女子バスケット部顧問教諭を対象にACL損傷に対する意識調査と、その結果から顧問教育を施行したので、その結果をここに報告する。

【方法】

全国の高校女子バスケット部顧問教諭52名を対象に直接記載のアンケート調査を実施した。アンケートの質問項目は①最も恐れているケガは何ですか?②ACL損傷予防トレーニングをしていますか?とした。

【結果】

①ACL損傷を最も恐れている88%(46名)、②医療機関から指導を受けた予防トレーニングを施行している9%(5名)、筋力トレーニングをしている%(23名)、膝が内に入らないように指導している%(11名)、時間が取れない%(8名)、必要を感じない(予防できると思わない)%(5名)。

【取り組み】

1)中学・高校のカップ戦終了後に顧問教諭と参加選手、父兄を対象にACL損傷予防に対する講義の実施

2)顧問教諭が集まる会議時等でのACL損傷予防に対する講義の実施

3)顧問教諭から依頼があった部に出向いてのACL損傷予防クリニックの実施

4)病院に来院した患者の顧問教諭に依頼し、顧問教諭と参加選手、父兄を対象にACL損傷予防に対する講義の実施

【考察】

バスケットボールは、トラベリングというファールを起こさず、至近距離にいる相手選手と接触しながらカッティング動作へ移行していく事、相手選手が1m以内に位置した状態でのジャンプの着地やカッティング動作が多い事、片脚着地を強いられることが多い事等からACL損傷の受傷が非常に多い。近年、我々の世界では予防トレーニングに対するエビデンスが確立され、予防の概念が広まっている。そのため、選手へのACL損傷予防クリニックを行ってきたが、そこに顧問教諭が同席しない場合があり、さらに試合場では複数の顧問教諭の「どうしようもないでしょ」「しょうがないケガだからね」「切れるほど早い動きなんかできない選手だから大丈夫だよ」という発言を耳にし、予防の知識が現場に届いていない事を痛感している。

今回のアンケート結果から、ACL損傷が一番怖いと思ってはいるが、その予防に対しては「膝を内に入れないように言っている」「筋トレをたくさんさせている」と回答した顧問教諭が多く、「予防できると思わない」という回答もあるほど予防の知識の広まりが狭いことが明確になった。

これに対し、顧問教諭を対象に講義を行うことで、「選手に予防トレーニングを取り入れたい」というACL損傷予防クリニックの依頼が増えた。これはACL損傷の発生率の低下につながり、我々理学療法士にできる大きな地域貢献であると思われる。

しかし、まだまだ予防の知識が広まったとは言い難く、今後更なる普及を継続していきたいと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者には、ヘルシンキ宣言に基づきあらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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