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【はじめに】
歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイド(米Innovative Neurotronics社製、帝人ファーマ―株式会社、以下WA)は、傾斜センサーで下腿の傾きを検知し腓骨神経への電気刺激によって足関節の背屈を補助することができ、成人の下垂足や尖足患者への歩行能力向上の効果が多く報告されている。今回、学童期の脳卒中患者にWAを使用し、AFO使用下の歩行速度の向上が認められたので報告する。
【方法】
脳動静脈奇形による左被殻出血にて右片麻痺を呈した学童期男児(BMI15)。発症より54病日目に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院。WA導入時(76病日目)のBrunnstrom Stage(以下Br.stage)はⅥ‐Ⅵ‐Ⅲ~Ⅳ、感覚は触圧覚、運動覚ともに軽度鈍麻、右下腿三頭筋・足底筋に筋緊張亢進を認めModified Ashworth scale2、失語症を含む高次脳機能障害は認めなかった。歩行はTamarack足継手AFOにて監視レベルで右膝関節にロッキングを認めた。WA導入期間は76病日目から退院までの5週間とした。週5日間AFO下にWAを装着しtilt modeにて40分間の歩行練習を実施した。10m歩行速度をWA実施前、WA実施中、WA実施後に測定した。統計学的分析には日数と各10m歩行速度の相関関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検定し、有意水準は5%未満とした。
【結果】
WA導入時の10m歩行速度はWA実施前12.4秒、WA実施中12.3秒、WA実施後12.6秒で、5週間後の最終時10m歩行速度はWA実施前6.7秒、WA実施中7.5秒、WA実施後6.7秒と歩行速度は速くなった。また日数と歩行速度の相関関係は、WA実施前はr=-0.91、WA実施中はr=-0.86、WA実施後はr=-0.93となり、それぞれ高い負の相関関係を認めた。WA導入後、歩行時の右膝関節のロッキングは消失し、WA導入1週後の右下腿三頭筋・足底筋の筋緊張はModified Ashworth scale1+、屋内AFO独歩自立となった。WA導入後3週目には屋外AFO独歩自立、5週後の最終時の下肢Br.stageはⅣ、触圧覚、運動覚は正常へと改善を認めた。
【考察】
学童期10歳から14歳の健常者の10m歩行速度は7.56秒とされる。本症例はAFO独歩が可能であるも初期時WA実施前の10m歩行速度は12.4秒と歩行速度の低下が認められた。WAの腓骨神経への経皮的電気刺激は足関節背屈を誘発し、かつ拮抗筋である下腿後面筋の筋緊張を抑制するとされることより、歩行速度の向上と歩容の改善を目的にWAの導入を試みた。WA導入後、右膝のロッキングが消失し歩容の改善が認められた。これは、WAが足関節背屈運動能を向上させ、下腿後面から足底の筋緊張を低下させたことで、Tamarack足継手AFO使用下での踵接地を出現させ下肢体幹への運動連鎖が適正化されたことが一要因と考えられた。WA導入後10m歩行速度はWA実施前、中、後とも高い相関関係を持って向上した。退院前には10m歩行速度はWA実施前6.7秒となり健常者の10m歩行速度のレベルまで達することができた。退院後は、学校生活を含めてAFO使用下での自立した生活を送ることができている。本症例においてWAはAFO歩行において歩容を改善し歩行速度の向上を促す可能性があることが考えられた。今後、症例数を増やしWAの歩行能力向上に対する有効性を検証していく必要がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に関して保護者の承諾、当院の臨床研究審査委員会の承認を得た。また医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。